ガソリン車とHV車
シエンタは、トヨタで最小のミニバン。全長4235mm、全幅1695mm、全高1675mmの車体サイズは、ライバルであるホンダのフリードとほぼ同じ大きさである。
そのデザインは個性的だ。顔つきはハイブリッド車(HV)のプリウスαやアクアの流れをくむもので、ヘッドライトの後ろからフォグランプ、さらにラジエーターグリルの下まで回り込む黒い縁取りが独特の表情をつくり出している。車体色も、テーマカラーのエアーイエローやグリーンマイカなど鮮やかで明るい色が設定されている。
好き嫌いがはっきりしそうなデザインながら発売以来人気になっている。1カ月間の受注台数は月間販売目標の7倍に当たる4万9千台に達した。このうち、8月に登録されたのは7736台。現在、数カ月の納車待ちという。
シエンタには、1.5リットルガソリンエンジンとモーターを組み合わせたHVと、燃費を改善した新型1.5リットルガソリンエンジンを搭載したモデルがある。受注の内訳はちょうど半々という。
両モデルとも、省燃費性能はミニバンでトップクラスだ。HVはガソリン1リットル当たり27.2km(JC08モード)、ガソリン車は20.6kmとなっている。フリードはHVが21.6km、ガソリンが16.6kmで、いずれもシエンタが上回っている。フリードは来春に予定されているモデルチェンジで巻き返しを図るのだろう。
新型シエンタの大きな進化は、安全運転支援システム「トヨタ・セーフティ・センスC」の採用。トヨタは予防安全システムの採用で後れを取ったが、その分、高性能のシステムに仕上げた。
このシステムはカローラクラスまでの小型車を対象にしている。レーザーレーダーと単眼カメラを利用して前方の障害物を検知し、衝突の危険がある場合にはドライバーにブザーとディスプレーで警告する。それでもブレーキを踏まない場合には自動ブレーキが作動する。トヨタのシステムは、ブレーキが作動する速度域が時速10~80kmと広いことが特徴。最大で30km減速するので、低速域では衝突を回避し、速度が高いときでも被害を軽減してくれる。
加えて、走行車線からはみ出しそうになったときにブザーとディスプレーで警告を出す車線逸脱回避と、対向車のヘッドライトを感知してハイビームとロービームを自動で切り替えるオートマチック・ハイビームの機能を備える。
全グレードにメーカーオプションで装着でき、価格は5万4千~9万1800円。事故防止のためぜひとも装着したいが、こういったシステムは全車標準装備の方が好ましい。
スペースを有効利用
ミニバンとしての使い勝手はどうだろうか。2列目シートは2人掛け(6人乗り)または3人掛け(7人乗り)で、運転席・助手席へはウオークスルーが可能。2列目のシートは座面が運転席・助手席よりやや高くなっているので前方が見やすく、圧迫感がない。足元のスペースも十分である。
2人掛けの3列目への乗り降りは、2列目のシートを前方に跳ね上げる必要がある。操作は簡単で、背もたれを前に倒してから座面を持ち上げればいい。
3列目は、大人が乗るにはやや狭い。2列目を少し前にスライドさせ、空間を上手にシェアして座るといった感じだ。それにしても、全長わずか4.2mというコンパクトな車体に7人が乗れる実用性は大したものである。
後席のドアは左右ともスライドドアで、開口部は従来モデルより50mm広くなっている。また、床の高さが地面から330mmと低いので、子どもやお年寄りも乗り降りしやすい。上級グレードには、ドアハンドルのスイッチを押すだけで開閉するワンタッチのパワースライドドアが設定されている。
5人までで利用する場合には、3列目シートを2列目の下に格納して高さ1085mm、幅1260mmの大きな荷室スペースを作ることができる。2列目シートも跳ね上げれば、26インチの自転車を2台積むことも可能だ。
ちょうどいい大きさ
シエンタの一番の魅力は「ちょうどいい大きさ」だろう。家族全員で出かけるときには3列目のシートを利用するが、普段は狭い道を走ったり、買い物でスーパーの駐車場に止めたりするので大型のミニバンでは持て余してしまう--。そんな使い方にぴったりだ。
運転席に座ったときの目線の高さは乗用車よりやや高く、箱型のミニバンよりは低い。シートは左右の支えが割合にしっかりしているタイプで、座り心地は悪くない。ミニバンでありながら重心位置は低いので、カーブが続く道でも乗用車と同じ感覚で運転することができる。
試乗したのは1.5リットルガソリンエンジン搭載車。スタートはスムーズで、するすると加速する。しかし、アクセルを大きく踏み込んで一気にスピードを上げようとすると車体の重さやパワー不足を感じてしまう。モーターでアシストするHVの方が動力性能の満足感は大きいかもしれない。
それでも、ガソリンエンジン車でリッター20kmを超える省燃費性能は魅力だ。HVとの燃費差は7km。7人乗りのGタイプで比べると、ガソリン車とHVの価格差はおよそ35万円ある。ガソリン車は案外お買い得のようだ。
シエンタの購入を検討している人に強いてアドバイスをするなら、展示車や試乗車の運転席に座って後方を見て欲しい。後部座席の背もたれが高いので、バックする際にヘッドレストが視界に入ってくる。できればオプションのバックカメラを装着したい。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴40年。紀伊民報制作部長。