新車試乗記

スズキ ワゴンR

【スペック】

ワゴンR・FX〔カッコ内はスティングレーT〕
全長×全幅×全高=3395×1475×1640〔1660〕mm▽ホイールベース=2425mm▽車重=780〔820〕kg▽駆動方式=FF▽エンジン=658cc水冷3気筒DOHC、38Kw(52馬力)/6000回転、63Nm(6.4kg)/4000回転、〔インタークーラーターボ、47Kw(64馬力)/6000回転、95Nm(9.7kg)/3000回〕▽トランスミッション=CVT▽燃料消費率=28.8km〔26.8km〕(JC08モード)▽車両本体価格=110万9850円〔149万6250円〕

【試乗車提供】

スズキアリーナ田辺・田辺スズキ販売
(田辺市下万呂567、0739・22・4416)

[2012年11月8日 UP]

 軽ワゴンのジャンルを築いたスズキの軽乗用車「ワゴンR」がフルモデルチェンジした。バッテリーへの充電に減速時のエネルギーを使ってエンジンの負荷を減らす「エネチャージ」の採用や車体の軽量化などにより、リッター28.8kmという、軽ワゴンで最高の低燃費を実現した。いかつい顔つきのスティングレーも同時発売した。

3つの低燃費技術


 ワゴンRに採用された低燃費技術は三つ。一つは減速エネルギー回生技術「エネチャージ」、二つめは早めにエンジンを止める新アイドリングストップシステム、三つめはエンジン停止中もエアコンから涼しい空気が噴き出す「エコクール」。
 自動車は常にエンジンの力で発電機を回して、走行に必要な電気やバッテリーに蓄える電気を作っている。自転車のライトを点灯するとペダルが重くなるように、発電はエンジンにとって大きな負担。ワゴンRは、エンジンが発電に使う燃料をできるだけ節約するため、減速するときに高効率の発電機で電気を起こし、それを高効率のリチウムイオンバッテリーに蓄える。エンジンの負荷を減らすことは燃料の節約だけでなく、加速性能の向上にも貢献する。
 新アイドリングストップシステムは、ブレーキを踏んで減速すると、時速13km以下でエンジンが止まる。エンジンの停止時間を長くすることで、燃料の消費を減らす。
 アイドリングストップ中はエアコンのコンプレッサーが止まるので、空調は送風に切り替わるが、エコクールは、空調ユニットに蓄冷材を入れることで、涼しい風を送り続ける。
 車体の軽量化は燃料の節約に大きく貢献するため、自動車各社は新型車の「ダイエット」に力を入れている。ワゴンRは、モデルチェンジ前の同型車に比べて70kgも軽くなった。

広くなった室内


 ワゴンRは装備の違いによりFXとFXリミテッドがあり、スティングレーにはベースグレードのXとターボエンジンを搭載したTが設定されている。
 今回のフルモデルチェンジでは、MRワゴンと同じ新しいプラットホーム(車台)とエンジンが採用された。ホイールベース(軸間距離)は先代より25mm長い2425mmになり、室内長も1975mmから190mm拡大されて2165mmになった。その分、後部座席に余裕ができた。
 新型エンジンの最高出力は52馬力で、先代より2馬力低くなっているが、低速のトルクが豊かになり、発進が力強くなった。副変速機付きのCVT(無段自動変速機)はそのエンジン特性を生かして、低めの回転を保ちながら加速していく。
 スティングレーTが搭載するターボエンジンの性格は、自然吸気エンジンとは別物だ。最高出力64馬力、最大トルクは9.7kg。アクセルへの反応が鋭く、軽量化された車体をぐいぐい引っ張る。
 外観は、ノーマルのワゴンRが縦型のヘッドライトを採用した優しい顔つきであるのに対して、スティングレーは水平基調の力強いデザイン。内装は、ノーマルが暖かみのあるベージュのツートン、スティングレーは精悍(せいかん)な黒で統一されている。

バランスのFX、強力なターボ


 試乗したのは、ベースグレードのFXとターボエンジンを搭載したスティングレーT。ワゴンRは価格や使い勝手、走行性能の面でバランスの取れた軽乗用車で、FXはその伝統を引き継いでいる。シートとルームミラーを調節し、シートベルトを締めて走りだすと、これまで乗ったワゴンRとまったく違和感なく運転できる。このあたりの作り込みは、ワゴンRを乗り継いでいるドライバーに大きな安心感を与えるだろう。
 やや高め着座位置も引き継いでおり、運転席からの死角も少ない。CVTは、燃費をかせぐためにエンジンの回転を低めに保つよう設定されているが、低速トルクが豊かなエンジンと軽量化された車体との組み合わせにより、ストレスを感じることなく走ることができる。
 日常の使い方に合わせて後席と荷室のスペースを自在に調節できるのもワゴンRの長所の一つだ。後部座席は左右別々にスライドさせることが可能で、一番後ろに下げると足を組めるほどの余裕ができる。ただし、その場合には荷室スペースが狭くなるので、利用シーンよって使い分けたい。
 スティングレーTは、発進加速、追い越し加速ともに強力で、常識的な走り方の範囲で動力性能に不満を感じることはまずないだろう。エンジン、ミッションともアクセル操作への反応が敏感だ。市街地の試乗では、手動でギアチェンジができるパドルシフトの出番がなかったほどだ。
 アイドリングストップは全車標準装備されており、減速していくと信号で停止する前にエンジンが止まる。ただし、車が停止する直前にブレーキを緩めると再始動してしまうので、慣れるまで少しぎくしゃくするかもしれない。再始動は素早く、発進のタイミングが遅れることはない。また、坂道で一旦停止しても後ずさりしないヒルホールドコントロールを装備しているので安心だ。
 大きく見やすい速度計は、燃費効率がいい運転をすると照明が青から緑に変わる。マルチインフォメーションディスプレーは、平均燃費や瞬間燃費、アイドリングストップで節約したガソリンの量などを表示する。
 実用燃費は、走行条件や走り方によって大きく変わるので、短時間の試乗で推し量ることは難しい。特に、不特定多数の人が乗る試乗車はエンジンを回し気味にすることが多いので、燃費は悪化する。それでもFXの平均燃費計は、試乗を始めるときにリッター16.8kmを表示し、試乗を終えるときには17.8kmになっていた。エコ運転を心掛ければ、市街地でも20kmを超えるのではないかという感触を得た。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴37年。紀伊民報制作部長。