手動6速ミッション
現行のスイフトは2010年9月にフルモデルチェンジを受けた。スポーツは1年3カ月遅れて、11年12月に登場した。
専用チューニングを施した1.6リットルエンジンは欧州車ばりの無鉛プレミアムガソリン(ハイオク)仕様で、最高出力136馬力、最大トルク16.3kgを発生する。
ミッションは、6速マニュアル(手動)とCVT(自動無段変速)が選べる。マニュアルミッションは、2~5速ギアに変速差が小さいクロスレシオを採用して加速性能を向上。6速ギアは、高速道路を利用した長距離走行などでエンジンの回転を低く抑え、燃費を節約する。CVTには、ステアリングの手元でギアチェンジができるパドルシフト付き7速マニュアルモードを採用し、スポーツ走行に対応している。
足回りも大きく強化されている。リアサスペンションは専用設計。フロントサスペンションもステアリングの操作に敏感に反応するようチューニングされている。タイヤは、専用の17インチ・アルミホイールに195/45/R17という大径扁平(へんぺい)タイヤを装着している。
パワフルなエンジン
試乗車の色は、スイフトスポーツのテーマカラーである鮮やかな黄色。他のグレードにはない色なので、どこを走っていてもすぐにスポーツと分かる。ミッションは、5月に試乗したトヨタ86(はちろく)に続くマニュアルトランスミッションだった。86の運転でだいぶ勘を取り戻したので、今回はあまり緊張せずに運転することができた。
インテリアは黒で統一されている。シートは左右のふちが高く盛り上がったスポーツタイプ。このシートは座面やふちが堅めで、スポーツ走行でも体をしっかり支えてくれる。
車体の大きさはホンダ・フィットやトヨタ・ヴィッツとほぼ同じだが、後部座席や荷室の広さはライバルに一歩譲る。しかし、スイフトスポーツにはこれを補って余りある魅力がある。
エンジンの始動はプッシュボタン式。CVT車はブレーキを、マニュアル車はクラッチを踏んで、ダッシュボード右上のスタートスイッチを押す。高出力エンジンにもかかわらずアイドリングの音は静かで、振動も少ない。信号待ちで止まっているときにあまりにも静かだったので、タコメーターでエンジンが回っているのを確認したほどだ。
クラッチは軽くて、つながりもスムーズ。トヨタ86は、軽いアクセルペダルと反応の鋭いエンジンのおかげで慣れるまでぎくしゃくしたが、スイフトスポーツはすぐになじむことができた。
ノーマルのスイフト(1.2リットル、91馬力)も運転して楽しい車だが、「もう少しパワーがあったら」という点がもどかしかった。これに対して、スポーツの1.6リットルエンジンは十分にパワフルだ。アクセルを強く踏み込んだときに聞こえてくるデュアルエキゾーストの排気音も心地よい。遮音対策もきちっとしており、車室内に入り込んでくる騒音はよく抑え込まれている。
足回りはノーマルのスイフトよりもかなり引き締められている。多少ごつごつした感じがするが、乗り心地は悪くない。コンパクトな車体で、2リットルクラスの車が装着するような17インチの大径タイヤをしっかり履きこなしていることに驚く。
短いホイールベース(車軸間距離)と引き締められたサスペンション、切れ味の鋭いステアリングの組み合わせにより、急カーブが続く山道を気持ちよく走ることができる。車体のロール(横傾き)が小さいので、ステアリングを大きく切り込んだときの不安感も少ない。ノーマルのスイフトは軽快感が際だっていたが、スポーツはそれにしっかり感が加わったという印象だ。直進安定性に優れている点も、ノーマルのスイフトから引き継いでいる長所である。
エコカーだけじゃない
燃費性能に優れたエコカーの人気と、大きな車から小さな車に乗り換えるダウンサイジングが国内自動車市場の流れだったが、ここに来てスポーツタイプのトヨタ86やスバルBRZが発売されるなど「運転を楽しむ車」に自動車メーカーが力を入れ始めている。若者の車離れに歯止めをかけたいという思いも背景にあるのだろう。
この1年間に試乗した車の中で運転が楽しい車を選ぶとすれば、トヨタ86、マツダアクセラ、そしてこのスイフトスポーツの3台を挙げる。多分に個人的な好みによる選択だが、こういった車がもっと増えることを期待したい。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴37年。紀伊民報制作部長。