新車試乗記

スズキ アルトG

【スペック】

全長×全幅×全高=3395×1475×1535mm▽ホイールベース=2400mm▽車重=760kg▽駆動方式=FF▽エンジン=660cc水冷3気筒DOHC、40Kw(54PS)/6500回転、63Nm(6・4kg)/3500回転▽トランスミッション=CVT▽車両本体価格=95万250円

【試乗車提供】

スズキアリーナ田辺・田辺スズキ販売
(田辺市下万呂567、0739・22・4416)

[2010年02月11日 UP]

 2009年12月にフルモデルチェンジしたスズキの軽自動車「アルト」は、経済的な実用車。ワゴンRやパレットといった人気のワゴンタイプに比べると地味な存在だが、今回のモデルチェンジで室内が広くなり、燃費も向上した。カーステレオやパワーウインドーなどを装備した中間グレードの車種が100万円を切るという割安な価格も魅力だ。

24.5km/Lの低燃費


 初代アルトは今から31年前、1979年の発売。新車で47万円という超低価格で世間をあっと驚かせた。徹底したコストダウンで実現したものだが、日本の自動車史上に残る名車の一台であることは確かだ。7代目になる新型アルトは「運転のしやすさ」「使い勝手の良さ」「経済性の高さ」を引き継ぎながら、燃費性能や乗り心地、扱いやすさに磨きをかけたという。
 今回のフルモデルチェンジで、新型ラパンとプラットホーム(車台)が共通になり、ホイールベース(前輪と後輪の車軸間距離)が2400mmと、旧モデルより40mm延長された。また、室内高も10mmアップ。これにより、居住空間にずいぶん余裕ができた。
 エンジンも、ワゴンRやラパンと共通の新しいタイプになった。最高出力は54馬力と変わらないが、最大トルクが6・2kg/4000回転から6・4kg/3500回転にアップした。最大トルクの発生回転が下がったことで、発進時や低速での力強さが向上した。
 燃費は、エンジンの燃焼効率がいい回転数を有効に使うCVT(自動無段変速機)のFF(前輪駆動)モデルで24・5km(10・15モード)、4AT(4速自動変速機)のFFで22・5km。AT車は従来モデルに比べて約7%燃費が良くなった。

なじみやすい操作


 外観は、女性受けしそうな丸みを帯びた愛らしいデザインになった。内装もベージュとブラウンの組み合わせで、優しくておしゃれな印象を受ける。以前試乗したラパンの内装は飛び切りおしゃれだったが、今回のアルトの内装もなかなかいい。
 初めてアルトに乗るドライバーにとってありがたいのは、空調やカーステレオの操作が分かりやすいことだ。最近の電子化されたインパネでは、使用説明書を見ないとラジオのスイッチがどこにあるのかすら分からない車もあるが、アルトの操作部分は極めてオーソドックス。例えばラジオのスイッチは、音量調節を兼ねた大きなつまみがカーステレオのど真ん中にある。エアコンの温度調節や風量調節も、昔からある回転式といった具合だ。
 シフトレバーはフロア式、サイドブレーキはレバー式。このあたりはコストダウンにも貢献しているのだろうが、フロアシフトになじんでいる中高年にはしっくりとくる。アルトの主なユーザーは、初めて車を買う独身層と、子どもが独立したあとの中高年夫婦らしいが、そういった層にはこの操作性は正解だと思う。
 試乗したアルトGは、CD・FM/AMラジオ、電動ドアミラー、パワーウインドー、キーレスエントリーなど実用的な機能を装備。さらに、CVTモデルは4輪ABS(アンチロックブレーキ)も備えている。CVTモデルは4速ATモデルより6万円ほど価格が高いが、燃費に優れることや上り坂の走行がスムーズなこと、さらに安全装備であるABSが標準であることを考えると、個人的にはCVTモデルをお薦めしたい。

広くなった室内


 新型アルトに乗り込んで最初に感心したのは、外見から想像するよりも室内が広いこと。従来、セダンタイプの軽自動車は、運転のしやすさと引き換えにきゅうくつな思いをすることがあったが、ラパンやワゴンRの流れをくむプラットホームの採用で、室内は旧モデルより確実に広くなったようだ。身長174cmのリポーターが運転席に座っても、天井までこぶし二つ分の余裕があった。また、後部座席も、ひざの前に空間ができる。この状態で、荷室にはベビーカーを載せられるスペースがあるので実用的だ。もちろん、室内の広さではワゴンRやダイハツのタントをはじめとしたワゴンタイプの軽自動車にはとてもかなわないが、日常の足として使うには合格点だと思う。
 室内をほどほどの広さにとどめた代わりに得られるメリットが、軽量な車体と運転のしやすさだ。CVTモデルで比べると、車重はラパンより30kg、ワゴンRより90kgも軽い。その分、加速も軽快だし、実用燃費でも有利だ。試乗車のデジタル式平均燃費計は、乗り込んだときに16・5kmを表示していた。試乗車には入れ替わり立ち替わりいろいろなドライバーが乗るので、表示は実用燃費にかなり近い数字だと思う。リポーターがのんびり走ったら16・6kmに向上した。省エネ運転を心掛ければさらに燃費は伸びるだろう。
 ステアリングは少し重めの設定で、パイパス道路などで安定感があった。また、小回りが利くのも特徴。最小回転半径4・2mは、軽自動車でも最小クラス。狭い場所での切り返しやUターン、車庫入れなども楽だ。
 燃費を重視しているので、通常の走行ではエンジン回転は低めに保たれる。活発に走りたい時にはシフトレバーのボタンを押してギアをSモードに切り替えればいい。エンジン回転が高めになり、バイパス道路で合流したり、急な下り坂でエンジンブレーキを強めにかけたりする時に便利だ。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴34年。紀伊民報制作部長