新車試乗記

ホンダ N-ONE タイプG

【スペック】

全長×全幅×全高=3395×1475×1610mm▽ホイールベース=2520mm▽車重=840kg▽駆動方式=FF▽エンジン=658cc水冷3気筒DOHC、43Kw(58PS)/7300回転、65Nm(6.6kg)/3500回転▽燃料消費率=27.0km(JC08モード)▽トランスミッション=CVT▽車両本体価格=115万円

【試乗車提供】

ホンダカーズ田辺・稲成店
(田辺市稲成町46、0739・24・4500)

[2013年2月14日 UP]

 快走しているホンダの軽乗用車「N」シリーズの第3弾として、N-ONE(エヌワン)が発売された。往年の名車「N360」を思い起こさせるような親しみやすいデザインと高い質感を打ち出している。室内の広さにこだわったエヌボックスに対して、エヌワンは「新しいベーシックカーを目指した」という。

好調な販売


 国内の軽自動車市場では、ダイハツとスズキの「2強」によるトップ争いが続いていたが、そこに割り込んだのがNシリーズ。2011年12月にエヌボックス、12年7月にエヌボックス・プラスが登場。室内の広さで人気だったダイハツ・タントの強力なライバルになった。
 13年1月のエヌボックスシリーズの販売台数は2万552台で、軽自動車のトップ。普通車を含めた新車販売ランキングでもトヨタのハイブリッド車「アクア」(2万2466台)に続いて2位に食い込んでいる。
 シリーズ第3弾として登場したエヌワンで目を引くのは、今では珍しい丸形のヘッドライト。黒いフロントグリルとの組み合わせで、愛らしい表情を作り出している。エヌボックスが、「広さ」を最大の武器に、セカンドカーとしての使いやすさを追求しているのに対して、エヌワンは「遠出もできるファーストカー」を目指しているようだ。
 その個性を強調しているのが、車体とルーフ(屋根)の色を塗り分けたツートンのコーディネート。白、赤、黄色の車体には黒いルーフ、濃紺の車体にはシルバーのルーフ、明るい青には白いルーフを組み合わせている。ルーフの塗装は、一台一台手作業で仕上げているといい、欧州車のような雰囲気を漂わせている。
 エンジンは、最高出力58馬力の自然吸気エンジンと、64馬力のターボエンジン。自然吸気エンジンの燃費はガソリン1リットル当たり27.0km(JC08モード)と優秀だ。
 エヌワンの販売は好調で、1月は1万967台。これは軽自動車で5位、新車全体で8位にランクされる。

N360がモチーフ


 1967年発売の軽自動車「N360」をモチーフにしたというエヌワンだが、「こんな雰囲気の車をほかにも見たことがある」と記憶を呼び起こして、たどり着いたのが日産自動車のBe-1(ビーワン)。87年にマーチのバリエーションとして1万台限定で生産された排気量1リットルのコンパクトカーである。26年前の車だが、今でも中古車として流通している。
 エヌワンは、どことなく懐かしさを感じるようなボディーに、最新の安全装備を搭載している。雪道やぬれた路面で横滑りを防止するVSA(車両挙動安定化制御システム)を全車に標準装備したほか、軽自動車では初めて、エマージェンシーストップシグナルも標準装備した。これは、急ブレーキを踏んだときにハザードランプが高速点滅して後続車に減速を知らせる機能で、追突被害の防止に役立つ。
 基本装備も充実しており、最も安価なGタイプ(車両本体価格115万円)でも、キーを持っているだけで施錠・解錠ができるスマートキーやプッシュエンジンスタート、アイドリングストップ機能、フルオートエアコンなどを装備している。

上質な乗り味


 試乗車は、自然吸気エンジンを積んだGタイプで、車体の色は鮮やかな赤。目立つ色だが、エヌワンのデザインには似合っている。エヌワンの車体色は全部で11色ある。スタンダードモデルでは白の販売比率が31%と最も高く、赤は13%で2位。内外装をランクアップしたプレミアムモデルはツートンカラーの人気が高く、赤い車体に黒のルーフが18%でトップになっている。
 車体の骨格がエヌボックスと共通なので室内は広く、成人男性4人が乗るのに十分な室内空間を確保している。後部座席は、身長174cmのリポーターが座ったときに、ひざの前にこぶし三つ分、頭上に二つ分の余裕がある。エヌボックスは天井が高いのでがらんとした広さを感じるが、エヌワンは、落ち着いた雰囲気の広さという印象だ。
 使い勝手の面では、後部座席の下に燃料タンクの出っ張りがないので、リアシートの座面を跳ね上げてフラットな空間を作ることが可能。鉢植えの植物など、背の高い荷物を載せるのに便利だ。それでいてトランクには、20リットルのポリタンク四つを載せられるスペースを確保している。
 シートは大きめのベンチシートで、長時間の運転にありがたいアームレストを標準装備している。シフトレバーはインパネから伸びていて、その周辺の空調やオーディオの操作パネルもすっきりしている。
 試乗は、燃費を節約できるECONモードが入った状態でスタートした。エヌワンは、エヌボックスに比べておよそ100kgも軽いので、走りだしはスムーズだ。ボタンを押してECONモードを切ると、さらに軽快に走ってくれる。
 感心したのは、軽自動車でありながらステアリングの動きがスムーズで、足回りも滑らかに動いていること。このあたりから、ホンダが「週末の長距離ドライブを快適にこなせる車を目指した」という意気込みが感じられる。内装の仕上げも上々。惜しいのは車内に入り込んでくる騒音で、軽自動車として平均的と感じた。
 上質な内装を採用したプレミアムモデルやターボモデルには試乗していないが、騒音を徹底的に抑えれば、「小さなファーストカー」としての魅力が一段と増すだろう。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴37年。紀伊民報制作部長。