エンジンは2.4リットル
1リットル当たり38.0km(10・15モード)の低燃費で大ヒットになったプリウスは、1月6日以降の注文分は、納期が6月中旬以降になると告知されている。サイも人気で、発売1カ月前から受注を受け付けたところ、発売日までに1万4千台のオーダーがあったという。2009年はまさに「ハイブリッドの一人勝ち」だったが、この状況は今年も続きそうだ。
「サイ」という名前は、「才」と「彩」に由来しているという。トヨタは「才に満ちた先進性と、彩を放つ上質感を兼ね備えたハイブリッド専用セダン」と説明している。それでは、同じハイブリッド専用車であるプリウスと比較しながらサイの特徴を見ていこう。
プリウスは、統計上はセダンに分類されているが、実質的には、キャビンとトランクがつながっている5ドアハッチバック。全長4460mm、全幅1745mmと、ハッチバックとしてはやや大柄だ。これに対してサイは、独立したトランクを持つオーソドックスな4ドアセダンで、全長4605mm、全幅1770mm。全幅こそ5ナンバーサイズ(1700mm)を超えているものの、全長は5ナンバー枠(4700mm)より短い。車体の大きさは中型セダンといったところだ。
エンジンは、プリウスが1.8リットルであるのに対して、サイは2.4リットル。車両本体価格もプリウスの205万~327万円に対して、サイは338万~426万円と、2ランクほど上級に位置付けられている。トヨタのセダンで見ると、マークX(238万~380万円)と同等かやや高いという設定だ。
標準仕様でも装備は豪華
サイのグレードには、標準仕様のSと上級仕様のGがあり、それぞれASパッケージというセットオプション装着車が設定されている。「小さな高級車」というだけあって、価格が最も安いSでも装備は十分に豪華だ。HDDナビゲーションシステム、クルーズコントロール、パワーシート、車両安定制御システム、左右独立温度コントロールフルオートエアコンなどを標準装備している。Gになると、ドライビングポジションを記憶してくれる電動シートやLEDヘッドライト、フロントフォグランプなどが追加される。
走行情報やエアコン、ナビ、オーディオの表示はインパネ上部のディスプレーに集約されており、左手の手元にある「リモートタッチ」という、パソコンのマウスのようなもので操作する。オーディオとエアコンはステアリングにもスイッチがある。
室内は、全長4605mmのセダンとしては、十分なスペースを確保している。前席のシートバックを薄くしてあるので、後席の足元にも余裕がある。
サイの特徴の一つは、素材もエコにこだわっている点だ。石油資源の使用量を減らすため、植物由来のエコプラスチックを室内表面積の60%に採用しているという。このクラスになると内装の仕上げはさすがに高級感がある。
高級感と燃費の絶妙なバランス
ハイブリッド車ならではの燃費性能を最優先するならプリウスをお薦めしたい。市街地でも高速道路でも、コンパクトカーを上回る好燃費なので、期待を裏切られることはないだろう。一方のサイは、モーターのアシストで得られるハイブリッド車のメリットを、燃費改善や走行性能の向上、高級感の演出にバランスよく振り分けているという印象だ。短時間の試乗なので実用燃費は測定していないが、「次の車はハイブリッドにしてもいいかな」と思うほどよく出来ていた。
サイはトヨタの全販売チャンネルで扱っているが、今回の試乗車は、ネッツトヨタ和歌山・田辺店で借用した。紀北の支店から高速道路を自走してきたばかりなので、ハイブリッド用バッテリーの状態も万全だ。
運転席に座って、ダッシュボード右のスターターボタンを押す。エンジンは始動しないので、メーターに明かりがともる以外に変化はない。シフトレバーはプリウスと同じジョイスティックのようなタイプで、軽い力で操作できる。パーキングブレーキは、インパネのボタンを押すだけでかかる。こういった操作は、初めてプリウスに乗った時にはとまどったが、慣れれば自然に扱える。
トヨタのハイブリッド車はモーターのみで走りだし、加速時のアクセルの踏み加減に応じてエンジンが自動的に始動する。サイのエンジン始動は、プリウスよりも少しタイミングが早いような感じだ。
サイは、エンジンの音や走行音など、騒音の遮断がプリウスよりも行き届いている。このため、モーターからエンジン走行に切り替わっても、どこでエンジンがかかったのか分からないほど静かで、パワーのつながりも自然だ。
エンジンは、信号待ちの時はもちろん、走行中に少しアクセルを緩めたり、減速したりした時も頻繁に停止する。また、街中を走行していると、時速40㌔ぐらいのスピードでもモーターだけで走っている時があった。エンジンの始動と停止が常に繰り返されているのだが、ドライバーがよほどエンジンの存在を意識するか、メーター中央のエネルギーフロー表示で確認しなければ、どちらの動力で走っているのか分からないほど上手に制御されている。
バイパス道路への合流では、エンジンとモーターがフルに動き、力強くスムーズに加速する。いざという時の動力性能は3リットル車並み。それでいてコンパクトカーと同等の燃費だから満足感は高い。
「小さな高級車」の乗り心地はどうなのだろうか。足回りは、トヨタを代表する高級車クラウンのような「雲の上を走っているような滑らかさ」とは違って、しっとりしていながらもやや堅めの設定になっている。ステアリングの手応えもしっかりある。車幅が広い割に小回りが利くので扱いやすかった。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴34年。紀伊民報制作部長