新車試乗記

ホンダ ヴェゼル・ハイブリッドX

【スペック】

全長×全幅×全高=4295×1770×1605mm▽ホイールベース=2610mm▽車重=1280kg▽駆動方式=FF▽エンジン=1496cc水冷4気筒DOHC、最高出力97kW(132馬力)/6600回転、最大トルク156Nm(15.9kg)/4600回転▽モーター=最高出力22kW(29.5馬力)/1313~2000回転、最大トルク160Nm(16.3kg)/0~1313回転▽システム最高出力=112kW(152馬力)▽燃料消費率=26.0km(JC08モード)▽トランスミッション=7速AT▽車両本体価格=241万7143円

【試乗車提供】

ホンダカーズ田辺・稲成店
(田辺市稲成町46、0739・24・4500)

[2014年4月10日 UP]

 ホンダのヴェゼルは、SUV(スポーツ用多目的車)でありながら、クーペのような滑らかなデザインを身にまとっている。人気のハイブリッド車(HV)は、152馬力の総合出力とリッター24.2~27.0kmの低燃費を両立。足回りは引き締められており、スポーティーな走りが体感できる。

2リットル並の動力性能


 ヴェゼルの全長と全幅はそれぞれ4295mm、1770mmで、フォルクスワーゲンのゴルフに代表されるCセグメントと呼ばれる大きさに相当する。兄貴分に当たるホンダのSUV「CRV」(4535mm、1820mm)より一回り小さい。
 後部ドアのハンドルは窓枠に溶け込ませてあるので、真横からはまるで2ドアクーペのように見える。日産自動車のジュークと同じデザイン手法である。
 動力は、1.5リットルの自然吸気エンジン(131馬力)と、1.5リットルエンジンに高出力モーターを組み合わせたHVの2種類。ホンダは昨年、新型フィットに新しいハイブリッドシステムを搭載したが、今回のヴェゼルは、エンジンのチューニングを大幅に変えている。
 フィットHVは燃費性能を重視したアトキンソンサイクルの1.5リットルエンジンを搭載。燃費を良くするために、出力は110馬力に抑えている。これに対してヴェゼルは、132馬力を発生する直噴エンジンを採用している。モーターの出力はいずれも29.5馬力。システムの総合出力は、フィットが137馬力であるのに対して、ヴェゼルは15馬力高い152馬力となっている。
 フィットは1.8リットルクラス、ヴェゼルは2リットルクラスのガソリンエンジンに相当する高出力である。一方のJC08モード燃費は、フィットの36.4kmに対してヴェゼルは27.0km(いずれもベースグレード)。車重の違いも影響しているが、エンジンチューニングによる差が大きい。

スポーティーな走り


 試乗車は、中級グレードであるハイブリッドXのFF(前輪駆動車)。シートポジションはやや高めで、目の位置はセダンより10cmほど高く設定されているという。運転席はドライバーを包み込むようなデザイン。インパネの中央にはアナログ式の大きなスピードメーターがあり、シンプルで見やすい。
 ダッシュボードやドアの内張りには弾力性があるソフトパッドを使い、シフトノブ回りには光沢のある素材をあしらって高級感を演出している。最近はコストダウンのためにダッシュボードにプラスチックを使う車が増えているが、ヴェゼルの内装は丁寧に仕上げてある。
 システムを起動するために赤いパワースイッチを押すと、インパネが点灯するだけでエンジンは掛からない。電子式のシフトレバーを右手前に軽く倒してギアをドライブに入れ、アクセルを踏み込むとモーターだけで走りだし、時速10km前後でエンジンがかかる。エンジンの始動はスムーズだ。7速のデュアルクラッチトランスミッション(DCT)は変速が滑らかな上に、エンジンやモーターの駆動力をダイレクトに車輪に伝えてくれるので、気持ちよく走ることができる。
 加速性能はメーカーのうたい文句通り、2リットルエンジン並みに力強い。アクセルを強く踏み込むと、エンジンとモーターの合わせ技で大きなトルクがわき上がり、ぐいぐい加速する。日常の利用では、燃費が節約できるエコモードでも十分な動力性能が得られる。バイパス道路の上り坂の合流車線でも、エコモードのままで一気に加速することができた。
 足回りは、SUVとしてはかなり引き締められている。路面の小さな変化も伝えてくるタイプで、ゴツゴツした感触も残る。個人的に堅めの足回りは好みだが、もう少しソフトな方がこの車のイメージに合っていると思った。その代わりに、車体のロール(横傾き)は少なく、並のコンパクトカーよりも軽快にコーナーを走り抜ける。
 減速時にエネルギーを電力に変えて回収する電動サーボブレーキシステムは、思ったよりも強めに減速する。はじめはちょっと違和感があったが、慣れると、手動ミッション車のエンジンブレーキのような感覚で運転できる。

広い室内と使いやすい荷室


 ヴェゼルは、全長4295mm、全幅1770mmという扱いやすい車体サイズの中で、必要十分な乗員スペースと荷室スペースを確保している。スペース効率の高さがヴェゼルの魅力の一つだ。
 後部座席に座ると、膝の前には握りこぶしが縦に2つ入るほどの余裕があり、フロントシートの下につま先を入れることができるのでゆったり座ることができる。頭上にもこぶし一つ半の空間があるので、圧迫感もない。
 荷室の奥行きは80cmと深く、一般的なゴルフバッグを3つ積み込むことが可能だ。リアシートの座面を跳ね上げて、後部座席に大きなスペースを作ることができるのもホンダならではのシートアレンジだ。
 便利だったのは、電子制御パーキングブレーキと、オートブレーキホールド機能。電子制御パーキングブレーキは、手元のスイッチを押すとパーキングブレーキがかかり、発進時にアクセルを踏むと自動的に解除されるという優れもの。オートブレーキホールド機能は、信号待ちや渋滞で一時停止したさいに、ブレーキから足を離しても停止状態を保持してくれる。これも、アクセルペダルを踏むことで自動解除される。意識的にブレーキを踏み続けなくていいので、運転の疲労軽減につながりそうだ。
 ヴェゼルにはガソリンエンジン車とHVが用意されているが、受注の8割以上がHVという。国内の新車市場では当分、燃費のいいHVと軽自動車の人気が続きそうだ。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴38年。紀伊民報制作部長。