新車試乗記

スズキ スペーシアX

【スペック】

全長×全幅×全高=3395×1475×1735mm▽ホイールベース=2425mm▽車重=850kg▽駆動方式=FF▽エンジン=658cc水冷3気筒DOHC、38Kw(52馬力)/6000回転、63Nm(6.4kg)/4000回転▽トランスミッション=CVT▽燃料消費率=29.0km(JC08モード)▽車両本体価格=132万3000円

【試乗車提供】

スズキアリーナ田辺・田辺スズキ販売
(田辺市下万呂567、0739・22・4416)

[2013年4月11日 UP]

 スズキは、ハイトワゴンタイプの軽乗用車「スペーシア」を3月15日に発売した。「パレット」の後継モデルで、室内を一段と広くするとともに、リッター29.0km(JC08モード)の低燃費を実現した。ホンダのNBOX(エヌボックス)、ダイハツのタントといった強力なライバルがいるハイトワゴンのジャンルで巻き返しを図る。

後席で足が組める


 「わ~広い」「天井にティッシュボックスが入るのは便利」。会社の駐車場に止めたスペーシアの試乗車を見て、わが社のママさんデザイナーは感激した様子だった。スペーシアの開発には女性スタッフが関わっているそうで、「こんな車が欲しい」という要望が随所に反映されている。
 まずは室内空間から見ていこう。室内長はパレットより190mm長い2215mmになった。タントは2160mm、エヌボックスは2180mmだから、ライバルをしのぐ広さを手に入れたことになる。
 数字の上では室内長に35~55mmの差があるが、3車種とも「感動の広さ」を実現していることに変わりはない。後部座席に座ったときの足元の余裕は普通車を完全にしのいでおり、成人男性が足を組むことができる広さがある。
 個性が出ているのはシートアレンジだ。2012年の新車販売で軽自動車のトップに立ったエヌボツクスは、床下に燃料タンクを配置するセンタータンクレイアウトを採用。後部座席の下にタンクの出っ張りがないので、座面を跳ね上げると大きな空間ができる。これにより、背が高いかさばる荷物も楽々と収納できる。
 背もたれを前に倒してフラットな荷室空間を作る操作もワンタッチだ。その代わり、後部座席をスライドさせる機能はないので、荷室と後席の広さは調節できない。子どもをチャイルドシートに乗せているときなどには、運転席との距離が遠く感じるかもしれない。
 スペーシアの後部座席は、左右別々に前後170mmスライドさせることができる。一番前に調節しても足元には余裕があり、前席とひざの間にはこぶし一つ半の空間ができた。最後部まで下げると、足を組んでゆったり座ることができる。
 後部座席を収納してフラットな荷室スペースを作るためには、2段階の操作が必要。シートを一番後ろにスライドさせてから背もたれを前に倒し、さらに軽く持ち上げながら前方に押し出すようにして収納する。タントも後部座席が左右独立して260mmスライドする。

女性ならではの工夫


 駐車場で子どもが元気よくドアを開けて、隣の車に傷を付けそうになったという経験はないだろうか。ドアを少しへこませただけでも、板金修理代はすぐに5万円を超えてしまうから大変だ。子どもを乗せる機会が多い車は、スライドドアが安心だ。
 後部のドアは、スペーシアとエヌボックスが両側スライドドアになっている。スペーシアの後席左側は、指先でスイッチに触れるだけで開けられるワンアクションパワースライドドアを採用している。タントは右側がヒンジ式、左側がスライドドア。左側のセンターピラーがないので、スライドドアと助手席のドアを同時に開けると、1480mmの広い開口部ができる。
 ママさんドライバーのもう一つの重要なチェックポイントは、自転車が載せやすいかどうか。最近は、小中学生だけでなく、高校生の送り迎えも増えているから、27インチの自転車を載せられることは必須条件。スペーシア、エヌボックス、タントの3車とも、この条件を十分に満たしている。
 スペーシアはそれ以外にも随所に、女性ならではの工夫が盛り込まれている。例えば、上級グレードの後部座席には、巻き取り式サンシェードが標準で付いていて、チャイルドシートに乗せた子どもを強い日差しから守ってくれる。
 オーバーヘッドコンソールとグローブボックスの2カ所にティッシュの箱が入るようになっているのも便利。必要なときにさっとティッシュを取り出すことができる。

軽快な走り


 それでは、実際に運転してみよう。試乗車は、装備が充実したXグレードで、52馬力の自然吸気エンジンを搭載している。
 走りだして感心したのは、予想以上の軽快感。ハイトワゴンは広い室内と引き換えに車重が重くなることから、自然吸気エンジンでは力不足になりがち。スペーシアは、パレットの同等グレードに比べて車重を90kgも軽量化するとともに、低速で力強いエンジン、副変速機付きのCVT(自動無段変速機)を組み合わせることで、発進加速の鈍さを解消した。ディーラーで試乗した来店客からは「ターボなしでも十分」という声が寄せられているという。
 しかし、上り坂や追い越し加速では力不足を感じる場面もある。家族4人で乗る機会が多い人は、パワーに余裕があるターボモデルを選ぶのがいいかもしれない。
 上級グレードのフロントサスペンションには、コーナリングでの横傾きを抑えるスタビライザーを装備している。フロアを低くする低重心化と合わせて、ハンドリングを向上させている。足回りは、意外に硬めという印象を受けた。タイヤによっては路面のゴツゴツ感が伝わってくるかもしれない。

リッター29kmの低燃費


 ワゴンRで採用された低燃費技術には、さらに磨きが掛けられた。停車前の減速時には、アクセルを離したときから燃料をカットし、ブレーキを踏んで時速13km以下になると自動でエンジンを停止する新アイドリングストップ機能を採用した。
 車が減速するときのエネルギーを電気に変えてリチウムイオンバッテリーに蓄える「エネチャージ」は、発進加速の際に発電機を回す負荷を軽減し、加速性能の向上と燃料の節約に役立っている。これらにより、スペーシアのJC08モード燃費はリッター29.0kmになり、ワゴンRを0.2km上回った。
 アイドリングストップ機能は、採用が始まった当初は敬遠するユーザーもいたが、いまでは当たり前の装備になっている。信号待ちでエンジンが回っていると、ガソリンを無駄にしているのが気になって落ち着かないほどだ。その動作も洗練されてきており、スペーシアのアイドリングストップも違和感はなく働いてくれた。
 広い室内と低燃費で、魅力的な車に仕上がった。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴38年。紀伊民報制作部長。