新車試乗記

トヨタ iQ100G

【スペック】

全長×全幅×全高=2985×1680×1500mm▽ホイールベース=2000mm▽車重=890kg▽駆動方式=FF▽エンジン=996cc水冷3気筒DOHC、50Kw(68馬力)/6000回転、90Nm(9.2kg)/4800回転▽トランスミッション=CVT▽車両本体価格=150万円

【試乗車提供】

ネッツトヨタ和歌山・田辺店
(田辺市新庄町1895、0739・22・4979)

[2008年12月11日 UP]

小さなプレミアム・カーは全長3メートルで3+1
トヨタのiQ(アイキュー)は、全長3mm足らずのコンパクトな車体に、大人3人が乗ることを可能にした画期的な車だ。日本・カー・オブ・ザ・イヤー2008-2009を受賞した注目の新型車に試乗した。

本当に4人乗れるの?


 横幅が広いのに、ドアから後がスパッと切り落とされたように全長が短い。タイヤは車体の四隅に押しやられている。何しろ小さい。これで乗車定員が4人。しかも大人3人が十分に乗れるなんて、車室内は一体どうなっているのだろうか。iQへの興味は尽きない。
 トヨタは、iQを「マイクロプレミアム・カー」と呼んでいる。超小型高級車という位置付けだ。小さいのに値段は安くない。車種構成は100X(車両本体価格140万円)、100G(同150万円)、100Gレザーパッケージ(同160万円)との3つだけとシンプル。いずれも最高出力68馬力の1リットル3気筒エンジンにCVT(自動無段変速機)を組み合わせている。
 iQは、エンジンルームをコンパクトにしたり燃料タンクを床下に搭載したりして室内スペースを稼ぎ出しているが、大人3人が乗れる一番のポイントは、助手席にある。助手席前方のインストルメントパネルが大きくえぐり取られているのでひざの前に空間ができ、座席を前方にスライドさせることができるのだ。これにより、助手席側の後部座席に大人が乗れるようになった。運転席側の後部座席は、さすがにスペースが最小。大柄な男性が運転席のシートポジションを合わせたら、シートバックと後部座席との間には足が入るすき間もなくなる。小柄な女性ドライバーなら、運転席の後ろに小学生ぐらいの子どもが乗れるだろう。
 全長が短いので、小回りは得意だ。最小回転半径は3.9mと、軽自動車よりも小さい。車体が軽いので、燃費も優秀。10・15モード走行燃費は1リットルクラスでトップレベルの23.0kmを実現している。

上質な乗り心地


 試乗車は、中間グレードの100G。販売店で借りてすぐに、会社の駐車場に持ち込んだ。「小さくて乗りやすそう」と、20代の女性社員。室内をひとしきりチェックして「格好いいけど、収納スペースは少ないみたい」。最近のコンパクトカーは至る所に小物入れや収納スペースが設けてあるので、つい比較してしまうようだ。
 40代の男性社員は「実質は2人乗りかな」「小回りがききそう」「しっかり作ってある」と冷静に観察。30代の男性社員は「外見から想像するよりも室内が広い」と感心していた。
 2人乗車では、助手席の足元にかなり広いスペースができる。後部座席に大人が座れるよう、助手席のシートを前方にスライドさせてみた。長距離でなければ何とか我慢できそうだ。
 それでは、ロードインプレッションをお届けしよう。大きめのドアを開けて乗り込んでまず感じるのは、内装の仕上げに高級感があること。150万円のコンパクトカーなのでぜいたくな内装材は使っていないが「丁寧な仕事をしている」という感じだ。
 運転席のスライド量は十分にあり、きゅうくつな思いをすることはない。車幅が1680mmと、軽自動車より205mmも広いので、運転席に座って前方を見ている限り、一般的な普通車を運転しているのとまったく同じ感覚だ。駐車場でバックしようとして後方を見ると「あれ、車の後ろ半分がない」と気が付く。
 同社の小型車ヴィッツやパッソと同形式の1リットルエンジンとCVTの組み合わせは絶妙だ。エンジンの出力は小さいが、トルクの豊かな低・中回転域を上手に使いながら走るよう設定されている。ゆったりと加速すると、エンジンは終始低回転に保たれる。ミッションのロックアップも早めに行われるので、実用燃費はかなり良さそうだ。
 防音対策もしっかりしている。同じ形式のエンジンを積む旧型ヴィッツに最近乗ったが、室内に入り込む騒音はiQの方がはるかに小さい。
 軽自動車よりも全長がコンパクトなiQは、ホイールベース(車軸間距離)も軽自動車より短いが、乗り心地や走行安定性は損なわれていない。運転しているうちに全長が短いことを忘れてしまうし、バイパス道路での直進安定性も十分。車幅が広いのでカーブでのロール(車体の横傾き)も小さい。
 気になったのは、左斜め後方の視界が悪いこと。幅の広いリアピラーが視界を妨げるのだ。3人乗車の場合、助手席のシート位置が運転席よりもやや前に出るので、左側はさらに見づらくなるかもしれない。

軽自動車との比較は


 iQはどういうポジションの車なのだろうか。室内の広さや荷室スペースの大きさといった使い勝手だけを考えるならば、軽自動車の方が満足感が高い。車両本体価格は軽自動車のターボ仕様とほぼ同じ。加速性能は軽ターボの方が優れている。
 実際にiQに乗ってみて感じるのは「小さな優越感」だろうか。「本当は大きい車に乗りたいのに、我慢して小さい車を選んだ」というのではなく、「街中での使い勝手や環境を考えて、あえて小さい車に乗っている」という心理だ。高級車のオーナーがセカンドカーやパーソナルカーとして所有する-。そんな購入層が見えてくる。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴33年。これまで、12台の愛車を乗り継いできた。紀伊民報制作部長。