新車試乗記

マツダ デミオ

【スペック】

[13S]全長×全幅×全高=4060×1695×1500mm▽ホイールベース=2570mm▽車重=1030kg▽駆動方式=FF▽エンジン=1298cc水冷4気筒DOHC、68kW(92馬力)/6000回転、121Nm(12.3kg)/4000回転▽燃料消費率=24.6km(JC08モード)▽トランスミッション=6AT▽車両本体価格=145万8000円

[XDツーリング]車重=1130kg▽エンジン=1498㏄水冷4気筒DOHCディーゼルターボ、77kW(105馬力)/4000回転、250Nm(25.5kg)/1500~2500回転▽燃料消費率=26.4km(軽油、JC08モード)▽車両本体価格=194万4000円

【試乗車提供】

和歌山マツダ田辺店
(田辺市新庄町2157、0739・22・8535)

[2014年11月13日 UP]

 2014-15日本カーオブザイヤーを受賞したマツダの「デミオ」に試乗した。コンパクトカーの枠を超えたデザインと乗り心地、1.5リットル・クリーンディーゼルエンジンの搭載など、話題の一台である。

高級感のある内外装


 新型デミオは全長4060mm、全幅1695mmと、使いやすい5ナンバー・サイズのコンパクトカー。マツダの新しいデザインコンセプト「魂動(こどう)」による躍動感にあふれるデザインが採用されており、小さいながらも堂々とした存在感がある。
 内装の仕上げも丁寧だ。コンパクトカーはコスト削減のため内装にプラスチックを多用するケースが多いが、デミオはインパネやセンターコンソールに上級車のようなソフトパッドを使用している。メーター周りも落ち着いたデザインを採用しており、クラスを超えた高級感がある。試乗車はオプションでステアリングやサイドブレーキ、シフトノブなど手に触れる所に本革を使っていたので、質感が一段と高く感じられた。
 エンジンは、1.3リットルのガソリンエンジンと1.5リットル・クリーンディーゼルエンジンが用意されている。ガソリンエンジンは最高出力92馬力、最大トルク12.3kgと標準的なスペック。コンパクトカーとしてはぜいたくな6速オートマ(AT)または6速マニュアルトランスミッション(MT)と組み合わせられている。燃費はJC08モードでガソリン1リットル当たり24.6km。試乗では、実用燃費もかなりいいことを実感した。
 注目のディーゼルエンジンは、出力こそ105馬力にとどまるものの、最大トルクはAT車で25.5kg、MT車で22.4kgと、2.5リットルのガソリンエンジン並み。これが車重1130kgの車体に搭載されているのだから、その強力な加速は乗る前から想像がつく。

1クラス上の乗り心地


 デミオの発売は、ガソリン車が9月下旬、ディーゼル車が10月下旬だったため、別々の日に試乗した。先に乗ったのはガソリンの13S。
 体を包み込むようなソフトな運転席に座ると、正面には丸いスピードメーター。インパネの位置がやや高いので囲まれ感があり、コンパクトカーに乗っているという感じがしない。
 走りだすと、1~2クラス上の車を運転しているような感覚になる。まず、車体がしっかりしている。ステアリングはやや重めで適度な手応えがあり、直進安定性に優れている。法定速度の60kmの巡行は快適そのもので、とてもコンパクトカーとは思えない落ち着いた乗り心地が味わえる。
 やや堅めのサスペンションは滑らかに動き、荒れた路面のざらつきも上手に吸収してくれる。ロードノイズの侵入もコンパクトカーとしてはよく抑え込んでおり、これも質の高い走りにつながっている。アクセルを強く踏むと加速中のエンジン音はそれなりに侵入してくるが、不快な音ではない。
 運転が楽しいコンパクトカーの代表はスズキのスイフト。ステアリングに敏感に反応する走りは、交差点を曲がるだけでも気持ちがいい。デミオも、ステアリングを切った分だけ車が素直に曲がっていくという、運転が楽しめる車に仕上がっている。普段は軽くブレーキを踏んでから入る下り坂の大きなカーブを、ノーブレーキであっさり通過してしまったのには感心した。軽快なスイフトに対して、しっとりとした走りがデミオの持ち味と言える。

力強いディーゼル


 日を改めて、クリーンディーゼルを搭載するXDツーリングに試乗した。デミオの発売以来の受注は、ディーゼルが7割を占めるというから、こちらの方が本命かもしれない。
 プッシュ式のスタートボタンを押してエンジンをかけると「おや」と思うほど静かである。車の横に立ってアイドリングの音を聞いても、事前にディーゼルと知らされなければガソリンエンジンとの区別がつかないほどだ。
 発進直後や低速で走っているときにはディーゼル特有のカラカラとした音が少し響いてくるが、時速40kmを超えたあたりから全く気にならなくなる。
 エンジンのパワーは、このクラスの車としては別格だ。千回転台ではトルクが細い印象を受けるが、2千回転を超えるとターボチャージャーの過給により見違えるように力が湧き出し、軽やかに回転が上昇する。全くの新車だったので3千回転までに抑えて走ったが、それでも十分過ぎるほどの加速が体感できた。
 ガソリンの13Sに比べて足回りは一段と引き締められているようで、路面のうねりに伴う上下動を敏感に伝えてくる。ホイールのサイズが13Sの15インチに対して、XDツーリングは16インチになっていることも影響しているのかもしれない。
 ハンドリングはガソリン車と同様に素直だが、エンジンが重い分だけ、フロントの重量が増している。下り坂の挙動はフロントが軽いガソリン車の方が軽やかだった。

経済性は互角


 車載の燃費計をリセットして計測したところ、試乗コースはやや異なるものの、ガソリン車はリッター19.4km、ディーゼルは19.1kmと互角だった。ディーゼルの燃料である軽油はレギュラーガソリンより1リットル当たり20円余り安いので、日常の経済性はディーゼルがやや勝る。しかし、車両価格は30万円ほど高いので、燃料代の差で元を取ろうという計算はよほど走行距離の多い人でなければ成り立たないだろう。
 街中の利用が中心で、軽快な走りを求めるのならガソリン車、山道や高速道路を走る機会が多く、何よりも、圧倒的なパワーが欲しいのならディーゼルを選ぶのが正解だと思う。いずれを選んでも、コンパクトカーを超えた乗り心地と、思いのままに曲がる操縦性を手に入れることができる。
 デミオの弱点は、後部座席と荷室が狭いこと。身長174cmのリポーターに運転席を合わせてその後部座席に座ると、膝の前には隙間がほとんどなくなる。4人乗車が多い人や荷物をたっぷり積みたい人は、後席がゆったりしていて荷室が大きいホンダのフィットや日産のノートなどが選択肢に入る。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴39年。紀伊民報制作部長。