リッター30kmの低燃費
ホンダによると、新型インサイトは、2月6日の発売から3月9日までの約1カ月間で約1万8000台の受注があった。月間販売計画(5000台)の3.6倍という好調ぶりだ。
昨年末から「200万円を切るのではないか」という情報が飛び交っていたが、予想を上回る189万円という戦略的な価格が打ち出された。ライバルのプリウス(トヨタ)の基本モデルが226万8000円だから、インサイトがいかに安いかが分かる。そのプリウスもフルモデルチェンジを機に価格を引き下げる見込みで、今年はハイブリッドカーから目が離せない状況になっている。
インサイトのデザインは、ホンダの先進的な環境モデルである燃料電池車FCXクラリティのデザインを踏襲している。車体の大きさは全長4390mm、全幅1695mm、全高1425mmとコンパクトで、5ナンバーサイズに収まっている。カローラのセダン(アクシオ)より全長で20mm短く、全高で35mm低い。ライバルのプリウスは全長4445mm、全幅1725mm、全高1490mmと一回り大きく、3ナンバーである。
インサイトの1.3リットルエンジンは最高出力88馬力。必要に応じて全気筒を休止する可変シリンダーシステムを採用している。これに最高出力14馬力のモーターが加わる。加速時にはモーターがエンジンをアシストし、減速時にはバッテリーに充電する。信号待ちの時にはアイドリングがストップして燃料を節約する。1リットル当たり30kmの燃費は、プリウス(35.5km)には及ばないものの、並み居る軽自動車やコンパクトカーを大きく引き離す。
いい意味で「普通の車」
「ハイブリッドカーに乗る時に、特に注意しなければならないことはありますか」
試乗に当たって、ディーラーの担当セールスに思わず聞いてしまった。
「信号で止まった時にエンジンが停止するので驚かないでください。それ以外は普通の車と変わりません」という返事だった。
早速乗り込んでみた。インサイトは全高が低いので、シート位置も低い。最近、ワゴンタイプの軽自動車など背の高い車に乗る機会が多いので、ずいぶんスポーティーに感じる。エンジンキーをひねると、始動用セルモーターの「キュルキュル」という音なしにエンジンがかかった。
加速は、出来のいいターボ車のような感じだ。プリウスがモーターの力だけで音もなく発進するのに対して、インサイトは発進の時からエンジンが回っている。加速に神経を集中していると、発進してすぐにモーターによるプラス・アルファの力が加わるのが分かる。しかし、これも意識していて初めて気が付くぐらい自然な動きなので、普通に乗っていたらまず分からないだろう。エンジンは1.3リットルだが、体感的には一回り大きい1・5リットルクラスの車に乗っている感覚だ。
インパネは未来的なデザインで、正面にはエンジン回転計と一体になったマルチインフォメーションディスプレーがある。モーターによるアシストが働いているかや、省燃費運転をしているかなどがひと目で分かる仕組みだ。
空気抵抗を減らすためにくさび形のスタイルを採用しているので、後方はやや見にくい。後席の足元はこのクラスとしては一般的なスペースを確保しているが、天井が低いので、座高が高いリポーター(身長174cm)にはちょっと圧迫感があった。
ハイブリッドカーというと、特別な走行感覚や使い方があるのかと身構えてしまうが、インサイトは「ごく普通の車」だった。モーターによるアシストは自然だし、信号待ちでのアイドリング停止・再始動も車が勝手にやってくれるので、30分も乗っているとすっかり慣れてしまう。それほど完成度が高かった。
「エコアシスト」の機能も
インサイトの車両本体価格は、ベースモデルのGが189万円、上級モデルのLが205万円、スポーティーモデルのLSが221万円となっている。発売から1カ月の販売割合は、GとLが4割ずつ、LSが2割。購入者の7割が、明るいディスチャージヘッドライトやカーナビをオプションで装着している。試乗したGタイプも、ディスチャージヘッドライトとカーナビを装着していた。
ホンダは「インサイトはハイブリッドカーといっても、主役はあくまでもエンジン」と説明している。発信加速や上り坂に差し掛かった時にはモーターがエンジンを補助するが、高速クルーズではモーターは休止し、エンジンだけで走行する。低速クルーズでは条件によってモーターだけで走行することもあるようだが、試乗中は気が付かなかった。
車がいくら省燃費設計になっているといっても、急加速や急減速を繰り返せば燃費は急激に悪化する。インサイトは、省燃費運転のこつを教える「エコアシスト」という機能で実用燃費向上を図っている。インパネ右下のECONスイッチを入れると、アイドルストップ時間の延長やエアコンの省エネ制御、エンジンの出力抑制など、燃費を優先するモードに切り替わる。また、スピードメーターの背景色は、エコドライブをしている時は緑色だが、燃料消費が多い急加速や急減速をすると青くなる。「それがどうした」と突っ込まれそうだが、こういった視覚情報は燃料の節約に意外と効果的だ。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴33年。これまで、12台の愛車を乗り継いできた。紀伊民報制作部長。