信号待ちでエンジン停止
昨年は、リッター38.0kmの超低燃費を実現したトヨタのハイブリッド車プリウスが売れに売れたが、ガソリン車の燃費競争も激しい。登録車(普通車)では昨年秋、日産自動車のマーチが26.0kmでトップに立ったかと思うと、この1月に発売のトヨタ・ヴィッツが26.5kmで巻き返した。軽乗用車の人気車種では、スズキのワゴンRがアイドリングストップ機構を採用したグレードで25.0kmを達成。そして今回のムーヴの27.0kmである。
「TNP(低燃費)27」というとぼけたCMが話題のムーヴだが、室内が広いワゴンタイプの軽乗用車は車重が重いので、セダンタイプに比べて燃費性能で不利だ。ムーヴにはこのハンディを克服するために、さまざまな低燃費対策が施されている。
根本的なところではまず、車体の軽量化が図られた。車体の骨格で23kg軽くしたほか、部品の材質見直しやCVT(自動無段変速機)ユニットの軽量化などにより、先代のムーヴより35kgも軽くした。エンジンも、排気再循環の制御に新しい仕組みを開発したり、部品を見直したりして燃費性能を引き上げた。
今回採用したアイドリングストップ機構は「エコ・アイドル」と名付けられている。ギアがドライブ(D)レンジに入っているときに信号待ちなどで一時停止すると、エンジンが自動的に停止。ブレーキペダルから足を離すと0.4秒で再始動する。エンジン停止中でも、オーディオやナビは使用可能。エアコンは送風に切り替わる。
また、上り坂での停止・発進では、ずるずると後退するのを防止するヒルスタートシステムが働くので安心だ。これ以外にも、時速5km以下での切り返しや渋滞のゴー・ストップではエンジンが停止しないよう制御されていたり、アイドリングストップ中にさらに強くブレーキを踏むと再始動するように設定されていたりと、きめ細かく、賢く制御されている。アイドリングが止まることに違和感がある人は、ボタン一つで機能を停止することもできる。
ミッションは全車、省燃費に有利なCVTを採用している。エンジンの出力に余裕がない軽自動車は燃費の面だけではなく、走行のスムーズさでもAT(自動変速機)よりCVTの方が快適だ。
室内の広さを実感
スライドドアを採用しているダイハツのタントは圧倒的に広い室内で人気だが、ムーヴも負けてはいない。タントには及ばないものの、後部座席に大人が座ってもひざの前に十分な余裕がある。また、室内幅は軽自動車最大の1350mm。実際に乗車してみると、広さを実感できる。天井も高く、身長174センチのリポーターが運転席に座ったとき、頭上にはこぶし二つ分以上の空間があった。
「すっきりモダンの上質・広々空間」をテーマにしたというインテリアは、横方向への広がり感がある直線基調のデザインで、広い室内を一段と広く見せている。
試乗したXリミテッドはバックモニター付きのナビゲーションを標準装備している。バックモニターは最近、軽自動車にも採用車種が増えているが、後退時に後方が確認できるのはやはり安心だ。
細かいところでは、電子カードキー装着車のエンジン始動が、従来のつまみを回すタイプからプッシュボタン式に変更された。プッシュボタン式はトヨタが採用して以来一般的になってきており、これからも採用車種が増えていきそうだ。
1日10円の節約?
新型ムーヴに乗り込んでまず目に入るのは、インストルメントパネルの中央にある大きなスピードメーター。ダッシュパネルが低めでフロントピラーも細いので、前方視界は良好だ。
足回りは柔らかめで、路面が荒れた場所でタイヤから伝わってくるざらつき感も少ない。軽自動車としてはソフトな乗り心地だ。反面、カーブを回ったさいのロール(横傾き)は大きめ。ステアリングは適度に重さがあり、バイパス道路での直進安定性も良かった。
ムーヴの持ち味は総合的なバランスの良さだ。例えば、室内の広さで圧倒的な支持を得ているタントは、車重が重いので加速性能や燃費の面で我慢が強いられる。セダンタイプは、車両本体価格が安かったり、取り回しが楽だったりするが、室内が狭いのが難点だ。
ムーヴは大人4人が余裕を持って乗れる室内と優れた燃費性能、軽い車体を生かした軽快な加速性能を持ち合わせている。ダイハツの軽乗用車用エンジンは低速トルクが豊かでCVTとの相性もいいので、ムーヴの車重なら、ターボモデルでなくても不満のない走りを提供してくれる。
アイドリングストップ機構の出来栄えはどうだろうか。ダイハツによると、ムーヴの場合、1分間のアイドリングストップで節約できるガソリンは約6cc。1回の信号停止を1分とし、1日15回信号停止したとすると、1日に節約できるガソリンは90cc。1リットル当たり130円として約10円得するという。単純計算で、年間3000円余りのガソリン代が節約できるというわけだ。
そのフィーリングは、マーチに試乗したときにも書いたが「最初は違和感があっても、すぐに慣れるだろう」というものだ。信号待ちをしていて、右足をブレーキからアクセルに踏み換えるわずかな間に「キュルキュル」とセルモーターが回ってエンジンが再始動する。
アイドリングストップ機構は今後、軽自動車から排気量の大きな乗用車まで採用が広がりそうだ。そう遠くない将来、「信号待ちではエンジンが止まるのが当たり前」という時代を迎えるのだろう。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴35年。紀伊民報制作部長