新車試乗記

スズキ ワゴンRスティングレーT

【スペック】

全長×全幅×全高=3395×1475×1675mm▽ホイールベース=2400mm▽車重=880kg▽駆動方式=FF▽エンジン=660cc水冷3気筒DOHCターボ、47Kw(64PS)/6000回転、95Nm(9・7kg)/3000回転▽トランスミッション=CVT▽車両本体価格=141万7500円(試乗車の塗装色「スーパーブラック」は2万1000円高)

【試乗車提供】

スズキアリーナ田辺・田辺スズキ販売
(田辺市下万呂567、0739・22・4416)

[2008年11月13日 UP]

国内の自動車販売で5年連続日本一を続けているスズキのワゴンRがフルモデルチェンジし、4代目が登場した。
ひと目でワゴンRと分かるスタイルを継承しながら、室内を広くしたり燃費を改善したりするなど、着実に進化した。親しみやすい外観の「ワゴンR」と個性的な「ワゴンRスティングレー」の2つのシリーズがある。

より広く、使いやすく


 1993年に登場した初代ワゴンRは、日本の自動車史上に残る名車だ。背の高い個性的なスタイルが広い室内空間を生み出し、軽自動車を「小さくて狭い車」から「小さいのに広い車」に変えた。その後も人気は続き、先代(3代目)はモデル末期の今年8月でさえも、国内の自動車販売でトップの座を守った。
 超人気車は、モデルチェンジでどう変わったのだろうか。車の骨格に当たるプラットホーム(車台)は、今年1月に発売された「パレット」がベース。室内の広さや乗り心地に影響するホイールベース(前輪と後輪の軸間距離)は先代より40mm長い2400mm、室内長は105mm長い1975mmになった。
 スタイルは、ワゴンRらしさを保ちながら新しさを感じさせる。真横から見ると、リアからフロントにかけてルーフラインが緩やかに下がるくさび形のデザインを採用し、精悍(せいかん)なイメージを演出している。真後ろから見たスタイルは先代とそっくりだ。
 エンジンは、自然吸気の直列3気筒DOHC(54馬力)と、ターボチャージャー(過給器)を装備した高出力エンジン(64馬力)の2種類。自然吸気エンジンは低速トルクを向上し、街中で一段と使いやすくした。CVT(自動無段変速機)との組み合わせで、ガソリン1リットル当たり23.0km(10・15モード)の低燃費を実現した。
 ターボエンジンは、過給圧を高めることで出力を4馬力アップした。一方で、ガソリン1リットル当たり21.5km(CVT)の燃費性能を達成している。
 価格設定(車両本体価格)は、ワゴンRが90万8250円(2WD、4速AT/5速手動)~146万6850円(4WDターボ、CVT)、スティングレーは125万4750円(2WD、4速AT)~167万1600円(4WDターボ、CVT)。

バランスが取れた1台


 「新しいワゴンRに試乗するのなら、ぜひスティングレーのターボモデルに乗ってください」と販売店からの推薦。自然吸気エンジンの54馬力に対してターボエンジンは64馬力と強力だが、単に高出力のエンジンを載せただけの車ではなかった。ノーマル仕様とスティングレーのターボは「まったく別の車」だった。
 ノーマル仕様のワゴンRは価格、使い勝手、居住性能、走行性能、スタイルなど、さまざまな点でバランスが取れた車だ。「同じ車がたくさん走っている」ということを除けば、愛車にして不満はない。実はわが家でも、ワゴンRを3台乗り継いでいる。
 ワゴンRの後席は左右独立して前後にスライドするので、乗車人数や荷物の量に応じて乗員スペースと荷室スペースの配分を調節できる。室内長が伸びたので、後席のゆとりは格段にアップした。また、新型は床面がフラットになったので足元もすっきりした。
 ドライバーにとってうれしい変更点は、オートマのシフトレバーがコラム式からインパネ式に変わったこと。コラム式のシフトレバーは、力の入れ具合によって意図しないギアポジションに入ってしまうことが多いが、インパネシフトは確実な操作ができる。
 エンジンの始動は、リモコンを携帯していればプッシュボタンを押すだけのキーレスプッシュスタートシステム。ライバルのダイハツは、キーレスだがスイッチをひねって始動するタイプだ。慣れればどちらも使いやすい。
 ノーマル仕様の走行感覚は先代と共通した素直なもので、運転席に座ったときの目線の高さもほぼ同じ。加速の際に出るCVT独特の音もずいぶん小さくなった。

ターボの実力は?


 ノーマル仕様のワゴンRは、先代の完成度をより高めているが、スティングレーのターボは軽自動車の枠をはみ出した車に仕上がっている。
 まず、ターボエンジンとCVTの相性がとてもいい。低速からスムーズに力強く加速するので、アクセルを静かに踏み込んでいるにもかかわらず、気づかないうちに制限速度を超えるほどのスピードに達していることがあった。
 加速中のエンジン音は低い音質で、軽自動車とは思えないほど静かだ。メーカーの広報資料によると、スティングレーはエンジンルームに吸音処理をしたり、ダッシュサイドパネル内に吸音材を入れたりといった騒音対策をしているという。ノーマル仕様のワゴンRも先代より静かになったが、スティングレーはさらにワンランク上だった。
 足回りは、ノーマル仕様がソフトなのに対して、スティングレーは引き締まった設定。ホイールベースが延長された効果もあってか、どっしりと落ち着いた感触があり、これも軽自動車離れしている。
 ターボ車に採用されている「パドルシフト」は、ステアリングコラム左側に装着されたレバーを手前に引くとシフトダウン、右側のレバーを手前に引くとシフトアップされる。シフトレバーをMレンジにすると、マニュアルミッションのように自在にギアチェンジができる。このパドルシフトが便利なのは、D(ドライブ)レンジでも操作できる点だ。急な下り坂やカーブの入り口でエンジンブレーキを効かせたいときに、左手の指先をちょっと動かすだけで一時的にマニュアルモードに切り替わり、シフトダウンしてくれる。そのまま走行していれば、Dレンジに自動的に復帰する。
 ノーマル仕様で装備が充実したFXリミテッドとスティングレーTとの価格差はCVT仕様で23万円余り。バランスのノーマル仕様か、軽自動車離れしたターボか-。いざ購入するとなると悩ましい選択だ。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴33年。これまで、12台の愛車を乗り継いできた。紀伊民報制作部長。