1.6リットルのターボエンジン
ベンツAクラスは従来、4mを切る全長と背の高いスタイルから、買い物や子どもの送迎などに使うセカンドカーのイメージが強かった。フルモデルチェンジで、全長が405mm伸びる一方、全高は160mm低くなり、スポーティーな車に生まれ変わった。シリーズ名こそ継承しているが、全く別の車になった。
ボディースタイルは5ドアハッチバック。フロントホイール後端からリアホイール上部にかけて入っているキャラクターラインが個性的で、真横から見ても躍動感にあふれている。
小さくても、顔つきはベンツそのものだ。フロントグリル中央には、ベンツの証であるスリーポインテッド・スターが輝いている。高速道路の追い越し車線でバックミラーにその姿が映ったら、思わず道を譲ってしまうだろう。
エンジンは、最高出力122馬力、最大トルク20.4kgの1.6リットル直噴ターボ。アイドリングストップ機能を備えており、燃費性能もJC08モードで15.9kgと優秀である。
ベースグレードのA180ブルーエフィシェンシーは284万円と、300万円を切っている。今回試乗した「スポーツ」(車両本体価格335万円)は、車高を15mm下げたスポーツサスペンションや、切れ味の鋭いステアリング機構を採用している。
上位のグレードとして設定しているA250シュポルト(同420万円)は別格で、最高出力210馬力の2リットルエンジンを搭載している。
ヘアピンカーブも自在に
試乗車の提供は、ベンツやBMW、ワーゲンなどの輸入車を扱う御坊市の紀和商会。このコーナーでドイツ車を試乗するのは初めて。同乗のスタッフに、御坊市内の試乗コースを案内してもらった。
シートはオプションのフルパワーシートで、左右の支えがしっかりしているスポーツ仕様。シートポジションは低く設定されている。
「せっかくですから、カーブの多いコースを走りますか」という提案に、思わず顔がほころぶ。ベンツの優れた直進安定性を高速道路で体感したことはあるが、山道を走行するのは初めて。販売店の駐車場から国道42号に出てすぐに右折し、煙樹ケ浜、日ノ御埼のルートを走った。
A180に採用されている7速デュアルクラッチトランスミッション(DCT)はAT(オートマチック・トランスミッション)の一種で、一般のATやCVT(自動無段変速機)に比べて駆動力のロスが少ない。ステアリングコラム右側にあるセレクターレバーを指先で押し下げると、ドライブレンジに入る。
ゆっくりアクセルを踏み込むと、DCTはエンジンの回転を低く保ちながらスムーズにシフトアップしていく。ゆったりした加速感は「ベンツ」というプレミアムブランドにふさわしいが、A180のスポーティーな仕様とのギャップを感じる人もあるだろう。
わずか1250回転で最大トルクを発生するターボエンジンは、アクセルを意識的に強く踏めば小柄な車体をぐいぐい引っ張ってくれる。小さなアクセル操作でも活発な発進をしてくれる設定であれば、もっと楽しめると思った。
足回りは相当引き締められている。特に試乗車は、スポーツサスペンションと225/40R18という幅広・扁平(へんぺい)のタイヤが採用されていたので、路面のゴツゴツした感触が伝わってきた。スポーツカーであるトヨタ86を別格にすれば、これほど硬い足回りの国産試乗車はなかった。
一方で感心したのは、荒れた路面のざらつき感がきっちり吸収されていること。硬い足回りなのに、路面の小さな段差でポンポン跳ね上げられることもない。極めて剛性の高いボディーの下で、サスペンションがきっちり動いているという感じだ。
日ノ御埼のワインディングロードでは、低回転から力強いエンジンとスポーティーな足回り、ダイレクト感のあるステアリング、そして適切なギアを選択するDCTが、持ち味を存分に発揮した。
カーブで車体のロール(横傾き)はほとんどなく、上り坂でパワー不足を感じることもなかった。コンパクトな車体はステアリングの操作に素直に反応し、カーブを思い通りに曲がってくれる。急な下り坂のヘアピンカーブでも、車体が外側に引っ張られることなく、気持ちよく回り込むことができた。
およそ1時間の試乗を終えるころには、第一印象で気になったサスペンションの堅さを意識しなくなったから不思議だ。
先行車に自動追随
最新の輸入車は、安全装備が充実している。A180は、レーダー型衝突警告システム「CPA」と、居眠り運転を検知して注意を促す「アテンションアシスト」を全車に標準装備した。
CPAは、時速30km以上で走行中に先行車との車間距離が近すぎる場合に警告灯を点灯させる。さらに先行車や障害物と2.6秒以内に衝突する可能性がある場合には警告灯と警報音で注意を促す。ドライバーのブレーキ操作で十分な制動力が得られない場合には、車が制動力を自動的に補う。自動停止するようにしていないのは、ドライバーの回避操作を優先する考えからだという。
今回は、オプションの「セーフティーパッケージ」(20万円)に含まれている渋滞追随機能を体験した。一般路で軽トラックの後について、ステアリングコラム左側のレバーを指先で押し上げるだけで設定が完了した。
同乗のスタッフから「アクセルとブレーキから足を離してください」という指示。緩いカーブで軽トラックが減速すると、試乗車のアクセルがオフになりじわりと速度が調節された。その先の信号は赤。ブレーキを踏むのを我慢していると、車が自動的にブレーキをかけ、軽トラックと2mほどの車間を空けて完全に停止した。
停止状態でついブレーキを踏んでしまったので機能が解除されたが、ここで何もしなければ、先行車の発進に合わせて車が勝手に動きだすという。ゴー・ストップの繰り返しになる渋滞路では、格段に運転が楽になるし、追突防止にも役立つだろう。
このAクラスをはじめ、ボルボV40やゴルフⅦの車両本体価格は200万円台後半から設定されており、国産の上級車種と競合する。安全装備の充実を考慮すると、オプションを含めて300万~400万円という価格設定は、「一度は輸入車に乗ってみたい」というドライバーには魅力だろう。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴38年。紀伊民報制作部長。