一般的な4ドアを採用
タントシリーズの魅力は、圧倒的に広い室内。「これが本当に軽自動車なの」というほど広い。初代も広かったが、2007年に登場した2代目はさらに室内が広くなった。軽自動車の販売ランキングでもずっとワゴンR(スズキ)、ムーヴ(ダイハツ)に続く人気車種になっていたが、エグゼが加わったことで今年2月にはついにトップに立った。子育て世代の圧倒的な支持を得ているタントと、「大人のこだわり」に照準を合わせたエグゼがうまくすみ分けしているようだ。
それでは、スタンダードなタントと、エグゼの違いを見ていこう。一番の違いは何と言っても、ドアの構造。タントはセンターピラー(柱)がないスライドドアを採用していて、全開にすると幅1480mmもの開口部ができる。子育て世代のタントオーナーに聞くと、パワースライドドアを装備したグレードは、子どもを抱いていたり、大きな荷物を持っていたりするときはとても便利だという。
一方のエグゼは、「室内の広さは魅力的だが、スライドドアは不要」という層に照準を合わせている。ドアの構造を変えることで得られた最大のメリットは軽量化。エグゼはタントに比べて60kgも軽くなったので、その分燃費や加速性能が向上している。
ドアの構造だけでなく、全体のイメージもずいぶん違う。タントはフロントピラーが立っている上に鼻先(ボンネット)が短いので、真横から眺めるとダックスフントのように愛らしく見えるが、エグゼはピラーが傾斜しているので精悍(せいかん)な印象を受ける。実際には車体の全高はエグゼが20mm低いだけだが、それ以上にスマートに見える。
室内長は、タントの2160mmに対して、エグゼは2070mmで、90mm短い。それでも室内の広さは圧倒的だ。
「上質・モダン」の室内
エグゼには、女性受けしそうな優しい顔つきをしたスタンダードのシリーズと、男性的で力強い外観のカスタムの2タイプがある。エンジンは、最高出力58馬力の自然吸気エンジンが標準で、カスタムRSのみ、64馬力のターボエンジンが与えられている。
自然吸気エンジンのFF(前輪駆動)モデルはCVT(自動無段変速)との組み合わせで、ガソリン1リットル当たり21・5km(10・15モード)の好燃費を実現している。
内装は「上質」「モダン」がテーマ。広い室内を生かして、4人がゆったりくつろげる空間をつくりだしている。スタンダードなエグゼの内装色はベージュとブラックのツートン。一方のカスタムは、黒を基調にしており、いずれも落ち着いた大人の雰囲気だ。上級グレードにはセンターフロアコンソールとオーバーヘッドコンソールにイルミネーションを施しており、ラウンジのような雰囲気を演出している。
足を組んでも余裕
試乗車は、ターボエンジンを搭載したカスタムRS。乗るたびに感心するのだが、軽自動車のターボエンジンはとても力強い。最高出力は、自然吸気の58馬力に対して64馬力とわずか6馬力の差だが、最大トルクは6・6kgに対して10・5kgと大きく、この数値は1リットルクラスのコンパクトカーを上回る。
発進加速でアクセルを軽く踏み込むと、タコメーターは2000～3000回転を保ち、スムーズに力強く加速していく。エグゼはタントに比べると60kg軽いが、それでも同社の主力車種であるムーヴと比べると40kgほど重い。しかし、低速で力強いターボエンジンは、重量のハンディをほとんど感じさせない走りを提供してくれる。
カスタムRSはエグゼの中で最もスポーティーなグレード。ステアリングは、イタリアの名門モータースポーツ用品メーカー「モモ」の革巻きタイプが装着されている。径が小さめで、手にしっとりなじむ。常に手に触れている場所であるだけに、車好きにとって結構ポイントが高い。
タイヤは、カスタムRSのみ15インチのアルミホイールに165/55/R15の扁平(へんぺい)タイヤをはいている。自然吸気のカスタムは14インチのアルミホイールに155/65/R14、スタンダードのエグゼは全車、13インチのスチールホイールに145/80/R13という仕様だ。
RSはサスペンションも固められているので、重心が高めにもかかわらず、急カーブでのロール(車体の横傾き)が抑えられている。その代わり、路面の凹凸は敏感に伝わってくる。
室内の広さは折り紙付きだ。特に、後部座席の居住性は感動的ですらある。ダイハツはシートにこだわりを持っているようで、ムーヴ・コンテもいいシートを採用していた。エグゼのシートは「グラマラスコンフォートシート」と名付けられており、十分な厚みと立体的な形状が特徴。リアシートは座席下部のレバーを引くと前後に255mmスライドする。シートを最後部までスライドさせると、後部座席で足を組んでもまだたっぷり余裕がある。このときに荷室のスペースはやや狭くなるが、大人4人の長距離ドライブも快適にこなせる。
「タントとエグゼ、買うならどちら」と聞かれたら、「ライフスタイルに応じて」と答えるだろう。小さな子どもがいる家族なら、やはりスライドドアのタントが使いやすい。エグゼは、大人4人で乗る機会が多いという使い方に向いている。ドアの構造の違いもさることながら、エンジンが小さい軽自動車では、車体の重さも車選びで重要な要素。タントに比べてエグゼは大人1人分軽いから、特に出力が小さい自然吸気エンジンのモデルでは加速性能や燃費に差が出る。使い勝手やフィーリングは試乗で確かめてほしい。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴35年。紀伊民報制作部長
