両面スライドドアを採用
2代目タントの広い車内に乗り込んだときには「軽自動車の枠ではこれが限界か」と思ったが、エヌボツクスの室内長はタントを20mm上回る2180mm。後部座席で楽々と足を組んで座れる広さを実現している。
エンジンルームを極力小さくして室内長をかせぐとともに、通常は後部座席の下にある燃料タンクを前席の下に配置するセンタータンクレイアウトで床を低くし、広い室内空間を確保した。
パレットは27インチの自転車を立てたまま積めるが、エヌボックスの室内高は、パレットの1365mmより35mmも高い1400mm。「身長125cmの小学生なら、立ったまま室内で着替えられます」という広い後席が自慢だ。後席のスペースは、腰をかがめれば大人でも歩いて室内を移動できる。荷室の床も低いので、重い荷物や自転車を積み込むのが楽だ。
シートアレンジの大きな特徴は、跳ね上げ式のリアシート。座面を後ろに跳ね上げると、後席に大きな空間を作ることができる。高さも十分にあるので、荷物も積むだけでなく、工夫しだいでさまざまな使い方ができそうだ。このシートは、厚みが十分にあるので座り心地がいい。長時間の乗車も苦にならないだろう。
リアのドアは、両面スライドドアを採用した。ライバルのタントは、左側後部のドアがピラーレス(柱のない)のスライドドアになっていて、助手席のドア(ヒンジ式)と同時に開けると、1480mmという広い開口部ができる。タントの後席右側は一般的なヒンジ式のドアになっている。
同じ両面スライドドアのパレットと比べると、開口部はパレットの580mmに対して、エヌボックスは640mmとたっぷりしている。このあたりは、ライバルを研究し尽くして発売したという感じだ。
ぜいたくを言わせてもらえば、個人的にはリアシートのスライド機構が欲しい。何しろ室内が広いので、後部座席に座っていると、前席との距離がものすごく遠く感じてしまう。スライド機構があれば、シートを前にずらして前席に近づけ、その分荷室を広げて荷物をたっぷり積むといった使い方ができる。
「走る軽」作った
エヌボックスの車種構成は、ファミリー向けの穏やかな外観をしたベースグレードと、個性的でいかつい顔つきのカスタムの2系統。それぞれ、基本的な装備を備えた「G」と、パワースライドドアやオートエアコンなど装備を充実させた「G・Lパッケージ」がある。カスタムにのみ、ターボモデルを設定している。
室内が広いワゴンタイプの軽乗用車は車重が重くなるので、どうしても発進加速や燃費の面で不利になる。ホンダは、エヌボックスの開発に当たって最高出力58馬力のDOHCエンジンを新設計した。カタログに「ホンダは、『走らない軽』をつくりたくない」という挑戦的なキャッチコピーを載せているところに自信のほどがうかがえる。
燃費は、従来の10・15モードでガソリン1リットル当たり24.5km、実用燃費に近いJC08モードで22.0kmと優秀だ。
一方で、強力なライバルの登場に対抗するように、ダイハツはタントの燃費を改善した。イースに搭載された新エンジンを移植したり、アイドリングストップ機構を採用したりすることで、10・15モードで27.0km(従来22.5km)、JC08モードで24.8kmの省燃費を実現した。
とにかく広い
試乗車はカスタムG・Lパッケージのナビ(オプション)装着車。1780mmの全高は、このタイプの軽乗用車で一番高い。いかついフロントデザインと合わせて、とても存在感がある。
運転席に乗り込んでみると、とにかく広い。乗ってすぐに周囲を見渡したほどだ。頭上には、握りこぶし4個分ほどの空間。後部座席は、身長174cmのリポーターが座っても、膝の前が40cmぐらい空いている。もちろん、楽々と足を組める広さだ。着座位置はタントやパレットよりも高め。普通車のミニバンに乗っているような感じで、見晴らしがいい。
エヌボックスのダッシュボード右側には、緑色の「ECONモード」のボタンが付いている。省エネ運転ができる走行モードだ。まずは、スイッチを入れた状態でスタートした。加速時のエンジン回転は低めに抑えられ、ゆったりと速度を上げていく。走りだして最初の信号で停止したときに、アイドリングがずいぶん静かだと思ったら、いつの間にかエンジンが停止していた。アイドリングストップ機能は各社とも洗練されてきており、再始動もスムーズだ。
ECONスイッチを切ると、明らかに活発な走りに変わる。エンジンは気持ちよく高回転まで回るし、重い車体にもかかわらず加速も軽やかだ。このタイプの車の最大の弱点は加速が鈍いことだが、エヌボックスは一般のワゴンタイプと同等の加速が得られる。
足回りがしっかりしているので、全高が高いにもかかわらず、腰高になっているという不安感はない。遮音対策もしっかりしていて、軽乗用車としては静かな室内になっている。
エヌボツクスのもう一つの特徴は、ドライバーの視界確保に工夫が凝らされていることだ。アイデア賞ものなのは、左前方のピラーに取り付けられたサイドビューサポートミラー。左のドアミラー裏側に取り付けた鏡を利用して、運転席から直接見えない左前輪の周囲を映すという手品のようなミラー。ドアミラーそのものも、車体の下側が見やすいように下3分の1ぐらいの所で折り曲げた形状をしている。真後ろの確認ができる後方視角ミラーも付いている。
安全装備では、滑りやすい路面でスピンしないように4輪を制御するVSA(横滑り防止装置)を全車標準装備している。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴36年。紀伊民報制作部長