新車試乗記

トヨタ プリウスPHV

【スペック】

全長×全幅×全高=4480×1745×1490mm▽駆動方式=FF▽エンジン=1797cc水冷4気筒DOHC、73Kw(99馬力)/5200回転、142Nm(14.5kg)/4000回転▽モーター=60Kw(82馬力)、207Nm(21.1kg)▽システム全体=100Kw(136馬力)▽トランスミッション=CVT▽車両本体価格=320万円(データはいずれも発売予定のプリウスPHV・S)

【試乗車提供】

ネッツトヨタ和歌山・田辺店
(田辺市新庄町1895、0739・22・4979)

[2011年12月8日 UP]

 トヨタ自動車は、家庭のコンセントから充電できるプラグインハイブリッド車「プリウスPHV(プラグインハイブリッド)」の受注を開始した。2012年1月30日から販売する。PHVの市販に先立ち、先行している法人向けリースモデルに試乗した。一般のハイブリッド車(HV)はエンジンをモーターが補助して走るが、PHVはモーターが主役。より電気自動車(EV)に近くなっている。

PHVとHVの違いは?


 EV、HV、PHVにはそれぞれ長所と欠点がある。モーターだけで走るEVの代表は日産自動車のリーフや三菱自動車のアイ・ミーブ。1回のフル充電で120~200km走ることができる。同じ距離を走るのに必要な電気代はガソリン代の5分の1程度。一方で、ガソリンスタンドに相当する充電設備が十分に整備されていないことや、充電に時間がかかることなどから、長距離ドライブや旅行などには向かない。
 HVは、エンジンをモーターでアシストすることで、燃費を大きく改善した。PHVは、HVとEVの中間に位置する車。駆動用バッテリーに充電分を蓄えているうちはモーターで走行し、それがなくなるとモーターとエンジンを組み合わせて走る。電池切れになってもガソリンで走ることができるので、バッテリーの残量計を気にする必要がない。
 それでは、市販予定のプリウスPHVとHVを比べてみよう。車体は共通で、積んでいるエンジン(1.8リットル、99馬力)、モーター(82馬力)も一緒。バッテリーは、HVがニッケル水素電池なのに対して、PHVはより高容量・高出力のリチウムイオン電池を搭載している。
 モーターのみで走行するEV走行距離は、HVが2kmまでなのに対して、PHVは満充電で26.4km。これがPHVの最大の特徴だ。燃費は同じSグレードで比較すると、HVの30.4km(JC08モード)に対して、PHVは61.0km(PHV燃費)。EV走行できる範囲の通勤や買い物を主体にし、1日のうちに複数回充電するという乗り方をすると、ほとんどガソリンを使わず済ますこともできるという。満充電までの時間は、200Vなら約90分、100Vだと約180分となっている。

損得勘定は?


 それでは、新車購入費用と燃料代(電気代)の損得を計算してみよう。Sグレードの車両本体価格は、HVが232万円、PHVが320万円なので、価格差は88万円。また、PHVは家庭用の充電設備工事が必要なので、この費用を計上しなければならない。家屋と駐車スペースが隣接している場合で9万5千円、駐車スペースが家屋と離れている場合にはポール型専用コンセントを設置するのに15万円かかる。
 合計で100万円前後の価格差になるが、これを穴埋めしてくれるのがクリーンエネルギー自動車購入の補助金。額は車両の購入価格によって変わるが、最大で45万円となっている。自動車取得税と重量税が免税になるエコカー減税や、翌年度の自動車税が2分の1になる自動車グリーン税制ももちろん適用される。
 燃料代(電気代)の差額は、まめに充電できる環境にあるかどうかと、走行距離が多いか少ないかで決まる。しかし、電気もただではない。東京電力の従量制電気料金で試算すると、バッテリーを満充電するのに約54円かかるという。これで26.4km走るとすると、リッター13km走るガソリン車に比べて燃料代(電気代)は5分の1程度ということになる(1リットル140円で計算)。
 ガソリン代と電気代の合算ではどうなるのだろうか。トヨタ自動車の実証実験によると、モニター3人がPHVを日常生活で利用したところ、走行1000km当たり、ガソリン車との比較で7千~8千円、HVとの比較で1500~3500円節約できたという。これを目安に1年間の走行距離を掛けると、年間で節約できる燃料代がおおよそ計算できる。
 金銭面ではこんな結果になるが、あとはEV走行の快適性や、環境に優しい車に乗っているという満足感にどれだけの価値を見いだすかだ。それによってPHVは高い買い物にもなれば、安い買い物にもなる。

エンジンは脇役


 試乗したPHVは法人向けリースモデル。1月末に発売される市販車との違いは、EV走行距離が3km少ないことや電池のスペースがやや大きいことなどで、車体やエンジンといった基本的な部分は共通である。
 試乗のさいにバッテリーは満充電に近い状態で、EV走行可能距離は20kmとメーターに表示されていた。アクセルを踏むと無音で走りだすのはHVのプリウスも同じだが、PHVは速度を上げてもモーターだけで走り続ける。
 EV走行での加速感は1.3リットルのガソリン車並みといったところだろうか。交通の流れに乗って走るには十分な性能だ。バイパス道路に合流するさいの加速や法定速度での巡行でも、エンジンは掛からない。HVは時速55kmを超えるとエンジン走行に切り替わるが、PHVは時速100kmまでモーターのみで走行する。アップダウンが続く山道でも、心持ちゆったりしたペースで走ったら、エンジンが掛かることはなかった。
 追い越しなど強力な加速が必要なときには、アクセルを大きく踏み込めばエンジンが即座に始動する。モーターとエンジンが組み合わさると、大排気量車のような強力な加速が得られる。
 EV走行中はエンジン音が聞こえないので、ノーマルのプリウスよりやや静かな感じだが、タイヤなどから発生する走行音はそれなりに室内に入ってくる。遮音にコストを掛けている日産の高級EV・リーフほど静かではないが、中級車なのでしかたないだろう。
 試乗前、PHVは、HVにコンセントからの充電機能を加えただけのものと思っていたが、大きな間違いだった。HVはエンジンが主役でモーターがサポート役だが、PHVはモーターが主役。エンジンとモーターの主従が逆転しており、よりEVに近い車になっている。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴36年。紀伊民報制作部長