新車試乗記

トヨタ ヴィッツ

【スペック】

〔ヴィッツFスマートストップパッケージ〕
全長×全幅×全高=3885×1695×1500mm▽ホイールベース=2510mm▽車重=1000kg▽駆動方式=FF▽エンジン=1329cc水冷4気筒DOHC、70Kw(95PS)/6000回転、121Nm(12.3kg)/4000回転▽10・15モード燃費=26.5km/L▽トランスミッション=CVT▽車両本体価格=135万円

【試乗車提供】

ネッツトヨタ和歌山・田辺店
(田辺市新庄町1895、0739・22・4979)

[2011年3月11日 UP]

 ヴィッツは、世界70カ国で販売されるトヨタの主力車種。2010年12月にフルモデルチェンジし、3代目が誕生した。デザインは、愛らしい「女顔」から、きりりと引き締まった「男顔」に生まれ変わった。アイドリングストップ機構を採用することで、ガソリン1リットル当たり26.5kmの低燃費を実現。室内や荷室が広がり、より扱いやすくなった。

タイプ別に4グレード


 個人的には、ウルトラマンのようにも見えた先代の顔つきが好きだったが、新型も実車を見るとそう悪くない。もっとも、車のデザインは個人個人の好みの問題なので、気に入ったら乗ればいいし、気に入らないのなら乗らなければいい。
 新型ヴィッツの車体は、全長が旧型比で100mm長くなったが、それでも3885mmとコンパクトだ。全長が伸びたことやパッケージングの見直しなどで、室内長が35mm拡大し、荷室の奥行きも145mm増えた。
 グレードは、女性向けの華やかな「ジュエラ」、基本グレードの「F」、快適装備が充実した「U」、スポーティーグレードの「RS」の4つ。エンジンは1リットル(69馬力)、1.3リットル(95馬力)、1.5リットル(109馬力)の3種類が用意されている。

女性向けのジュエラ


 最初に試乗したのは、個性たっぷりのジュエラ。ボディーカラーは、チェリーパールクリスタルシャインという鮮やかな桜色。50代半ばのおじさんにはちょっと恥ずかしかったが、車に華やかな雰囲気を求める人にはいいかもしれない。
 ジュエラは1リットルと1.3リットルがあるが、10・15モード燃費はそれぞれ23.0km/Lと24.0km/L。出力に余裕がある1.3リットルの方がやや優位だ。
 試乗車に乗り込んで最初にする動作は、運転席の前後調整。なかなかしっくりした位置にシートが止まらない車があるが、ヴィッツは微妙な調節が可能だった。シートスライドの調整を従来の16段階から24段階に増やしている効果である。また、シートの高さ調節も従来より15mm増やして上下60mmにした。ステアリングの上下・前後調節と合わせて、小柄な女性から大柄な男性まで、運転姿勢の調節がしやすくなった。
 シートはシンプルな作りだが、ファミリー向けのコンパクトカーとしては珍しく、左右の支えがしっかりしている。しかもゆったり大きめなので、身長174cm、体重80kgを超えるリポーターでも窮屈な思いをせずに済んだ。
 運転席と助手席の背面は大きくえぐってあり、後席足元の空間を確保している。リポーターが運転席の後ろに乗り込んでも、膝の前に握り拳1個半の余裕があった。これぐらいの乗車スペースがあると、大人4人の長距離ドライブもとりあえずこなせるだろう。
 エンジンとCVT(自動無段変速機)の相性がいいので、加速は軽快だ。足回りもしっかりしている。旧型のヴィッツは路面が荒れた場所でガサガサした感触が伝わってきたが、新型はだいぶまろやかになった。サスペンションは道路のうねりや凹凸などに敏感に反応するので、女性はちょっと堅いと感じるかもしれない。
 女性向けの装備として喜ばれそうなのはフロントドアのスーパーUVカットガラス。紫外線を99%カットして腕の日焼けを防止するガラスで、世界初の採用。トヨタによると、日焼け防止用手袋と同等の効果があるという。
 車体色はグレード別に計12色用意されているが、ジュエラはさらに、メーカーオプションの限定カラーが5色ある。

リッター26.5kmの実力は


 次に試乗したのが、ヴィッツのメーングレードである1.3リットルの「Fスマートストップパッケージ」。アイドリングストップ機構を採用することで燃料を節約し、コンパクトカーではトップの26.5km/リットルを達成している。アイドリングを止めないグレードとの比較では、2.5kmの改善である。
 信号待ちや一時停止で積極的にエンジンを止める設定。再始動に要する時間は0.35秒と公表されているが、右足をブレーキから離すと、ほぼ瞬間的にエンジンがかかる。再始動時の音も静かだ。アイドリング停止状態からスムーズに走りだすには、発進のちょっと前にブレーキを踏む力をわずかに緩めてやるといい。こうするとブレーキが利いたままエンジンが再始動するので、一般の車と同じ感覚で走りだすことができる。
 スマートストップパッケージの実用燃費はどれぐらいなのか計測してみた。バイパス道路半分、信号の多い市街地半分の試乗で、省燃費を意識して運転したところ、車載の燃費計は平均19.8km/Lを表示した。長距離ドライブでは楽々と20kmを超えるだろう。
 もう一つ、スマートストップパッケージで見逃せないポイントは、安全装備である横滑り防止装置(VSC)と駆動制御装置(TRC)が標準装備されていること。横滑り防止装置は、濡れた路面や凍結路などでタイヤが滑ったときにブレーキとアクセルを自動制御し、車線からはみ出したりスピンしたりするのを防ぐ。2012年秋以降に発売される新型車から装着が義務づけられるが、ヴィッツのスマートストップパッケージはこれを先取りしたものだ。
 VSCとTRCを装備した車で雪道を走ると、その効果は絶大。スタッドレスタイヤ装着が前提だが、発進時に無造作にアクセルを踏んでも駆動輪は空転しないでスムーズに発進するし、アイスバーンでもハンドルを切った方向に素直に車が進んでくれる。
 唯一残念なことは、スマートストップパッケージに標準のこの装備が、スポーツグレードのRSには3万円でオプション設定されているものの、そのほかのグレードではオプションですら装着できないこと。安全に関わる装備なので、ぜひオプション設定してほしい。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴35年。紀伊民報制作部長