低燃費に2つの手法
エコカーの技術には大きく二つの流れがある。一つは、ハイブリッド車や電気自動車など、新しい動力源を求める方向。もう一つは、「まだ十分に性能を発揮していない」とされているガソリンエンジンの改良だ。
低燃費競争では、トヨタのプリウスやホンダのフィット・ハイブリッドなど、モーターでエンジンを補助するハイブリッド車が先行したが、ここにきて、ガソリン車の巻き返しが始まった。
マツダが6月に発売したコンパクトカー・デミオの「スカイアクティブ」(排気量1.3リットル)は、圧縮比の高いエンジンを採用するなどして10・15モードで30.0km、JC08モードで25.0kmを実現した。スカイアクティブの第二弾として9月に発売された新型アクセラは、2リットルで20.0km(10・15モード)を達成した。
ダイハツも、これまでガソリン車で培われてきた技術をこつこつと改善し、イースでガソリン車トップの低燃費を実現した。ガソリン車のメリットは、モーターや駆動用バッテリー、複雑な制御装置が不要なので、ハイブリッド車に比べて車両本体価格が安くなること。イースは、量販グレードでも100万円を切る価格設定になっている。
2つの燃費表示
現在、自動車のカタログやパンフレットには10・15(じゅう・じゅうご)モードとJC08(ジェイシー・ゼロハチ)モードという二つの燃費が表示されている。いずれも一定条件で車を走らせたときの燃料消費を示している。実際の燃費は走行条件や運転の仕方によって大きく変わるが、おおよその目安は10・15モード表示の6割から7割といったところだ。
JC08モードは2011年4月から表示が義務づけられた新しい燃費基準。こちらの方が実際の走行条件に近く、10・15モードより1割程度低い数値が表示される。例えば、ハイブリッド車のプリウスSは10・15モードで35.5kmがJC08モードでは30.4km、ホンダのインサイトは30.0km/26.0kmとなっている。
イースが宣伝している「リッター30.0km」はJC08モードの数値だから、ハイブリッド車並みの燃費というのは大げさな表現ではない。実際の走行でどれだけ走ってくれるか楽しみである。
小さな改良の積み重ね
イースの低燃費は、車両の軽量化や走行抵抗の低減、エンジンの改良、アイドリングストップ機能の改良など、小さな改善の積み重ねにより実現した。
車は、車体が軽いほど少ない燃料で走ることができる。イースは、車体のタイプが同じ同社ミラに比べて約60kgも軽量化している。さらに現在主流のワゴンタイプとの比較では、イースXとムーヴXリミテッドとの車重差は80kg、室内が圧倒的に広いタントXに対しては190kgも軽い。
エンジンは、圧縮比を高めたり燃料噴射装置を改良したりして燃焼効率を向上。内部の部品一つ一つを見直して、機械的なエネルギーの損失を低減している。
燃料の節約に貢献するアイドリングストップ機能も新しくなった。これまでガソリン車のアイドリングストップ機能は、車両が完全に停止した時点でエンジンが止まるようになっていたが、イースのアイドリングストップ機能は、ブレーキをかけて車速が7km以下になるとエンジンが停止する。これにより、エンジンが止まっている時間が長くなり、無駄にガソリンを消費しなくて済むようになった。
リッター30kmの実力は?
イースXに乗った第一印象は「真面目に作った実用車」というものだ。ベージュをベースにした内装はシンプル。エアコンやファンのスイッチも標準的なもので、迷うことがなくて使いやすい。
意外だったのは室内の広さ。セダンタイプなのできゅうくつという先入観があったが、運転席に座ったら頭上には握りこぶし1個半の余裕があった。リアシートの足元も広く、ひざの前にこぶし2個分の空間ができた。ムーヴやタントなどワゴンタイプの軽乗用車に比べると一回り狭く感じるが、大人4人が乗って移動するのに十分なスペースが確保されている。ただし、リアシートにヘッドレストがないので、定員乗車での長距離ドライブはつらいかもしれない。
「誰もが簡単に燃費のいい運転ができる」という触れ込みの「エコドライブアシスト機能」はかなり目立つので、効果があると思う。省燃費運転を知らせるインジケーターを控えめに備えた車は多いが、イースのメーターは上下の太い帯が青くなったり緑色になったりするので、嫌でも目に飛び込んでくる。青は燃料を多く消費しているとき、緑はエコ運転をしているときだ。メーターが青く光ると反射的にアクセルを緩めるので、燃料節約につながる。
停車前にエンジンを止めるアイドリングストップ機能は、ごく自然に働く。運転していて違和感はなく、発進時の再始動もスムーズだ。信号待ちでエンジンが停止している間は、メーターに停止時間と、節約したガソリンの量が表示される。試乗で1分30秒エンジンが停止したときには、8ミリリットルのガソリンを節約したと表示された。
試乗車を借用した田辺ダイハツ販売は、来店者が試乗した燃費を店内に張り出している。市街地を走るコースが設定してあり、試乗した時点ではリッター20.5~25.5kmの数値が記入されていた。リポーターは、取材で市街地3分の2、バイパス道路3分の1を走って23.6kmだった。燃費は走り方や道路状況によって大きく変わるが、イースは多くの人が20km台を期待できそうだ。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴36年。紀伊民報制作部長