新車試乗記

ホンダ CR-Z

【スペック】

全長×全幅×全高=4080×1740×1395mm▽ホイールベース=2435mm▽車重=1160kg▽駆動方式=FF▽エンジン=1496cc水冷4気筒SOHC、最高出力83Kw(113馬力)/6000回転、最大トルク144Nm(14.7kg)/4800回転▽モーター=最高出力10Kw(14馬力)/1500回転、最大トルク78Nm(8.0kg)/1000回転▽トランスミッション=CVT▽車両本体価格=249万8000円

【試乗車提供】

ホンダカーズ田辺・稲成店
(田辺市稲成町46、0739・24・4500)

[2010年05月13日 UP]

 ホンダが2月に発売したスポーツタイプのハイブリッド車「CR-Z」の販売が好調だ。「1mmでも低く」をテーマに開発されたくさび形のスタイルは、それだけで自動車ファンを引き付ける魅力がある。排気量は1.5リットルだが、モーターのアシストがあるので動力性能は2リットル車並み。一方で、燃費はガソリン1リットル当たり25.0km(10・15モード)と経済的だ。

独身層にアピール


 スポーツタイプの自動車というと、主な購買層として若者を思い浮かべるが、近年言われているのは若者の車離れ。公共交通網の整備が不十分な地方では、移動の手段として自家用車が欠かせないが、これはあくまでも道具としての車。リポーターの周囲を思い浮かべても、「車が趣味」という若者はごく少ない。
 エコカーブームで、国内販売ランキングの上位には、燃費のいいハイブリッド車とコンパクトカーがずらりと並び、個性的な車や趣味性の高い車は影が薄い。
 そんな環境の中で登場したCR-Zは、異色の存在。月間販売目標は千台だったが、発売から1カ月で10倍に当たる1万台の受注があったという。購入者を年齢別に見ると、10代・20代の独身ユーザーが15%、30代以上の独身ユーザーが35%、40代以上の既婚・子離れユーザーが35%といった割合。先進的なスタイルとハイブリッド技術の結びつきが幅広い年齢層に支持されたのだろう。
 スポーツタイプの車だけあって、最近の車としては珍しく手動ミッション(6速)を用意しており、40%のユーザーが手動を選択している。

「1mmでも低く」


 エコカー減税と補助金で売れに売れているハイブリッド車だが、トヨタとホンダでは仕組みや考え方がまったく違う。国内販売トップのトヨタ・プリウスは、低速域ではモーターだけで走ることができるので、かなり電気自動車に近い。一方のホンダは「ハイブリッド車の主役はあくまでもエンジン」と主張していて、モーターはエンジンを効率よく補助する動力という考え方だ。運転した感覚は、ターボチャージャーやスーパーチャージャーに近いものがある。
 CR-Zのエンジンは、インサイト(1.3リットル)より排気量が大きい1.5リットルで、最高出力113馬力(CVTモデル)と高性能だ。これを補助するモーターは14馬力。プリウス(1.8リットル)はエンジンが99馬力、モーターが82馬力(システム合計は136馬力)。エンジンとモーターの出力からも、性格の違いがよく分かる。
 CR-Zのカタログには、ホンダのこだわりが詰まっている。真横から撮った写真が載っている見開きのページには「形は生命線だった」「課題はボンネットの高さ」「1mmでも低く」といった言葉が並ぶ。低い全高と広めの横幅、短い全長が、スポーツカーの雰囲気を漂わせている。

手動ミッションで乗りたい


 試乗車の車体色はブリリアントオレンジ・メタリック。オレンジ色というより、金色といった感じだ。車幅が1.7mを超える3ナンバー車だが、車高が低いのでかなりコンパクトに見える。
 運転席のドアを開けて乗り込んだ第一印象は「おっ、地面が近い」。車高に合わせてシート位置も低くなっているので、運転席に滑り込むと地面がすぐ横に見える。運転姿勢は、シートの背もたれを倒し気味にし、足を前に投げ出すような形。このシートはなかなかいい。カーブで体を支えるために背もたれの左右が盛り上がっているが、背中の幅が広いリポーターでもきゅうくつな感じがしない。内側の柔らかい部分と外側の強度が高い部分の2層構造になっているので、小柄な人から大柄な人までフィットするのだという。また、シートの表面にも工夫が加えられているので、足が動かしやすい。
 エンジンキーは、身につけているだけでドアの解錠やエンジンの始動ができるスマートキーシステム。トヨタはプッシュボタンでエンジンをかけるが、ホンダやダイハツはステアリングコラム横のノブを回す方式を採用している。
 プリウスは、走り出せる状態になっていてもエンジンが回っていないので、慣れるまで違和感があるが、CR-Zは始動ノブをひねるとキュルキュルとセルが回りエンジンがかかる。信号待ちでエンジンが停止するアイドリングストップ以外は、一般の車とまったく変わらない感覚で走れる。
 運転席からの前方視界は、外観から想像するよりもはるかに広々としている。大きく弧を描くフロントウインドーと新しい構造のフロントピラーで視界を確保した。くさび形のスタイルと引き換えに、左後方の視界はあまりよくないが、これは仕方のないところだろう。
 メーターは未来的なデザイン。後部座席は狭く、子どもがかろうじて乗れる程度。このタイプの車に大人4人分のスペースを求めてはいけない。
 CR-Zには、走行場面に合わせてエンジンの反応やモーターのアシスト量、ステアリングの重さ、エアコンの動作などを制御する3モードドライブシステムが採用されている。ノーマルモードは日常の扱いやすさに重点を置いた走行モード。エコモードは燃費を重視しており、CVT車では、常にエンジン回転が低めに保たれる。スポーツモードは、エンジンの反応を高めており、手動ミッション車はモーターアシストの反応も早くなるという。CVT車は、加速時はもちろん、一定速度で走っているときでもエンジン回転が高く保たれる。また、ステアリングが、はっきり分かるほど重くなる。
 スポーツタイプの車なので、足回りは堅く、路面の凹凸を敏感に拾う。その代わり、急カーブで車体の傾きは少なく、ステアリングを切った方向に気持ちよく向きを変えていく。CVT車のステアリングには、指先を動かすだけでギアチェンジができるパドルシフトが標準装備されているので、活発な走りが楽しめる。しかし、この車はやはり手動ミッションで乗ってみたい。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴35年。紀伊民報制作部長