新車試乗記

トヨタ クラウンハイブリッド・アスリートS

【スペック】

全長×全幅×全高=4895×1800×1450mm▽ホイールベース=2850mm▽車重=1660kg▽駆動方式=FR▽エンジン=2497cc水冷4気筒DOHC、131Kw(178馬力)/6000回転、221Nm(22.5kg)/4200~4800回転▽モーター=105Kw(143馬力)、300Nm(30.6kg)▽システム全体=162Kw(220馬力)▽燃料消費率=23.2km(JC08モード)▽トランスミッション=電気式無段変速機▽車両本体価格=469万円

【試乗車提供】

和歌山トヨタ田辺店
(田辺市東山1丁目10の33、0739・22・5333)

[2013年3月14日 UP]

 トヨタのクラウンが変わった。個性的なスタイルの採用と合わせて、ハンドリングの味付けも大きく変わった。新たに設定された2.5リットルのハイブリッド車は、ガソリン1リットル当たり23.2kmの低燃費。重量級の高級セダンを軽自動車やコンパクトカー並みの燃費で走らせることができる。

迫力ある顔つき


 新型クラウンは、1955年の誕生以来14代目となる。コロナやセリカ、日産ブルーバード、サニーなど、往年の名車が次々に姿を消す中で、60年近い歴史を積み重ねている。
 モデルチェンジではまず、フロントグリルのイメージが大きく変わった。王冠(クラウン)をモチーフにしたというデザインは、写真で見ても迫力がある。実車からは精悍(せいかん)なイメージが強く伝わってきて、歴代のクラウンが弱々しく感じてしまうほど。万人向けのデザインから、個性を主張するデザインに方向転換したのだろう。
 車種構成は、従来通りロイヤルとアスリートの2系列。ロイヤルシリーズは、高級車をゆったり乗りたい人や、運転手付きで後席に乗る人のための車。デザインもややおとなしい。アスリートはスポーティーな仕様で、運転を楽しみたい人に向いている。
 エンジンは、ガソリンが3.5リットル(315馬力)と2.5リットル(203馬力)の2種類。今回新たに設定された2.5リットルのハイブリッドは、モーターと合わせた総合出力が220馬力となっている。
 先代のクラウンハイブリッドは、最高出力296馬力の3.5リットルエンジンと147Kw(200馬力)の高出力モーターを組み合わせていた。モーターによるアシストは燃費の改善よりも、動力性能や快適性の向上に割り振られていた。
 新型クラウンハイブリッドは一転して、高級エコカーに生まれ変わった。23.2kmというJC08モード燃費は、3.5リットルガソリン車(9.6km)や2.5リットルガソリン車(11.4km)の2倍以上の数字。それでいて、3リットルガソリン車並みの動力性能を得ている。

足回りも進化


 試乗車は、ハイブリッドのアスリートS。塗装はプレシャスブラックパールと呼ばれる、深みのある黒。光の当たり方によって、塗装面がきらきらと輝く。
 アスリートは、王冠をかたどったフロントグリルと、フロントフェンダー上の膨らみが迫力と躍動感を与えている。これまでのクラウンになかった「ちょい悪おやじ」の雰囲気たっぷりだ。低く構えたシルエットは真横から見ると、BMW5シリーズなどスポーツセダンとイメージが重なる。
 プリウスやサイなどトヨタのハイブリッド車は、シフトレバーにゲーム機のような電子式レバーを採用しているが、クラウンは機械的に操作する一般的なシフトレバーになっている。クラウンのオーナーに多い年齢の高いドライバーへの配慮なのだろう。おかげで、ガソリン車から乗り換えても違和感がなく運転できる。
 電動式シートで運転ポジションを調節して、インパネ右側のスターターボタンを押すとメーターが点灯する。この時点ではエンジンはかからない。ギアをDレンジに入れてアクセルを踏むとモーターの力で音もなく動きだし、助走からしばらくしてエンジンが始動する。
 一番の関心事は、4気筒エンジンを含めたハイブリッドシステムの仕上がり具合。クラウンはこれまで、回転が滑らかな6気筒エンジンを採用してきた。4気筒エンジンは、高級感を損なっていないのだろうか。
 結論から先に言ってしまえば、心配する必要はなかった。発進加速でエンジンが始動する瞬間に、わずかに4気筒らしい音と振動が伝わってくるが、それ以外は4気筒ということを意識することはなかった。回転の上昇はスムーズで音は静か。街中の走行ではモーターとエンジンが頻繁に切り替わるが、インパネの表示を見ていなければどちらで走っているのか全く分からないほどだ。
 バイパス道路での合流や追い越しなどでアクセルを強めに踏めば、エンジンとモーターの合わせ技で強力な加速が得られる。省燃費と引き換えに振動や騒音、動力性能を犠牲にするというストレスはまずないだろう。発売から1カ月の受注状況では、全体の66%をハイブリッドが占めていたが、現在は75%に上昇しているという。そこからも、ハイブリッドの満足度が分かる。
 もう一つ、新型クラウンで大きく変わったのは、足回りの設定。これまでのクラウンは、ソフトで滑らかな乗り心地が特長だったが、ドライバーに路面の変化が伝わりにくかったり、「車に乗せられている」という印象を受けたりした。
 新型クラウンのサスペンションは、滑らかな乗り味の中にもしっかりした腰があり、不快感のない範囲で路面の変化を伝えてくれる。カーブを回ったり、交差点を曲がったりする際の動きも素直で、大きな車体をほとんど意識せずに済む。最小回転半径が5.2mと、中・小型車並みであることも関係しているのだろう。室内の静粛性は、小型車とは段違いだった。

安全装備も充実


 最高級車だけあって、最先端の安全装備も充実している。上級グレードのヘッドライトに採用されているアダプティブハイビームシステムは、対向車や先行車だけにハイビームの光を当てないよう、センサーの情報を基に光の当たる範囲を自動調節する機能。
 プリクラッシュセーフティーシステムは、ミリ波レーダーで先行車や障害物を検知し、衝突の恐れがあるときには警報を鳴らしたりブレーキを制御したりして回避を支援する。従来より性能が向上し、実際に発生している追突事故の9割以上の相対速度域に対応できるという。
 また、高齢者に多いブレーキとアクセルの踏み間違えに対応するのが「インテリジェントクリアランスソナー」(オプション)。停止するつもりなのにアクセルを踏み込んでしまった場合、車が障害物を検知してエンジンの出力を抑えるとともに、自動的にブレーキをかけてくれる。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴38年。紀伊民報制作部長。