まるで野生動物
最近の日産車は個性派ぞろいだ。例えばキューブ。角張った車体、左右非対称のリアハッチ、ブルドッグのように見えるフロントデザイン、ジェットバスをイメージしたという内装など、好みがはっきり分かれるデザインを大胆に採用している。これが結構売れている。
キューブが愛らしい飼い犬なら、今回発売のジュークは筋肉質の野生動物のように見える。大きく張り出した前後のフェンダーは力強く、正面から見た顔つきは猛禽類(もうきんるい)のような印象も受ける。ボンネットの左右に配置された大きなフロントコンビランプは、外観上のアクセントだけでなく、車両感覚をつかみやすくするという役割も担っている。
外観でもう一つ特徴的なのは、後部ドアを開け閉めするためのドアハンドルがリアピラーに埋め込まれていること。初めてジュークを見たときに、後部ドアの側面にドアハンドルがないので2ドア車と思い込んでいた。こんなデザインは初めてだ。
外観に負けず劣らず、内装も個性的だ。バイクのガソリンタンクをイメージしたというセンターコンソールは表面が光沢仕上げで、手が自然に伸びる場所にカップホルダーの穴が二つ空いている。シフトレバーは高い位置にあり、操作しやすい。試乗車のセンターコンソールは鮮やかな赤。ドアやシートの一部にも赤が使われており、鮮烈な印象を受ける。
三つの走行モード
ジュークのエンジンは、キューブやノートなどに採用されている1.5リットル・エンジンの改良版。燃料噴射を1シリンダー当たり2本の噴射装置で行うデュアルインジェクターという方式を量産エンジンで初めて採用した。また、排気側も改良し、出力の向上や燃費の改善を図った。最高出力は、従来の109馬力から114馬力へ5馬力向上。最大トルクも15.1kgから15.3kgにアップし、しかも最大トルクの発生回転数が400回転下がっている。
トランスミッションには、副変速機を組み合わせた新しいCVT(自動無断変速機)を採用した。従来の同クラスのCVTと比べて変速比の幅を20%以上拡大し、軽快な発進加速と高速走行時の静粛性を向上させたという。
上級グレードの15RXは、ボタン一つで「ノーマル」「エコ」「スポーツ」の3種類の走行モードを切り替えることができるインテリジェントコントロールディスプレーを装備している。エコモードは、エンジン回転が低く保たれて加速が穏やかになり、燃費も向上する。同時に、エアコンの消費エネルギーも押さえるように制御するという賢さだ。スポーツモードは逆にエンジン回転が高めに保たれ、力強い加速やスポーティーな走行が楽しめる。ディスプレーには、トルクやエンジンパワー、燃費など、さまざまな情報が表示される。
今回発売されたジュークは1.5リットル・エンジンのFF(前輪駆動)モデルのみだが、秋には新開発の直噴システムと小型高効率のターボチャージャーを組み合わせた1.6リットルのモデルが発売される予定。このさいに4WD(四輪駆動)モデルが設定される。
活発な1・5リットルエンジン
試乗車は黒の15RX。個性的な外観は、販売店の店頭でも強烈に存在をアピールしている。ドアを開けるとまず目に飛び込んでくるのは真っ赤なセンターコンソール。シートにも赤い縁取りがある。シートは、クッションが堅めで腰の沈み込みも少ないヨーロッパタイプ。サイドの支えもしっかりしていて、なかなかスポーティーだ。
着座位置は高めで、先月試乗した三菱自動車のRVRと共通したイメージ。車体寸法は、排気量1.8リットルのRVRの方が全長で160mm、全幅で5mm、全高で40mm大きいが、わずかな違いだ。シートポジションが高いので前方の見晴らしがいいことに加えて、ボンネットの左右にあるフロントコンビランプがしっかり見えるので、車幅や車の先端がつかみやすい。
日産の1.5リットル・エンジンはなかなか活発だ。これまでにノートやキューブで体験しているが、ジュークではさらに改良が加えられ、最高出力が5馬力アップしている。
まずは走行モードを「ノーマル」にしてスタート。アクセルを軽く踏み込むと、エンジンの回転数を低めに保ちながらじわじわスピードを乗せていく。走行モードを「スポーツ」に切り替えて強めにアクセルを踏めば、エンジン回転数が最大トルクを発生する3500~4000回転付近まで跳ね上がり、車体が二回りほど軽くなったと思うほど元気に走ることができる。足回りがしっかりしているので、重心が高いにもかかわらず急カーブで不安定になることもない。
外観からは後部座席が狭いように見えるが、身長174cmのリポーターが座って、ひざの前にこぶし一つ分の余裕があった。大人4人が乗っての長距離ドライブも楽だろう。
日産自動車のまとめによると、ジュークの受注台数は発売から1週間で5296台と、月間販売目標(1300台)を大きく上回った。グレード別では、装備の充実した15RXが98%を占めている。下位グレードであるRSとの一番の差は走行モードの切り替え機能。多くの購入者がこの機能を評価しているのだろう。
ボディーカラーは、最も印象が強いラディアントレッド(27%)がトップで、サファイアブラック(22%)、ホワイトパール(16%)、ダークメタルグレー(14%)と続いている。興味深いのは内装色の選択で、鮮やかなレッド(57%)が落ち着いたイメージのブラック(43%)を上回っている。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴35年。紀伊民報制作部長