新車試乗記

ホンダ フィット・ハイブリッド

【スペック】

(Lパッケージ) 全長×全幅×全高=3955×1695×1525mm▽ホイールベース=2530mm▽車重=1130kg▽駆動方式=FF▽エンジン=1496cc水冷4気筒DOHC、最高出力81KW(110馬力)/6000回転、最大トルク134Nm(13.7kg)/5000回転▽モーター=最高出力22KW(29.5馬力)/1313~2000回転、最大トルク160Nm(16.3kg)/0~1313回転▽燃料消費率=33.6km(JC08モード)▽トランスミッション=7速AT▽車両本体価格=183万円

【試乗車提供】

ホンダカーズ田辺・稲成店
(田辺市稲成町46、0739・24・4500)

[2013年10月10日 UP]

 フルモデルチェンジしたホンダのフィット・ハイブリッド(HB)は、システムを一新し、ベースモデルでガソリン1リットル当たり36.4kmの低燃費を実現した。1.5リットルのエンジンと強力になったモーターの組み合わせで、1.8リットルガソリン車並みの動力性能を得ている。新車販売でトップを走るトヨタの小型HB車「アクア」の手ごわいライバルになりそうだ。

HBシステムを一新


 ホンダは従来、「HBの主体はあくまでもエンジン」として、モーターの補助は限定的だった。これに対してトヨタは、エンジンとモーターの役割を巧みに制御。とくに大きな違いは、燃料を多く消費する発進時にモーターだけで走りだす仕組みを採用したことだった。このためホンダのHBは、燃費性能でトヨタのHBに及ばなかった。
 フィットの新しいHBシステムは、1.5リットルエンジンと高出力モーター内蔵7速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)、大容量のリチウムイオンバッテリーを組み合わせている。
 DCTでエンジンとモーターの接続・切断を制御することで、モーターのみのEV走行、エンジンのみの走行、エンジンとモーターが同時に働くハイブリッド走行、の三つの走行パターンを自在に組み合わせることが可能になった。
 JC08モード燃費は、先代の26.4kmから36.4kmへと、10kmも向上した。ただし、装備が充実したFパッケージやLパッケージはベースグレードより2.8km少ない33.6kmとなる。
 新型フィットの車種構成はHB以外に、1.3リットルの低燃費型エンジン(アトキンソンサイクルエンジン)を積んだ13G、1.5リットルの15X、スポーティーモデルのRS(1.5リットル)がある。13Gの燃費はリッター26.0kmで、先代HB並みの数値をマークしている。

1.8リットル並みの動力性能


 理屈はともかく、試乗してみよう。始動スイッチを入れてもエンジンはかからないので、メーターの点灯でスタンバイ状態になったことを確認する。シフトレバーはトヨタ・プリウスのような電子式。右側に寄せて手前に引くとギアがドライブモードに入る。アクセルを踏み込むと、「ウィーン」という軽いモーター音とともに走りだし、すぐにエンジンが始動した。
 走行モードは、ECON(低燃費)、ノーマル、S(スポーツ)の三つが選べるが、最もおとなしいECONでも、十分な加速が得られる。ノーマルモードでアクセルを強めに踏み込むと、1.8リットルのガソリン車を上回るような力強い加速をする。モーターのアシストが加わると、排気量が二回りほど大きなったような感覚になる。しかも、そのときの感触は滑らかで静かだ。
 それもそのはずで、エンジンとモーターを合わせたシステム性能は、最高出力137馬力、最大トルク17.3kgと、1.8リットルガソリン車と並ぶ数値をマークしている。
 試乗前にディーラーのスタッフから「パワーモードは街中では使うことはないと思います」とアドバイスがあったが、確かに試す機会はなかった。
 エコカーのトランスミッションは現在、無段変速のCVTが主流になっているが、フィットHBのDCTは7段変速。手動ミッションのようにエンジンの回転上昇と速度の上昇が一致するので、小気味よい加速が味わえる。
 メーターはホンダ車としてはシンプル。モードの切り替えで、バーグラフ式のエンジン回転計を表示させることもできる。メーター内に表示される情報を見ていると、エンジンとモーターの役割分担はかなりきめ細かく制御されている。時速50kmで流しているときには、モーターだけで走っていることもあった。
 足回りは落ち着いた動きをしており、一クラス上の車に乗っているように感じた。シートも、左右の支えがしっかりしたものになった。以前、旧型フィットのレンタカーを3日間運転したら、シートが体に合わずに腰が痛くなった経験がある。シートの善しあしは疲労に大きく影響するので、長距離を走る機会の多い人は入念にチェックしたい。

衝突軽減ブレーキは6万円


 フィットの人気の秘密は、優れたパッケージングにもある。全長4mを切るコンパクトな車体に、大人4人がゆったり乗れる乗員スペースと、広い荷室を備えている。身長174cmのリポーターが後部座席に乗っても、ひざの前にこぶしが縦に2つ分、頭上もこぶし2つ分の余裕があった。これは、燃料タンクを前席の床下に収めたセンタータンクレイアウトにより可能になった。
 安全装備では、ぬれた路面での横滑りを防いだり、急ハンドル切ったさいに車両の安定を保ったりするVSA(車両挙動安定化制御システム)や、急ブレーキを踏むとハザードランプが高速点滅するエマージェンシーストップシグナルを全タイプに標準装備。さらに、時速30km以下で走行中に追突の恐れがある場合に自動的にブレーキが作動する衝突軽減ブレーキや、前方に障害物がある場合に急発進を抑制する誤発進抑制機能を「あんしんパッケージ」としてオプション設定した。価格は、サイドカーテンエアバッグなどがセットになってわずか6万円なので、購入のさいにはぜひとも装備したい。
 フィットHBの価格は、オプションを加えると優に200万円を超えてしまう。それでもフルモデルチェンジ以降、購入者の7~8割がハイブリッドを選択している。このため、これから契約しても、納車は来年1月以降という。「低燃費」はいまや、車選びの必須条件になったようだ。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴38年。紀伊民報制作部長。