日産の世界戦略車
初代マーチは1982年の登場。その後、10年ごとにフルモデルチェンジを受けてきた。今回の4代目は、3代目の発売から8年余りでのモデルチェンジだが、それでも、ほぼ5年ごとに世代交代するほかの国産車に比べれば2倍近いライフサイクルである。
新型マーチは、日産の世界戦略車だ。タイ、インド、中国、メキシコで生産し、世界160カ国で販売する。日本国内で販売している車はタイで生産し輸入している。日本の自動車メーカーが海外で生産・輸入している例として、スズキ自動車のスプラッシュ(ハンガリー)やトヨタのアベンシス(イギリス)などがあるが、いずれも国内販売台数が少ない車種。日本の自動車メーカーが国内販売の主力車種を輸入するのはマーチが初めてのケースだ。
新開発の3気筒エンジン
マーチのスタイルは、先代のイメージを引き継いだ丸みを帯びたもので、丸いヘッドライトと盛り上がったフロントフェンダーが柔らかな雰囲気をつくりだしている。盛り上がったフロントフェンダーは最近の日産車に共通のデザインで、運転席からボンネットが見えるので車両の幅がつかみやすい。
車体の大きさは全長3780mm、全幅1665mm。トヨタのパッソ(1~1.3リットル)とヴイッツ(1~1.5リットル)の中間ぐらいの大きさになる。ライバルもちょうどこのクラスの車種だ。ベストセラーであるホンダのフィットはマーチより一回り大きい。
マーチ用に開発された新型エンジンはDOHC3気筒の1.2リットル。排気量が小さい軽自動車(660㏄)や1リットルクラスのエンジンは3気筒が主流だが、1.2リットルの3気筒は珍しい。4気筒エンジンに比べて部品点数が少ないので小型・軽量化できることや、中・低速でトルクを大きくできることがメリット。一方で、振動を抑えたり、滑らかな回転を得たりするための工夫が必要である。
アイドリングストップは、信号待ちなどでブレーキを踏んで停車しているときにエンジンを止める機能。信号が青になって発進するときには、ブレーキを離すと約0.4秒でエンジンが再始動する。これにより、ガソリン1リットル当たり2kmも燃費を改善しているという。量販グレードの12Xと12Gに標準装備している。
信号待ちで燃料節約を実感
新型マーチの試乗で最も興味があるのは、アイドリングストップの仕上がり具合。アイドリングストップは、プリウスやインサイトといったハイブリッド車以外にも、マツダのアクセラやプレマシー、ビアンテ、スズキのワゴンR、ダイハツのミラに搭載されている。マーチのアイドリングストップは短時間の信号待ちでもエンジンを止めるので、「ガソリンを節約しているんだ」ということを実感させてくれる。これから排気量の大小やメーカーを問わず、搭載する車が増えていくと思う。
試乗車は、中間グレードの12X。信号待ちでブレーキを踏んで停止すると、早速アイドリングストップが働いてエンジンが停止した。再始動や発進もスムーズだ。最初はエンジンが止まることに違和感があるかもしれないが、慣れればごく普通に運転できる。
このアイドリングストップは、かなり賢く制御されている。ブレーキペダルの踏み加減も制御の条件に入っているので、信号待ちで早めにエンジンを始動させたいときには、ブレーキペダルを踏む右足の力を意識的に緩めてやればいい。
また、ステアリングの動きを感知して再始動する機能も備えている。例えば右折レーンで停止して、対向車の通過を待って右折を開始する際には、ステアリングを少し右に切るだけでエンジンが再始動するので、交差点に進入するタイミングが狂うことがない。
運転に慣れてくれば、ブレーキペダルの踏み加減とステアリングの動かし方で、かなり自由にエンジンの停止・始動をコントロールできるだろう。
ところで、アドリングストップ中にエアコンは利くのだろうか。マーチは、エンジンが止まっている間はエアコンが自動的に送風に切り替わるようになっている。試乗した日は気温が30度を超える真夏日だったが、1、2分の信号待ちなら空調の吹き出し口から涼しい風が出てくるので、暑い思いをすることはなかった。バッテリーに負担がかかると思ってボンネットを開けてみたら、やはり大きめのバッテリーを積んでいた。
もう一つ気になるのは、坂道発進。上り坂で停車しているときもエンジンが止まっているので、発進に失敗して後ずさりしたらどうしようかと緊張してしまう。しかし、心配ない。アイドリングストップ時はトランスミッションに一時的にロックを掛けて車両の後退を防ぎ、エンジンが再始動すると緩やかにロックを解除する機構が採用されているからだ。
新開発の3気筒エンジンは、1.2リットルとは思えないほど力強く、特にスタートの瞬間は、豊かなトルクを感じさせる。また、上り坂でも予想以上に活発に走ってくれた。足回りはやや堅めで、ごつごつした感じがあるが、その分、軽快な印象を受ける。女性にターゲットを絞ったトヨタのパッソ・プラスハナが柔らかい足回りを採用しているのと対照的だ。
インテリアも外観同様、曲面を多用している。タイからの輸入車ということで気になる細かい部分の仕上げだが、コンパクトカーとして標準的なものだと思う。購入を検討している人は、アイドリングストップの体験も兼ねてチェックしてみてはどうか。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴35年。紀伊民報制作部長