リッター25.5kmの新エンジン
ベストセラーの軽乗用車「ワゴンR」やスポーティーなコンパクトカー「スイフト」が、フルモデルチェンジで先代のデザインを継承したのに対して、MRワゴンは驚くほどの変身を遂げた。
新しいプラットホームは、ホイールベース(前輪と後輪の軸間距離)が25mm伸び、室内長はスズキの軽乗用車で最大の2120mmになった。広さが自慢のパレットの室内長(2025mm)より95mmも長いことになる。室内空間を広げたにもかかわらず、高張力鋼板を効果的に使用するなどして車体を軽量化。ベースグレードのGタイプ(2輪駆動)で比較すると、従来の820kgから790kgへと、30kgも軽くなった。
エンジンも一新された。低回転から大きなトルクが得られるロングストロークタイプとし、これまでの吸気側に加えて、排気側にも可変バルブタイミング機構(VVT)を採用した。カタログに表記している数値は自然吸気エンジン、ターボエンジンとも変わらないが、ロングストローク化で低速域のトルクは確実に向上した。
燃費も大きく改善した。自然吸気の2輪駆動車で、ガソリン1リットル当たり22kmから25.5kmにアップ。さらに、アイドリングストップ機構搭載車は、ハイブリッド車を除くガソリン車ではトップレベルのリッター27kmを実現している。
タッチパネルで操作
新採用のユニークな装備は、タッチパネルオーディオ。平らな黒のパネルに白いスイッチが浮かび上がり、指先で触れるだけで操作できる。スマートフォンを操作しているような感覚だ。アイ・ポッドをはじめとしたデジタルオーディオプレーヤーやUSBメモリーを接続できるUSBソケットを備えているので、お気に入りの楽曲を車に持ち込んで、手軽に聞くことができる。
また、このパネルは、後退時には車両後方を映し出すバックモニターに早変わりする。バックモニターは軽自動車でも採用車種が増えているが、後方の確認がしづらいワゴンタイプの乗用車では特に便利な機能だ。
インテリアは、黒と白をベースにしたインパネと、濃い茶色のシートという組み合わせ。シンプルでモダンなイメージの室内だ。
グレード構成は、自然吸気エンジン搭載車がベースグレードの「G」と、装備が充実した「X」。ターボエンジン搭載車は「T」の1グレードで、いずれのグレードも前輪駆動車と4WD車がある。
今年1月20日にフルモデルチェンジを受けたMRワゴンだが、2カ月後の3月10日にはアイドリングストップ機能を搭載したモデル「Xアイドリングストップ」が追加された。車両本体価格は標準モデルに対して9万4500円のアップだが、アイドリングストップ機構に加えて、タイヤのスリップや横滑りを防止するEPS(車両安定補助システム)も標準で付くので、決して高くない買い物だと思う。
広くなった室内
大変身したスタイルは、写真よりも実車の方が愛らしく見える。取材道具が入ったかばんを後部座席に置こうとドアを開けて、思わず「広くなったな」とつぶやいた。ダイハツのタントは別格として、スズキのワゴンRやパレットの室内も軽乗用車として十分に広いが、MRワゴンの足元はこれら兄弟車種より広い。
後部座席は前後に160mmスライドし、最後部まで下げると、身長174cmのリポーターが足を組んで座ることができる。逆に、荷室に荷物を積むために後部座席を最前部までスライドさせても、ひざと前席との間にはこぶし一つ分の余裕がある。さらに、後部座席の床面はほぼフラットなので、足元が広々している。運転席と助手席の間の床面も段差が小さいので、運転席から助手席側への移動が楽だ。
エンジンは、明らかに低速域での力強さが増している。ロー・ハイ2段の副変速機構付きCVT(自動無段変速機)との相性もいい。試乗車はタコメーター(エンジン回転計)が付いていないので正確なエンジン回転数は分からないが、トルクが増した低回転域を有効に利用しながら加速するセッティングになっている。
乗り心地は基本的にソフトだが、重心が高い車にありがちなカーブでの不安感は少なかった。ステアリングはしっかりした手応えがあり、バイパス道路での直進安定性も十分。ただ、女性ドライバーは、ステアリングが少し重いと感じるかもしれない。
タイヤは、ターボを除いて、145/80R13という、省燃費タイプの細いタイヤが標準で付く。ちょっと頼りない感じもするが、扁平(へんぺい)率65%や55%の幅広タイヤよりも値段がだいぶ安いので、すり減って交換するときには経済的だ。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴36年。紀伊民報制作部長