新車試乗記

トヨタ カローラフィルダー1・8Sエアロツアラー

【スペック】

全長×全幅×全高=4360×1695×1465mm▽ホイールベース=2600mm▽車重=1160kg▽駆動方式=FF▽エンジン=1797cc水冷4気筒DOHC、103Kw(140馬力)/6200回転、172Nm(17.5kg)/4000回転▽トランスミッション=CVT▽燃料消費率=16.6km(JC08モード)▽車両本体価格=212万円

【試乗車提供】

トヨタカローラ和歌山シーズ田辺店
(田辺市上の山1丁目12、0739・24・1190)

[2012年06月14日 UP]

 トヨタは、カローラアクシオ(セダン)とフィールダー(ワゴン)をフルモデルチェンジし発売した。「小さな車体に大きなスペース」をコンセプトに、カローラの歴史で初めて車体を小さくした。ハイブリッド車「プリウス」の大ヒットで脇役に回った形のカローラだが、どのように進化したのだろうか。

安全装備も充実


 カローラは、日本を代表する小型車として、1966年の誕生以来全世界で約3900万台が販売された。国内市場では69年から2001年まで33年連続で車種別販売ナンバー1の座にあり、日産自動車のサニーと並んで自家用車の代名詞となっていた。
 車体は、街中で扱いやすい5ナンバー枠(全長4700mm、全幅1700mm未満)を守っていたが、それでもモデルチェンジのたびに少しずつ大きくなってきた。ところが今回は、全長をアクシオで50mm、フィールダーで60mm短縮した。一方で、室内空間を拡大。後部座席のひざ前スペースを40mm拡大するなど、ゆとりを持たせた。全長を短くした効果で、最小回転半径は0.2m小さい4.9mになり、使い勝手が向上した。
 今回のモデルチェンジのもう一つのポイントは、エンジンの改良による動力性能の向上と燃費の改善だ。主力の1.5リットルエンジン(109馬力)は、燃焼を改善したり、内部摩擦を低減したりした。新開発のCVT(自動無段変速機)との組み合わせにより、アクシオでガソリン1リットル当たり20.0km(JC08モード)、フィールダーで19.6km(同)の低燃費を実現している。また、アクシオには1.3リットルエンジン搭載車が復活した。
 1.5リットルはオプションで、アイドリングストップ機能搭載車も選べる。信号待ちや一時停止の際にエンジンを止めることでガソリンを一段と節約。アクシオでリッター21.4kmと、7%燃費を改善している。フィールダーには、最高出力140馬力の1.8リットルエンジン搭載車も用意されている。
 安全装備の充実も見逃せない。横滑りが発生した場合にエンジン出力とブレーキを自動的に調節して安定を保つVSCや、発進や加速時に駆動輪の空転を防ぐTRCを全車に標準装備。また、ビジネスパッケージを除く各グレードにSRSサイドエアバッグ&カーテンシールドエアバッグや前後席4人分のプリテンショナー機構付き3点式シートベルトを装備している。
 トヨタの小型車は、ラインアップに隙がない。国内販売トップを走るプリウスに続いて、一回り小さいハイブリッド車「アクア」が快走し、さらに小さいクラスではヴィッツやパッソが売れている。カローラはプリウスとアクアの中間に位置するが、立場は微妙になっている。今回のフルモデルチェンジで、ユーザーからどんな評価を受けるのだろうか。

反応が鋭いCVT


 小型4ドアセダンが少なくなる中で、カローラの存在は貴重だ。営業仕様の装備をそろえた「ビジネスパッケージ」を用意していることからも、カローラの位置付けがうかがえる。
 最近のトヨタ車は、目がつり上がった動物のようなフロントデザインで統一されているが、アクシオ、フィールダーともにカタログではとてもおとなしい印象を受ける。最近試乗した86(ハチロク)やアクアとつい比較してしまうので、余計に個性がないように感じるのだろうか。
 しかし、新型カローラを目の前にすると、写真と実車の印象が大きく異なることを実感する。おとなしい外観は、言葉を変えると「丹精なデザイン」とも言えそうだ。車のデザインは人それぞれの好みなので、気になる人は実車を見ることをお勧めしたい。
 試乗したのは、フィールダーの1・8Sエアロツアラー。最高出力140馬力の1.8リットルエンジンを搭載している最上級グレードだ。「2リットル並みの力があるので、主力の1.5リットル(109馬力)とはだいぶ印象が違うと思います」という販売店スタッフのアドバイスを聞いてから公道に出た。
 このエンジンはウィッシュやオーリスなどにも搭載されているが、度重なる改良を受け、カローラへの採用に当たっては燃費とレスポンスを向上させたという。エンジンもさることながら、走行フィーリングに大きな影響を与えているのは、CVT(自動無段変速装置)の改良だ。初期のオーリスに比べると反応が格段に向上している。CVTは急加速時にどうしても、エンジンの回転が先に上昇して、後から速度が増してくる感覚が付きまとうが、フィールダーはエンジン回転と速度の上昇が一致するので気持ちいい。また、アクセルに対する反応も鋭い。1.8リットルは、加速時のレスポンスがさらに向上するスポーツモードを備えているが、街中では反応が敏感すぎて使いづらいと感じたほどだった。峠道を速めのペースで走るといったシーンには適しているのだろうが、日常の走行ではスポーツモードが不要と思われるほど活発に走ることができる。

丁寧な作り込み


 「強い個性がない代わりに、丁寧に作り込まれている」というのが新型カローラの印象だ。速度計やエンジンの回転計はオーソドックスなアナログ式で、トリップメーター(区間距離計)のリセットや時計の時刻合わせも旧来のつまみで操作する方式。このあたりは、ユーザーの年齢層が高いことを考慮しているのだろう。乗員が乗り降りしやすいように、シートの角に丸みが付けられていたり、ドアを開閉するハンドルが軽く操作できるように工夫されていたりときめ細かい。また、アクアやヴィッツなどコンパクトクラスの車がインパネに樹脂を多用しているのに対して、試乗車は高級感があるソフトパッドを使用している。
 フィールダーのバックドアは軽量化のため樹脂で成形されており、少ない力で開閉することができる。荷室の奥行きは、車体の全長が短縮されたにもかかわらず90mm長くなった。さらに、リアシートを倒すと、畳をそのまま載せられる奥行き2025mmの空間ができる。
 安全運転に影響する運転席からの視界も良好だ。大きく弧を描くフロントガラスの採用とフロントピラー(柱)を細くしたことで、前方視界を拡大。左斜め前方や斜め後方も確認がしやすい。
フィールダーの1.8リットルは、価格は少々高いが、走りと実用性を両立させたモデルと言えそうだ。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴37年。紀伊民報制作部長。