余裕ある室内
プリウスαは、プリウスより全長が155mm、全幅が30mm、全高が85mm大きい。真横から見ると、プリウスの天井がテールエンドに向けて大きく下がっているのに対して、αは7人乗車時の頭上空間や荷室スペースを確保するために、わずかに下がっているだけだ。
ハイブリッド・システムはプリウスとまったく同じ。エンジンは1800ccで99馬力、モーターは82馬力、システム全体の最高出力は136馬力。車体が大きく、重くなった分、プリウスより燃費は低下しているが、それでも10・15モードで31.0km/リットルと、軽自動車をしのぐ低燃費を実現している。
試乗車は5人乗りのSツーリングセレクション。αの発売当初の受注は、4台中3台が5人乗りという。室内が一回り大きくなったことで、前席に身長190cm、後席に180cmの乗員が着座可能なスペースを確保した。また、今回は試乗していないが、7人乗りの3列目のシートでも、170cmの人が座れるよう設計されているという。
後席は、前席よりも着座位置が高いので、ドライバーの肩越しに前方が見やすく、走行中の圧迫感が軽減されている。頭上にも余裕があり、天井と頭の間にこぶし二つ分の空間ができる。身長174cmのリポーターが運転席の後ろに乗り込んだところ、ひざの前にこぶし一つ半の余裕ができた。友人のプリウスの後席に乗って2時間ほどのドライブをしたときは少しきゅうくつな感じがしたが、αなら長距離ドライブも快適にこなせそうだ。
荷室スペースは文句なく広い。奥行きが985mm、最大幅が1580mmもあり、ゴルフバッグを四つ積むことが可能だ。
乗り心地が向上
プリウスに初めて試乗したときには、ゲーム機械のようなシフトレバーに戸惑ったが、何度か乗るうちに慣れてしまった。トヨタのハイブリッド車は低速ではモーターのみで走るので、音もなく滑らかにスタートする。試乗車を借用したネッツトヨタ田辺店の駐車場を出て左折すると、すぐに田辺バイパスに乗ることができる。バイパスへの進入路は緩やかな上り坂。この場面ではエンジンとモーターがフルに働くが、車重がノーマルのプリウスに比べて120kgほど重いので、加速はややゆったりしている。
その見返りと言っては語弊があるが、乗り心地は向上している。プリウスは荒れた路面を走ると、足回りからざらついた感触が伝わってきたが、αは格段にしなやかになっている。試乗車は17インチホイールに扁平(へんぺい)タイヤを装着していたが、ゴツゴツした感じや段差を乗り越えたときの突き上げ感も少なく、快適に走ることができた。
室内に入り込んでくる騒音も、プリウスより押さえ込まれている。一回り大きい車体と、足回りの落ち着き、静粛性の向上により、1クラス上の車になったという印象を受けた。
完成度が高いHVシステム
「小さな高級セダン」と呼ばれるトヨタの「サイ」に試乗したときには、ハイブリッドシステムの完成度の高さに感心したが、プリウスαも快適な車に仕上がっている。街中を走行していると、モーターとエンジンは、速度やアクセル開度、ブレーキの操作などに応じてスムーズに、しかも頻繁に切り替わるので、どちらで走っているかはメーターの表示を見ていないと分からないほど。
最近は、ガソリン車でも信号待ちでエンジンを停止する「アイドリングストップ機構」を採用する車が増えているが、αは信号待ちどころか、信号手前でアクセルを緩めただけでエンジンが止まるようになっている。試乗した日は気温が30度を超えていたが、エンジンが止まっていてもエアコンは動いているので、信号待ちで車内が暑くなることもなかった。
加速はプリウスよりゆったりしているが、センターコンソールにある走行モードスイッチを「パワー」にするとエンジンが高回転まで回り、とても活発に走る。ただし、燃費もそれなりに悪化するだろうから逆にストレスがたまりそう。ハイブリッド車にはやはり、ゆったりした走りが似合う。
プリウスαの購入に当たって気になるのが納車時期。2012年3月末までに納車されるかどうかがエコカー減税適用の分かれ道になる。例えばSツーリングセレクションの場合、3月末までに納車されると自動車取得税と重量税で計約14万2500円、翌年度の自動車税で約1万9500円、合計約16万2000円の減税が受けられるから、その差は大きい。
7人乗りは間に合わないのが確定している。5人乗りは受注状況によって間に合うかもしれないので、販売店とよく打ち合わせしてほしい。購入費用の軽減を重視するのならαをあきらめて、ノーマルのプリウスやフィット・ハイブリッドなどに変更するのも一つの選択だ。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴36年。紀伊民報制作部長