1リットル当たり38キロの低燃費
ハイブリッド車は、ガソリンエンジンと高出力モーターを組み合わせて省燃費を実現している。トヨタは上級車のクラウンやミニバンのエスティマなどにもハイブリッド車を設定しているが、エコカーとして最もアピールしているのはプリウスだ。97年に発売された初代プリウスの燃費は、10・15モードで1リットル当たり28km。2003年に登場の2代目は35.5kmと画期的な燃費性能を実現した。一方で、普及のネックになっていたのは価格。高価なハイブリッドシステムを搭載するためガソリン車よりも車両価格が高く、当初は公共団体や環境に対する意識が高い人たちが購入の中心になっていた。
流れが大きく変わったのは、昨年の原油高によるガソリンの急騰。現在は落ち着きを取り戻しているものの、燃費がいいエコカーへの関心が一気に高まった。
新型プリウスは、エンジンを従来の1.5リットルから1.8リットルに置き換えて、動力性能に余裕を持たせた。ハイブリッドシステムも90%以上を新開発し、車全体でエネルギー効率を高め、世界トップの38.0kmの低燃費を実現した。
直接のライバルになるのは、ホンダが今年2月に発売したインサイト。ハイブリッド車にもかかわらず189万円からという戦略的な価格を打ち出し、4月には国内の新車販売(軽自動車を除く)でトップに立った。これに対抗するようにトヨタもプリウスに魅力的な価格を設定した。装備が最も簡素なLタイプが205万円、中心車種になりそうなSタイプが220万円である。
プリウスとインサイトの違いは
新型プリウスで最も気になるのが、インサイトとの違い。まずは車体の大きさ。プリウスは全長4460mm、全幅1745mm、高さ1490mmで3ナンバーサイズ。これに対してインサイトは全長4390mm、全幅1695mm、全高1425mmと5ナンバーサイズに収まっている。車体が小さい分、街中での取り回しはインサイトの方がやや有利だ。
一方で、室内空間はプリウスの方が広い。インサイト、プリウスともに、空気抵抗が少ないくさび形の未来的なデザインを採用しているが、後部座席の頭上空間や足元のスペースはプリウスの方が余裕がある。
それよりも、最も大きな違いは、ハイブリッドシステムに対するホンダとトヨタの考え方だ。ホンダは「ハイブリッド車の主役はあくまでもエンジン」と言い切り、1.3リットルのエンジンを小型のモーターが補助しながら走る。これに対してトヨタは、モーターのみで走行するEVドライブモードを備えるなど、より電気自動車に近い設計になっている。
実際に乗ってみると、インサイトは信号待ちでエンジンのアイドリングが停止する以外は、一般のガソリンエンジン車とまったく変わらない感覚で運転することができる。一方のプリウスは、一時停止の時にエンジンが止まっているのはもちろん、発進の時もモーターで動きだすので、一瞬、電車に乗っているような感覚になる。低速での切り返しもモーターだけで動くので、夜遅く自宅の車庫に車を入れる時などは、近所に気兼ねせずに済みそうだ。「電気で動く車に乗っている」という未来的な満足感は高い。
走り出しはモーターで
「これまでにプリウスを運転したことはありますか」
試乗に当たって、担当セールス氏が声を掛けてくれた。答えは「ノー」。
「それではちょっと説明しますね」
これまで試乗した車はすべて、運転席の位置とルームミラーを合わせれば発進準備完了だったが、プリウスだけはそうはいかなかった。一般の車とまったく違うのはシフトレバー。まるでゲーム機のジョイスティックのようだ。シフトチェンジ後のレバーはホームポジションに戻っているので、慣れるまではギアがどこに入っているのか分からずに戸惑った。パーキングに入れるときは、シフトレバーの奥にあるボタンを指先で押すだけ。その並びには、通常の走行モードに加えて、「パワー」「エコ」「EV」の三つの走行モードが選択できるボタンがある。
まずは、通常走行モードでスタートした。ブレーキを踏んで、スターターボタンを押す。普通の車ならここでキュルキュルとセルモーターが回ってエンジンがかかるが、プリウスはメーターに文字が浮き上がるだけで何も起こらない。アクセルを踏むと、かすかにモーターの回転音が聞こえて、車が動きだした。少しスピードが乗ると、いつの間にかエンジンが掛かっていた。
燃費を向上させるエコドライブモードにすると、ラフなアクセル操作をしても車が勝手に省エネ運転になるよう駆動力を制御する。意識的に強めにアクセルを踏み込んでも、ゆったりした加速をする。
パワーモードを選択すると、車の性格ががらりと変わる。エンジン回転は高めに保たれ、アクセル操作に対して車が敏感に反応する。エンジンとモーターを合わせたシステム全体の最高出力は136馬力。トヨタは「2.4リットル並みの動力性能」と説明しており、パワーモードでその力強さが実感できる。
乗り心地は、どっしりとした感じ。モーターだけで走るスタート時はもちろん、バイパス道路を走っているときでも走行音は静かで、2リットルクラスの上級車といった印象だ。
個性的なスタイルなので後方や左右の視界がどうなのか気になるが、実際に運転してみると意外なほど見やすかった。また、トランクスペースもたっぷりあり、使い勝手は良さそうだ。
トヨタはこれまで、販売系列ごとに取り扱い車種を決めていたが、プリウスは全ディーラーで扱っている。トヨタの力の入れようが分かる。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴34年。これまで、12台の愛車を乗り継いできた。紀伊民報制作部長。