小さな車体にモーター
「いい車がたくさん売れるとは限らないけど、たくさん売れている車はいい車だ」というのがわたしの持論。車の使い方や何を求めるかは人それぞれなので、「いい車とは何か」という答えは一つではないが、売れ筋ベスト3に入るような車は、多くの人から見て「いい車」だ。
フィットは乗用車の月間販売ランキングで昨年4月以来今年9月まで、18カ月連続で2位を続けているから、間違いなくいい車である。トップを独走したのは、エコカー補助金のメリットが大きかったトヨタのプリウスだ。
フィットの魅力は、全長4mを切るコンパクトな車体にもかかわらず広い室内と大きな荷室を確保していることや、軽自動車を上回るほどの優れた実用燃費、広々とした視界による運転のしやすさなどだ。それだけでも十分なのに、今回、モーターで走行をアシストするハイブリッド車が仲間入りした。
フィットに採用されたハイブリッドシステムは、既にインサイトやCR-Zに搭載されているIMA(インテグレーテッド・モーター・アシスト)。構造がシンプルで、軽いのが特徴だ。インサイトは1.3リットル(88馬力)、CR-Zは1.5リットル(113馬力)のエンジンと組み合わされている。フィットは、インサイトと同じ1.3リットルで、モーターの出力(14馬力)も同じだ。
しかし、いくらIMAがコンパクトといっても、ガソリン車として設計されたエンジンルームにモーターを追加し、さらに大きなバッテリーを積むのだから、設計者は相当苦労しただろう。バッテリーは最終的に荷室の下に収められているが、これも燃料タンクが運転席の下にあるというフィットならではの技だ。これにより、従来のフィットと変わりない室内スペースや使い勝手を確保している。
低燃費車が続々登場
マイナーチェンジした新型フィットと、フィット・ハイブリッドの発売は10月8日。ホンダのまとめによると、発売から約2週間の受注台数は2万1000台を超え、このうち7割をハイブリッドが占めた。ディーラーのセールス担当者も「試乗をした上でハイブリッドを選ぶお客さんが多い」と話す。159万円からという、ハイブリッド車では最も安い価格と、リッター30kmという低燃費は大きな魅力である。
ノーマルのフィットとハイブリッドの外観上の差は、フロントグリルのわずかなデザインの違いと、リアの「HYBRID」というエンブレムぐらいだ。
フィットはもともと燃費性能に優れた車で、ベーシックグレードの1・3G(車両本体価格123万円)でも、1リットル当たり24.5kmと優秀だ。排気量1~1.3リットルのコンパクトカーは燃費の改善が著しく、スズキの新型スイフト(1.2リットル)は23.0km、日産の新型マーチ(同)はアイドリングストップを装備して26.0kmを実現している。またマツダは、来年発売する新型デミオに新開発の直噴エンジンを搭載し、モーターの補助なしにリッター30kmの低燃費を実現するという。
話をフィットに戻すと、ノーマルエンジンとハイブリッドの実用燃費の差は、ほぼカタログデータ通りになるようだ。あとは、年間の走行距離や購入予算に合わせて、トータルで経済的な方を選べば、どちらでも不満はないと思う。
リッター30kmの実力は?
フィット・ハイブリッドに試乗してまず気付くのは、アイドリングストップが積極的に働くこと。信号待ちや一時停止で、ほぼ確実にエンジンが止まる。同じハイブリッドでも、インサイトやCR-Zとはずいぶんセッティングが違うようだ。停止状態からの再始動はスムーズだ。ブレーキから右足を離せば瞬時にエンジンがかかるので、違和感や不安はまったくない。
ガソリンを一番消費する発進加速では、モーターがエンジンを積極的にアシストするので、一回り大きなエンジンのように力強く加速する。追い越し加速もスムーズだ。
一番の関心事である実用燃費はどうなのだろうか。わずか1時間程度、田辺の市街地と郊外のバイパス道路を走っただけなので正確なところは報告できないが、試乗をスタートしたときに車の燃費計は23.5kmを表示していた。少し活発に走ったら22km台に落ち、燃費を意識して走ったら23km台に復帰した。天気が良かったので、エアコンは入れたままだった。燃費は、ドライバーのくせや運転の仕方で大きく変動するが、わたしの運転だとたぶん、市街地の走行で20km台をキープできるだろう。エアコンを使わない季節なら、24~25kmはいけるかもしれない。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴35年。紀伊民報制作部長