快走するエコカー
減税や補助金の追い風を受けて、燃費性能に優れたエコカーが快走している。2月の販売ランキング(軽自動車を除く)は、1位がトヨタのプリウス、2位がホンダのフィット、3位がアクア。プリウスとアクアはHV専用車。フィットもHVをバリエーションに持つ。
HVが上位を独占する一方で、エンジンの燃焼効率を高めるなど基本技術の改良で燃費を改善した「第3のエコカー」も好評だ。代表は、ダイハツの軽乗用車ミラ・イースやマツダのデミオ。高価なモーターやバッテリー、制御機器を積まないので、車両価格が安いことが魅力だ。
日産のリーフや三菱のアイ・ミーブといった電気自動車(EV)は、走行可能距離が短いことや充電施設が少ないことなどから、普及には時間がかかりそうだ。先日、名神高速道路でリーフを見掛けたが、人ごとながら「バッテリーはどこまで持つのだろうか」と心配になった。
今後、もう一つのエコカーとして注目されそうなのがディーゼル乗用車。ディーゼルエンジンは日本では、「音がうるさい」「黒煙を出す」といったマイナスイメージがあるが、ヨーロッパではいまやエコカーの主流。マツダは、大排気量ガソリンエンジン並みのトルクと低燃費を両立させたクリーンディーゼルを搭載した多目的乗用車CX-5を国内発売した。
ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンより燃焼効率が高く、燃料の軽油も価格が安い。トヨタが西独BMW製のエンジンを乗せた乗用車を発売する計画もあり、日本でディーゼル乗用車が普及する可能性がある。
納車は6カ月待ち
アクアはプリウスより一回り小さく、全長、全幅は小型車のヴィッツとほぼ同じ。全高はヴィッツより55mm低いので、スマートな印象を受ける。エンジンは1.5リットル。エンジンとモーターを合わせたシステム出力は100馬力で、プリウス(1.8リットル、136馬力)よりだいぶ控えめだ。
その分燃費性能に優れ、新しい燃費基準であるJC08モードで35.4km、従来の10・15モードで37.0~40.0kmを実現している。
グレードはL(車両本体価格169万円)、S(179万円)、G(185万円)の3タイプ。SとGはパッケージオプションを加えて好みの仕様に仕上げることができる。スマートエントリーパッケージやLEDヘッドランプパッケージなど7種類あるが、欲しいパッケージをどんどん追加していくと結構な金額になってしまうのでほどほどに。
安全装備は充実している。緊急ブレーキを関知して制動力を強めるブレーキアシスト機能をはじめ、ぬれた路面や雪道などでスピンを防ぐ横滑り防止装置、発進・加速時にタイヤの空転を防ぐTRCといった安全装備は全車標準になっている。
室内のレイアウトは良くできている。車高が低いにもかかわらず頭上の圧迫感はないし、後部座席もひざの前にこぶし一つ半ぐらいの余裕がある。HV用バッテリーを座席の下に配置することで、荷室スペースも広げている。
表示部分を中央に配置したセンターメーターは見やすいが、直線基調のインパネはシンプル。内装から受ける印象は評価が分かれそうだ。
アクアは、発売から1カ月余りで販売目標の10カ月分に当たる12万台の注文があり、生産が間に合わない状態が続いている。3月上旬に注文しても、納車は6カ月先という。待ちきれずにプリウスを購入するユーザーもいるという。
積極的にEV走行
試乗車のボディーカラーは鮮やかな黄色。とても目立つので、会社の駐車場で写真撮影をしているときにもずいぶん声を掛けられた。
HVの始動は、慣れるまで戸惑う。プッシュ式のスタータースイッチを押しても、メーターに明かりがともるだけでエンジンはかからない。そのままアクセルを踏み込むと、モーターが回転する小さな音とともに動きだした。
先輩格のプリウスのシフトレバーはゲーム機のジョイスティックのようだが、アクアは一般のガソリン車と同じフロア式のシフトレバーを採用している。こちらの方が、初めて乗る人には扱いやすいだろう。
トヨタのHVシステムは良くできていて、モーターとエンジンの切り替えは、どこでエンジンが始動・停止したのか分からないほどスムーズだ。アクアは燃費を向上させるため、バッテリー残量が十分にあるときは、積極的にモーターだけでEV走行をする設定になっている。幹線道路を50kmで走行していても、気付かないうちにエンジンが止まっていたということがたびたびあった。
車体の大きさからは「ヴィッツ・ハイブリッド」というイメージを持つが、走行感覚はヴィッツよりも落ち着きがある。EV走行時の車内は静かだ。発進や追い越しでエンジンとモーターがフルに働くとさすがに大きめの音が入ってくるが、1.5リットルクラスの車としては静かな部類に入ると思う。最小回転半径が4.8mと小さいので、街中や駐車場でも扱い安いだろう。
一番の関心事である燃費はどうだろうか。短時間の試乗なので正確な燃費を計算することはできないが、デジタル式の平均燃費計は27km前後を示していた。エコ運転を心掛けて、30kmを超えた区間もあった。ただし、バッテリーの充電状況によってEV走行の比率が大きく変化するので、長い距離を走って平均燃費を算出しないと実力は分からない。
エコカーだからと安心して、いつもアクセルを積極的に踏み込んでいては、燃費が悪くなるのは確実。逆に、HVの特性を生かした運転をすれば、アクアは期待に応えてくれるだろう。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴37年。紀伊民報制作部長