新車試乗記

日産 ノートX DIG-S

【スペック】

全長×全幅×全高=4100×1695×1525mm▽ホイールベース=2600mm▽車重=1090kg▽駆動方式=FF▽エンジン=1198cc水冷3気筒DOHC、72Kw(98馬力)/5600回転、142Nm(14・5kg)/4400回転▽JC08モード燃費=24.0km/L▽トランスミッション=CVT▽車両本体価格=149万9400円

【試乗車提供】

日産プリンス和歌山販売田辺支店
(田辺市上の山1丁目8の16、0739・22・8132)

[2013年1月10日 UP]

 日本自動車研究者・ジャーナリスト会議(RJC)が主催する2013年次RJCカー・オブ・ザ・イヤーを受賞した日産自動車の新型ノートに試乗した。従来型ノートは排気量が1.5リットルだったが、新型は車体の大きさをそのままに、一回り小さい1.2リットルのスーパーチャージー(SC)付きエンジンを搭載。1.5リットル並みの動力性能とガソリン1リットル当たり25.2km(JC08モード)の低燃費を両立させた。燃費性能は同じクラスのハイブリッド車に一歩譲るものの、車両価格は大幅に安い。

1.5リットル並みのパワー


 大きめの車体に排気量の小さいエンジンを搭載する「ダウンサイジング」をいち早く採用したのはフォルクスワーゲン。主力車種ゴルフのエンジンは従来、1.6~2リットルだったが、これを1.2~1.4リットルに置き換えた。エンジンには過給機(ターボチャージャー、SC)を装着して排気量の大きなエンジンと同等の出力を得ている。
 ターボは、エンジンの排気でタービンを高速回転させて空気を圧縮し、シリンダーに送り込む。SCは、空気を圧縮する動力をエンジンのクランクシャフトから直接取り出す。ターボは、エネルギーのロスが少ない代わりに、エンジンの回転がある程度高くならないと効果的に過給されない。SCは、ターボよりもエンジンへの負荷が大きいが、低回転域から過給効果が得られるというメリットがある。
 ノートのエンジンは、SCなしのHR12DE(最高出力79馬力)と、SC付きのHR12DDR(98馬力)の2タイプ。自然吸気のHR12DEは、2010年7月にマーチに搭載されて登場したエンジンで、3気筒の特徴である低速域での力強いトルクが印象的だった。
 新開発のHR12DDRエンジンは、この3気筒エンジンをベースに、燃費の節約に有利なミラーサイクルや燃焼室に燃料を直接噴射する直噴システムを採用し、SCと組み合わせた。これにより、1.5リットル並みのトルクと、自然吸気エンジンを超える省燃費性能を得ている。
 ノートの燃費は、出力が高いSC付きエンジン搭載車の方が優れており、自然吸気エンジンの22.8kmに対して、SC付きは24.0~25.2kmを実現している。

低速の力強さ実感


 それでは、SC付き1.2リットルエンジンのフィーリングはどうだろうか。先代ノートの1.5リットルエンジンはとても活発で、発進加速はもちろん、追い越しでも十分なパワーを発揮してくれた。
 結論から先に言ってしまえば、SCによる過給で低回転域から大きなトルクが実感でき、回転の上がり方も4気筒エンジンに劣らないスムーズなものだった。上り坂も、SCの効果で力不足を感じることはなかった。SCが付いていることを知らされていなければ、とても1.2リットルとは思えない力強さを発揮した。
 このエンジンのもう一つの特徴は、ボタン一つでオン・オフができるエコモードが設定されていること。エコモードにすると、アクセルを多少多めに踏んでも、車がエンジンやミッションを制御してガソリンの無駄遣いを減らしてくれる。加速はゆったりしたものになるが、街中での走行には十分な性能だった。
 実は、エコモードで走っているときにはSCはほとんど作動しておらず、加速性能はSCがない自然吸気エンジンよりもおとなしいという。その点では、必要以上の動力性能を求めない人には、SC付きより20万円安い自然吸気エンジン車も選択肢に入るのかもしれない。
 室内は十分に広く、後部座席はひざの前にこぶし2つ分の余裕があった。細かい点では、フロントシートの肩の部分が大きくそぎ落としてあるので、後部座席から前方が見やすい。長距離ドライブでは圧迫感がずいぶん違うだろう。

ハイブリッドとの違いは


 先代ノートは、実用性を重視した質素なコンパクトカーだったが、今回のフルモデルチェンジで少し上級指向になった。これは、ノートの兄貴分に当たるティーダの廃止に伴い、1クラス上のユーザーも視野に入れているためだ。最上級グレードとして設定された「メダリスト」は、車両の周囲を上から見下ろしたような映像を映し出す「アラウンドビューモニター」や上質な内装を標準装備している。
 車両本体価格は、SC付きの中間グレードX・DIG-Sでおよそ150万円。これに対して、国内の新車販売でトップを走るトヨタのハイブリッド車アクアSが179万円だから、その差は29万円。
 一方、JC08モード燃費を比べると、アクアの35.4kmに対してノートは24.0km。これはあくまでもカタログ値なので、実用燃費の差はもっと小さいだろう。年間の走行距離によって損得勘定はずいぶん変わってくるが、車両の価格差と月々のガソリン代をてんびんに掛けて、どちらを取るのかが悩ましいところだ。
 モデルチェンジ以降の販売実績をみると、12年10月、11月ともにトップはアクア、2位はプリウス、そしてノートは3位に食い込んでいる。ホンダ・フィットを含め、上位を独占していたハイブリッド車の牙城をダウンサイジング車が切り崩した形だ。
 ハイブリッド車は、高価なバッテリーや複雑な機構を積むことから、どうしても車両価格が高くなってしまう。これに対して、既存のエンジン技術を磨き上げて燃費を改善する「第3のエコカー」が軽自動車を含めて進化し、低価格をアピールしている。
 欧州では、コンパクトカーだけでなく、車体が大きな高級セダンにもダウンサイジングの手法が採用されている。ノートが先陣を切ったダウンサイジングの動きが国内ではどう進化していくのか、今後が楽しみだ。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴37年。紀伊民報制作部長。