新車試乗記

スズキ アルトX

【スペック】

全長×全幅×全高=3395×1475×1500mm(ルーフアンテナを含む)▽ホイールベース=2460mm▽車重=650kg▽駆動方式=FF▽エンジン=658cc水冷3気筒DOHC、38kW(52馬力)/6500回転、63Nm(6.4kg)/4000回転▽トランスミッション=CVT▽燃料消費率=37.0km(JC08モード)▽車両本体価格=115万200円(2トーンバック仕様)

【試乗車提供】

スズキモーター和歌山・東山店
(田辺市東山2丁目31-20、0739・24・0195)

[2015年2月12日 UP]

 スズキの新型アルトは、ガソリン車最高のリッター37.0km(JC08モード)の低燃費とシンプルなデザイン、徹底した軽量化による軽い車体が特徴。35年前に発売され大ヒットした初代アルトを思い起こさせるモデルである。

シンプルなデザイン


 新型アルトでまず目を引くのはそのデザイン。曲線で構成されていた先代アルトから一転して、直線的なデザインが採用された。ヘッドライトの形や、単純な面で構成されたフロントグリル一体型のバンパーは個性的だ。初めて写真を見たときには正直、あまりいい印象を受けなかったが、実車を見るとシンプルなデザインの良さがじわじわと伝わってきた。真横から見た姿は、初代アルトをイメージさせる。
 室内のデザインもシンプルだ。黒とベージュの2色で構成されているインパネは、横基調の直線を主体にして広さを感じさせている。
 上級グレードに採用されたスズキの省燃費技術「エネチャージ」は、車が減速する力で発電し、バッテリーを充電する。発進や走行時には発電機をほとんど回さないのでエンジンの負担が減り、燃費を節約することができるという仕組みだ。
 スズキはさらに、発電機にモーターを組み込んでエンジンを補助する「S-エネチャージ」をワゴンRの一部グレードに採用しているが、アルトへの採用はコストの関係で見送られた。
 それにもかかわらず新型アルトは、ハイブリッド車で最も燃費がいいトヨタのアクアと並ぶリッター37.0kmをマークしている。これはガソリン車で最高の数値である。
 省燃費に大きく貢献しているのは車体の軽量化。車の骨格に相当するプラットホームを一新したり、部品の一つ一つを軽量化したりして、従来モデルより60kgも軽くした。車重はベースグレードで610kg、装備が豪華な上級グレードでも650kg。いまや軽自動車でも1tを超える車種があるくらいだから、アルトがいかに軽量かが分かる。
 アルトのエンジンは、最高出力52馬力の自然吸気エンジン。トランスミッションは、装備が充実した上級グレードに自動無段変速機(CVT)を設定。ベースグレードのFと商用車のVPは手動5速と、新開発の「5速オートギアシフト」(5AGS)を設定している。5AGSは、手動とオートマチックトランスミッション(AT)の中間のような仕組みで、クラッチとシフト操作が自動で行われる。AT免許でも運転できる。

広い乗車スペース


 軽の主流であるハイトワゴンが普通乗用車をしのぐほど広い室内スペースを実現しているのに対して、車高が低いセダンはスペースの面では不利になる。ところがアルトは、ワゴンRより35mm長い2460mmのホイールベース(前後輪の軸間距離)により、セダンでありながら2040mmの室内長を確保した。
 運転席を身長174cmのリポーターに合わせてから後部座席に座ると、膝の前には握り拳縦二つ分の余裕ができた。これは、十分に足が組めるほどの広さ。頭上にも拳一つ半の空間があり、圧迫感はなかった。
 リアシートはスライド機能がなく、荷室と後席スペースを用途によって調節することはできない。荷室の奥行きは短いので、ワゴンRのように灯油のポリタンク三つを縦に並べて載せるといった芸当はできない。

軽い車体を実感


 試乗車は、最上級グレード「X」のミディアムグレー2トーンバックドア仕様車。軽乗用車は装備の充実とともに車両本体価格が高くなっており、コンパクトカーを上回る価格の車種もざらにある。これに対してアルトXは、レーダーブレーキサポートや横滑り防止装置といった安全装備をはじめ、シートヒーターや15インチアルミホイールまで装備して115万円。ワゴンタイプのように多目的に使うのでなければ、かなり割安感がある。
 車体を軽量化した効果は、走りだしてすぐに実感できる。CVTは加速の際にエンジン回転を低めに抑えるよう設定されているが、それでも十分に軽快だ。さらにアクセルを深く踏み込めば、52馬力のエンジンとは思えないほど活発に走ることができる。
 室内に入ってくるエンジン音はやや大きめだが、路面から伝わってくるロードノイズは軽乗用車としては平均的。足回りはきちっと動いており、コスト削減や車体の軽量化に伴うマイナスは感じられなかった。
 1475mm(ルーフアンテナを除く)という全高はワゴンRより165mmも低いが、自然なドライビングポジションを取ることができた。ただ、左側の安全を確認するときにシートと一体になった助手席のヘッドレストが視界を遮ることがあった。小柄なドライバーは注意が必要かもしれない。

リッター26.7kmを表示


 一番の売り物である燃費はどうだろうか。ほとんどの車は、カタログ数値の70~80%が実用燃費の目安。単純に計算すると、アルトの燃費はリッター26~30kmぐらいになるはずである。主に市街地を走った今回の試乗では、車載の平均燃費計は26.7kmを表示した。これは、S-エネチャージを搭載したワゴンR・FZの試乗を0.9km上回る数値。下ろしたての新車だったので、慣らし運転が終わればもう少し伸びるかもしれない。
 エンジンの出力に余裕がない軽乗用車は、走行条件や運転の仕方で燃費が大きく変わるので、あくまでも参考程度。もう一つ付け加えれば、このときに、車載コンピューターが省エネ運転の度合いを100点満点で採点してくれるエコスコアは94点を表示していた。かなり高得点の運転と言っていい。
 アルトは地味な実用車かというと、そうではない。3月に発売を控えているのが、ターボチャージャーを装備したスポーツモデル。軽量ボディとターボエンジンの組み合わせは、かつて車好きのドライバーに支持されたアルト・ワークスの再来になるのだろう。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴39年。紀伊民報制作部長。