室内はさらに広く
初代タントが誕生したときには、その室内の広さに感動したものだが、2代目、3代目とモデルチェンジを重ねてさらに広くなった。
今回のモデルチェンジでは頭上空間が一段と広がり、開放感が増した。試乗リポートでは頭上空間を、握り拳がいくつ入るかで表現するが、タントは広すぎて数えられなかったほどだ。
室内長もさらに長くなった。2代目タントの2160mmに対して、新型タントは2200mmと、40mm延長されている。スライド式のリアシートを最後部にセットすると、ひざの前には30cm以上の空間ができる。成人男性でも楽々と足を組める広さだ。
初代タントはドアが前後左右ともヒンジ式のスイングドアだったが、2代目は左後部がピラー(柱)のないスライドドアになり、大きな開口部を実現した。3代目は、運転席側後部もスライドドアになり、ホンダ・Nボックスやスズキ・スペーシアと同様のスタイルになった。
シートの使い勝手をチェックしてみよう。助手席は最大で38cmスライドし、ダッシュボードすれすれまで前に出すことができる。そのときに後部座席に生まれるフロア長は最大で69.5cm。センターピラーがないのでドアの開口部は大きく、ベビーカーをたたまずに積んだり、自転車を横から載せたりといった離れ業をやってのける。
助手席の背面に付いているレバーを操作すると、運転席や後席から助手席を前後にスライドさせたり、リクライニングさせたりすることができる。また、助手席の左肩につけられたグリップは、後席の乗り降りのときにしっかりした支えになるので便利。リアのドアには、日差しを遮る格納式のサンシェードが装備されている。
普通車並みの安定感
試乗したカスタムRS〝SA〟は、最高出力64馬力のターボエンジンを搭載。1Lクラスの普通乗用車と同等か、それ以上の動力性能を発揮する。
強力なパワーを受け止めるために、足回りは堅めに設定されている。重い車重が乗り心地にプラスに作用しているのだろうか、普通車に乗っているような安定感がある。ステアリングも重めの設定で、これも安定感につながっている。
車体の横傾き(ロール)を抑えるフロントスタビライザーの採用やサスペンションの改良、アンダーボディーの剛性強化などで操縦安定性を向上させており、背の高い車特有のカーブでのふらつきはほとんど感じない。
ダイハツは、昨年12月のムーヴのマイナーチェンジで全グレードにフロントスタビライザーを装備した。タントも、ターボモデルだけでなく、ベースグレード以外の全車にフロントスタビライザーを標準装備している。一見、地味な改良だが、旋回中の安定感は大きく向上している。
安全性の面では、時速30km以下で追突を防止する自動ブレーキや誤発進抑制機能などが働く「スマートアシスト」を全グレードに設定した。価格はわずか5万円なので、ぜひとも装着したい。
小さなファーストカー
ライバルは、先にも挙げたNボックスやスペーシア。いずれも室内の広さや使い勝手の良さを売り物にしている。3台とも魅力的な車なので、購入を検討する際には大いに悩むことだろう。
タントとNボックスの一番大きな違いは、リアシートのアレンジ。Nボックスのリアシートは前後にスライドしない代わりに、座面を跳ね上げると特大の空間ができる。大きな荷物を載せる機会が多い人には特に便利だろう。一方で、荷室のスペースは小さめで奥行きも固定されているので、4人乗車で荷物も載せたいといった場面は苦手かもしれない。
タントやスペーシアはリアシートが左右独立して前後にスライドするので、人が座るスペースと荷物のスペースを利用場面に合わせて調節できる。また、リアシートにチャイルドシートを装着した場合には、運転席から子どもに手の届くところまでシートを前進させることができる。
車重が一番軽いのはスペーシア。中間グレードで比較すると、タントとNボックスは930kg、スペーシアは850kgと80kgの差がある。大柄な男性1人分、子どもなら2人分の違い。ターボチャージャーが付いていない自然吸気エンジン搭載車で比較するなら、スペーシアが最も軽快に走る。
自転車や大きな荷物を積む機会が少ないのなら、室内の広さはそこそこだが燃費が良くて走りのいいムーヴやワゴンR、N-ONEが選択肢に入る。しかし、ハイトワゴンの圧倒的に広い室内を一度体験すると、その魅力も捨てがたい。
これまで軽自動車は、セカンドカーと位置づけられていた。タントのターボモデルは、動力性能や室内の広さ、乗り心地などを考えると、十分にファーストカーとして使える。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴38年。紀伊民報制作部長。