新車試乗記

ホンダ グレイスEX

【スペック】

全長×全幅×全高=4440×1695×1475mm▽ホイールベース=2600mm▽車重=1200kg▽駆動方式=FF▽エンジン=1496cc水冷4気筒DOHC、最高出力81kW(110馬力)/6000回転、最大トルク134Nm(13.7kg)/5000回転▽モーター=最高出力22kW(29.5馬力)/1313~2000回転、最大トルク160Nm(16.3kg)/0~1313回転▽システム最高出力=101kW(137馬力)▽燃料消費率=31.4km(JC08モード)▽トランスミッション=7速AT▽車両本体価格=221万円

【試乗車提供】

ホンダカーズ田辺・稲成店
(田辺市稲成町46、0739・24・4500)

[2015年1月15日 UP]

 ホンダの新型車「グレイス」は、扱いやすい5ナンバーサイズのハイブリッド(HV)セダン。低燃費に加えて、クーペのような端正なスタイルと広い室内が売り物だ。5ナンバーの小型セダンは車種が限られていて、販売台数も少ない。グレイスの発売は、かつてセダンに乗った中高年ドライバーを呼び戻すきっかけになるのだろうか。

HVでリッター31.4km


 BMWやベンツ、レクサスといった高級ブランドはセダンが主流だが、5ナンバーサイズの国産セダンはミニバンやハッチバックに押されて影が薄くなっている。車種も、日産自動車のラティオ(1.2リットル)やトヨタのカローラアクシオ(1.3~1.5リットル)、プレミオ、アリオン(いずれも1.5~2.0リットル)などに限られている。
 グレイスはそんなセダン市場に、HVの採用による低燃費、広い室内と優れた居住性、スポーティーなデザインで切り込む。上級車から乗り換えるユーザーもターゲットに、内装の質感向上にも力を入れたという。
 車体の大きさは全長4440mm、全幅1695mmと街中で扱いやすいサイズで、全高は1475mmと低い。長めのボンネットやサイドのキャラクターラインなどにより、実際の大きさ以上に伸びやかでスマートに見える。
 HVシステムはホンダ独自のi-DCDで、フィットやヴェゼルと共通。燃焼効率に優れたアトキンソンサイクルの1.5リットルDOHCエンジンは最高出力110馬力、モーターは29.5馬力、エンジンとモーターを合わせたシステム最高出力は137馬力になる。エンジンとモーターの接続・切断を7速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)が受け持つ。ガソリン1リットル当たりの燃費はグレードによって31.4~34.4km(JC08モード)となっている。
 i-DCDは技術的に難しいようで、フィットやヴェゼルでは何度もリコールが発生した。グレイスは対策済みで、満を持しての搭載になる。

後部座席はゆったり


 試乗車は最上級グレードのEX。実車を目の前にすると、セダンでありながらスポーティーで若々しい印象を受ける。個人的には、斜め後ろから見たスタイルが気に入った。現在発売されている5ナンバーセダンはどれも法人の営業車に使われるような地味なスタイルなので、余計新鮮に感じるのかもしれない。
 それでは、セダンで重要な後部座席からチェックしてみよう。ホンダが「最上級セダンであるアコードハイブリッドと同等のスペースを確保した」としているだけあって、足元の空間はゆったりしている。また、クーペのようにルーフがトランクに向けて大きく下がっているにもかかわらず、頭上スペースもきちっと確保されている。身長174cmのリポーターが座ると、膝の前に握りこぶしが2つ、頭上にもこぶしが2つ入る余裕があった。リアウインドーのラインが低いので、長距離のドライブでも圧迫感が少ないだろう。
 センターコンソールの背面には、後部座席専用のエアコン吹き出し口がある。EXはその下に、スマートフォンの充電に使えるアクセサリーソケットも2個備えている。助手席のシートバックには、充電中のスマホを収納するホルダーまである。
 EXの内装は黒で統一されていて、なかなか高級感がある。部分的にソフトパッドが使われているほか、プラスチックのパネルもソフトパッドと間違えるほど上手にシボ加工が施してある。シートのサイドやヘッドレストには柔らかい質感のレザー調素材が使われていて、上質に仕上げられている。

滑らかな乗り心地


 インパネのパワースイッチを押してシステムを起動し、セレクトレバーをD(ドライブ)レンジに入れてアクセルを踏むと、モーターの動力で静かに走りだす。
 トヨタのHVは時速30~50kmまでモーターだけで加速するが、ホンダのHVシステムはエンジンが掛かるタイミングが早めで、10kmを超えたあたりで始動する。
 137馬力というシステム最高出力は1.8リットルガソリンエンジンに相当し、運転した実感もそれと一致する。動力性能だけでなく、乗り心地も中型セダンのように快適である。
 インパネ右側にあるECONボタンを押すと、燃費を重視した走行モードになる。日常の走行はこれで十分。解除すると、加速の際にエンジンを高回転まで回すようになり、より活発に走ることができる。
 乗り心地は終始滑らかだった。もともとセダンはハッチバックに比べて車体の剛性が高いので、騒音や振動の面で有利。グレイスは加えて、路面からの細かい入力と大きな入力の両方を受け止める入力分離式ダンパーマウントを採用し、細かい振動やざらつき感を効果的に抑えている。ステアリングのギア比は意外なほどクイックで、小さい切り角で大きく向きを変える。
 トランクは430リットルと十分な容量を確保していて、ゴルフバッグを3つ積むことができる。また、後部座席の背もたれを前に倒してトランクスルーにすれば、釣りざおなど長い物を積むことができる。
 中高年ドライバーがセダンに戻ってくるかもしれない--。そんなことを予感させる新型車である。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴39年。紀伊民報制作部長。