豪華仕様も設定
荷物がたくさん積めるウェイク、子育てファミリーに人気があるタント、低燃費・低価格のミラ・イース、スポーツカーのコペンなど、ダイハツの軽乗用車はそれぞれに個性的である。その中でムーヴは、バランスの良さが持ち味のスタンダードなモデルという位置づけだ。
ムーヴは前回のマイナーチェンジで、足回りやトランスミッションなど、外観からは分からない「中身」の部分が改良された。今回のフルモデルチェンジはその延長線上にあり、外観はもちろんのこと、基本性能の進化が著しい。
新しい車体の構造は、軽量・高剛性化が図られており、骨格部分で20kg軽量化しながら、従来と同じ衝突安全性を確保している。
車体デザインは、標準ボディーとカスタムの2種類が用意されている。それぞれ自然吸気エンジン(52馬力)とターボエンジン(64馬力)が設定されており、前輪駆動車(FF)の燃費は自然吸気エンジン搭載車がガソリン1リットル当たり31.0km、ターボエンジン搭載車が27.4km(いずれもJC08モード)。ターボエンジンは燃費が悪いイメージがあるが、動力性能の高さを考えれば十分に納得できる数値である。
グレード別では、カスタムの豪華仕様として「ハイパー」が設定された。普通車、それも上級車から軽乗用車に乗り換えるユーザーを想定しているそうだ。外装にはダークメッキのフロントグリルやLEDイルミネーションを採用して高級感を演出。内装は、シートに青いステッチを施した本革とファブリックを採用するなど上質に仕上げている。軽乗用車で初の多機能情報表示板(カラーディスプレー)を採用するなど装備も充実しており、至れり尽くせりである。ただ、インパネとドアの一部に使われている大理石模様のプラスチックパネルは好みが分かれそうだ。
安全装備を充実
衝突防止の安全装備「スマートアシスト(SA)」も一段と充実した。新たに加わったのは、後方誤発進抑制制御機能。後ろに建物や車があるのにバックギアでアクセルペダルを強く踏んだ場合に、約8秒間エンジン出力を抑えて急発進を抑制する。また、バックで駐車をするときに真上から見たように周囲の映像をナビに映し出すトップダウンビューもオプション設定された。画面はノーマル、ワイド、トップダウンの3種類に切り替えられる。
使い勝手の面で大きく変わったのはバックドアの構造。歴代のムーヴは横開きのバックドアを採用してきたが、新型では一般的な跳ね上げ式になった。雨が降っているときには屋根代わりになるので、この方が便利である。
リアシートは左右独立して前後に240mmスライドする。最後部まで下げると後部座席はゆったりしていて、ひざの前にこぶし縦二つ半、頭上に二つ分の余裕がある。
走りもしっかり
試乗したのは、ターボエンジンを搭載した最上級グレードのカスタムRSハイパーSA。走りだしてすぐに、車体がしっかりしていることがドライバーに伝わってくる。堅い殻に包まれているような安心感があり、足回りも一回り大きめの車に乗っているような落ち着きのある動きをしてくれる。
車体の剛性を上げただけでなく、サスペンションの見直しや静粛性の向上など、総合的に煮詰めた結果なのだろう。静粛性の向上は、車体の水抜き穴を減らしたり、吸音材の配置を見直したりといった地道な改善の成果という。荒れた路面から車内に伝わってくるざらつき感も、軽自動車としてはよく抑えられている。
便利だったのは、ステアリングに装備されているパワーモード切り替えスイッチ。ステアリングを握ったままボタン一つで、燃費を重視したノーマルモードと加速を重視したパワーモードとを切り替えることができる。
ノーマルモードでの加速はゆったりしているが、パワーモードにすると、まるで別の車に乗り換えたように軽快に走ることができる。この機能は、CVT(無段変速機)の制御を変えて低いギアで高回転まで引っ張るだけでなく、アクセルに対するエンジンの反応も敏感にしているという。燃費を気にしないなら、常にパワーモードにしておきたいほどだった。
こういった切り替えができる車は最近多いが、そのほとんどはスイッチがインパネの下の方にあり走行中の操作は難しい。ムーヴのステアリングスイッチは、発進や追い越し、上り坂などで「もう一段のパワー」が欲しいときに瞬時に切り替えることができるので、とても使いやすかった。
ムーヴに乗ってみると、つくづく「真面目に作られた車だな」と思う。日常のパートナーとして、バランスのいい一台である。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴40年。紀伊民報制作部長。