低回転から強力な加速
免許を取って37年になるが、運転したことがあるディーゼル車は2トントラックだけ。音がうるさかったことと、エンジン回転がすぐに頭打ちになり、ギアチェンジがせわしなかったことしか覚えていない。
試乗車に乗り込んでスターターボタンを押したとたんに、「おやっ」と思った。アイドリングのエンジン音がとても静かなのだ。意識すればディーゼルエンジン特有の「カラカラ」という音が聞こえるが、その大きさはガソリンエンジン並みと言っていい。
CX-5のミッションは、多くのエコカーが採用しているCVT(自動無段変速機)ではなく、アクセラにも搭載されている6速AT。エンジンの力を直接タイヤに伝えるロックアップ領域が広く、省燃費な上に加速もダイレクトだ。また、変速がとてもスムーズで、CVTのような滑らかな走りが味わえる。
販売店の駐車場を出て、一般道を走る。ゆっくりアクセルを踏んだときの加速感はガソリンエンジンと同等のスムーズさだ。時速40~50kmで走っていると、わずかにディーゼルエンジン特有の音が聞こえる。これは、路面からの騒音がよく抑え込まれているためで、それより高い速度域になると気にならなくなる。
このエンジンが本領を発揮するのは、バイパス道路への合流や追い越しなど素早い加速が要求されるときだ。わずか2000回転で42.8kgもの大トルクを発生するのだから、実用域での加速は半端ではない。意識的に強めにアクセルを踏んだとたんに体がシートに押し付けられ、あっという間に法定速度に達してしまった。これまでに乗った試乗車では、スカイラインクーペ(3.7リットルV型6気筒、333馬力)の切れのいい加速が印象に残っているが、CX-5の押し出されるような加速も感動的だ。
このエンジンは、実用燃費にも優れている。試乗に提供される車はさまざまな人が乗るのでどうしても燃費が悪化するが、CX-5のデジタル式燃費計は平均14.0kmを表示していた。ターボ付きの大出力エンジンと重い車体(1510kg)を考えると、相当な低燃費だ。しかも、軽油はガソリンよりも1リットル当たり20円以上安いので、一段と経済的である。
低燃費に貢献しているディーゼル用アイドリングストップ機能(i-stop)も完成度が高い。i-stopは再始動にセルモーターを使わないので、静かに、しかも素早くエンジンを掛けてくれる。「信号が青になるタイミングを見計らって、早めにブレーキを緩めて再始動させる」といった小細工をする必要がない。
十分な広さの室内
シートはスポーティーな仕様で、左右の支えがしっかりしている。着座位置が高めなので、運転席からの見晴らしもいい。全幅が1840mmもあるので、室内の広さは十分だ。身長174cmのリポーターが運転席に座ると、頭上にこぶし二つ分の空間ができる。また、後席はひざの前にこぶし一つ半の余裕があった。
足回りはやや硬めだが、路面のざらつきを上手に吸収してくれるので、舗装が荒れた道でも滑らかに走ってくれる。試乗車のタイヤは、乗り心地を重視したタイプが標準装備されていた。
SUVは左斜め下に大きな死角ができるが、CX-5は車体左側と後方の様子をカメラで映し、ルームミラーに表示するサイド・モニター/バックガイドモニターを標準装備している。
試乗車はオプションの、セーフティークルーズパッケージを装備していた。ブレーキを自動制御して衝突回避を支援する機能や、アクセルとブレーキを踏み間違えたときに急発進を制御して前方の障害物との衝突を防ぐ機能、斜め後方から接近する車両を検知して運転者に知らせるリア・ビークル・モニタリングシステムなどがセットになっている。
ガソリンエンジンも
CX-5にはFFと四輪駆動(4WD)があり、エンジンは2.2リットルターボディーゼルのほかに、2リットルのガソリン(FFモデルで最高出力155馬力、最大トルク20.0kg)がある。
ディーゼルエンジンは一般に、燃焼室を高圧縮して燃料を自然発火させるが、CX-5のエンジンは低圧縮比(14.0)とすることで、振動や騒音を抑え、さらに窒素酸化物の発生を減らしている。一方のガソリンエンジンも燃費は優秀で、JC08モードで16.0kmを実現している。
このディーゼルエンジンは、常用回転域での力強さが特徴で、同じエコカーでも、ハイブリッドや電気自動車とまったく違った魅力がある。
CX-5は発売1カ月で、月間販売目標の8倍に当たる8000台の受注があり、そのうち73%をディーゼルが占めたという。一般ドライバーからの注目度も高く、取材の際にも早めに試乗車を予約しておいたほどだ。
ヨーロッパでは、ディーゼル乗用車がエコカーの主流だが、日本でも人気が高まるのではないかと感じさせる性能だった。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴37年。紀伊民報制作部長