モーターでアシスト
始めに、これまでの「エネチャージ」と、その進化形である「S-エネチャージ」について説明しよう。
車はエンジンで発電機を回して発電し、電装品を動かすのに必要な電気をバッテリーに蓄えている。これがエンジンにとって大きな負担になり、加速性能や燃費を悪化させている。
エネチャージは、車が減速するときのエネルギーを利用して発電し、鉛のバッテリーとエネチャージ用のリチウムイオンバッテリーに充電する。発進や走行時に発電機をほとんど回さないので、エンジンの負荷が軽くなるという仕組みだ。ワゴンRは、車体が軽量化されたことも加わって、発進加速は軽やかである。
S-エネチャージは、発電機にモーター機能を加えたもので、加速の際にはモーターの動力でエンジンを補助する。モーターの出力は2.2馬力、トルクは4.1kgと小さいが、仕組みはハイブリッド車と同じである。
ただし、トヨタのプリウスやホンダのフィット・ハイブリッドのようにモーターだけで走りだすことはできない。モーターがエンジンを補助するのは時速15~85kmの加速時で、しかも1回の補助時間は6秒に限られる。
モーターの補助は燃費の向上に振り向けられており、動力性能の面では、モーター付きのS-エネチャージと、モーターがないエネチャージの違いは分からなかった。しかし省燃費への貢献は大きい。
S-エネチャージ搭載車の燃費はカタログデータで、リッター30.0kmから32.4kmへと、8%向上。フルモデルチェンジ当初のワゴンRはリッター28.8kmだったから、2年間で段階的に3.6kmも燃費が伸びたことになる。
短時間の試乗ではあるものの、燃費改善効果はカタログの数値以上ではないかと実感した。販売店で燃費計をリセットしてバイパス道路を走りだしたところ、メーターはリッター27km前後を表示した。信号が少なく車の流れもいいので、これは当然かもしれない。
S-エネチャージが真価を発揮したのはそれからで、市街地に入ってからも燃費計の数字はなかなか下がらなかった。意識的に信号の多いコースを選んでみたが、およそ30分の試乗を終えた時点での平均燃費は25.8km。本格的なハイブリッド車と並ぶ立派な数値だ。
自家用で乗る機会が多いワゴンRの20周年記念車(エネチャージ搭載車)は、同様の走り方をして20km前後である。車の個体差もあるので一概には言えないが、S-エネチャージはかなりの燃費改善効果を期待できそうだ。
なお、S-エネチャージ搭載車はハイブリッド車のように、スピードメーターの右側にエネルギーフローインジケーターがあり、発電の状況やバッテリー残量などが一目で分かるようになっている。
スムーズな再始動
S-エネチャージのモーターは、アイドリングストップしたエンジンの再始動にも使われている。これにより快適性は飛躍的に向上しており、信号で停止するたびに感心した。
アイドリングストップ機能付きのガソリン車は、エンジンを再始動するときにセルモーターを回す。ブレーキから足を離した瞬間にキュルキュルというセルモーターの音がするのはあまり気持ちのいいものではない。
S-エネチャージの再始動は、キュルキュル音がなく、エンジンの回りだしも大変スムーズ。ワゴンRは減速時、時速13km以下になるとエンジンが停止し、アクセルを踏めば再始動するが、どこでエンジンが止まり、どこで再始動したのか分からないほどである。
スムーズな再始動が可能になったことで、アイドリングストップの頻度もずいぶん増えているようだ。従来のワゴンRだと、信号待ちでブレーキを一瞬緩めるとエンジンが再始動してしまい、再びブレーキを踏み増しても止まることはないが、S-エネチャージ搭載車はすっと再び止まる。
一時停止から再発進するたびにセルモーターの音にイラッとしている人には、ぜひともお薦めしたい一台である。
走りならスティングレー
今回の一部改良で、グレードも少し変更された。ベースグレードのFAはエネチャージなしで、燃費はリッター26.0km、中間グレードのFXはエネチャージを搭載し、30.0kmとなっている。今回試乗したFZは、S-エネチャージを搭載した最上級モデルという位置付けになる。
使い勝手は相変わらず良好。後部座席は前後に大きくスライドするので荷室と乗車スペースの調節がしやすく、ワンタッチで背もたれを倒してフラットな空間を作ることもできる。
走りの面ではどうか。20周年記念車は、カスタムモデルであるスティングレー・ターボの足回りを移植し、165/55R15の大径扁平(へんぺい)タイヤや、コーナリング中のロールを抑えるフロントスタビライザーを装備している。これに比べると試乗車はロールが大きめで、急カーブではやや前のめりのような動きが感じられる。山間部の道路を走る機会が多い人には、スタビライザーを備えたスティングレーを薦めたい。
今回の改良でスティングレーには、後方の安全が確認できるバックアイカメラがオプション設定された。後退時に左右から近づいてくる人や車を検知して画面表示とブザーで警告する後退時左右確認サポート機能と、白線の駐車枠があるスペースで停止位置に近づくと、自動的に見下ろしたような画面に切り替わる自動俯瞰(ふかん)機能が付く。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴39年。紀伊民報制作部長。