タントのライバル
パレットはタントと同じく、広い室内と子育て世代の使い勝手を追求した軽自動車だ。室内長はタントの方が長く、室内高はパレットの方がやや高いが、どちらも軽自動車としては驚異的な広さを実現している。
実際に、数字を比べてみよう。パレットの室内長は2025mm。対するタントは2160mmで、タントが135mm長い。床から天井までの高さは、パレットが1365mm、タントが1355mmと、わずかな差でパレットの勝ち。車両の全高はパレットの方が15mm低いが、床を低くすることで室内高をかせいでいる。実際に試乗してみると、どちらも大人4人が乗るのに十分な広さがあり、後席に座った時の足元の余裕もたっぷりだ。
ライバルとして最も大きな違いは、後部ドアの形式。タントの後部ドアは、左側(助手席側)がピラーレスのスライドドア、右側(運転席側)が一般的なヒンジ式のドア。左側は、後部のスライドドアと助手席のヒンジドアを同時に開けると1480mmもの広い開口部ができる。
一方のパレットは、左右ともスライドドアで、開口幅は580mm。スーパーマーケットの駐車場などで運転席側から子どもが降りる時でも、隣の車にドアが当たる心配がない。助手席側は、5グレードのうち4グレードがパワースライドドア。運転席側は上級の2グレードがパワースライドドア、中級の2グレードは手動だが、最後の一押しが自動で閉まるスライドドアクローザーを備えている。
エンジンは、最高出力54馬力の自然吸気エンジンと、低回転から余裕の力を発揮する60馬力のターボエンジンの2種類。変速機は全車種がインパネシフトの4速オートマチックで、CVT(自動無段変速)の設定はない。
パレットとタントの室内の広さは、数字の上ではともかく、実用上はほぼ互角。購入を検討するのなら、どちらの機能が自分の使い方に合っているかや、外観の好みで選べばいいだろう。
頭上に大きな空間
試乗したパレットは、中級グレードのX。中級グレードといっても、携帯リモコンを身に着けていればエンジンの始動、停止をプッシュボタンで行える「キーレスプッシュスタートシステム」やパワースライドドア(後席左側)、フルオートエアコンなどを標準装備している。
運転席に座って驚くのは、天井が高いこと。思わず見上げてしまうほどの高さがある。シートはソフトだが、背もたれの両端が少し堅めにできているので、カーブなどで体をしっかり支えてくれる。
走り出してまず感じるのは、乗り心地の良さ。同社のベストセラー「ワゴンR」よりもゆったりとした乗り心地で、一回り大きな車に乗っているような感覚だ。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)がワゴンRに比べて40mm延長された効果なのだろうか。サスペンションも、道路の細かい振動を良く吸収してくれる。
室内を広くした分、車重が重くなっているので、活発な加速はしないが、街中を走るには必要十分な加速性能を備えている。エンジンの出力に余裕がない軽自動車の場合、自動変速機のギアが上り坂で頻繁に切り替わりストレスを感じることがあるが、パレットの4速ATは不要な変速を抑えるよう設定されているのでいらいらすることがない。
自転車が載る
「何でこんなに天井が高いのだろう」
そんな疑問はカタログを見ていて解消した。パレットの室内の高さは、27インチの自転車を立てたまま載せられるように設計されているようだ。
自転車通学している子どもが授業を受けている間に雨が降ってきた。車で迎えに行って、子どもと自転車を載せて帰ってくる。そんな場面でパレットは強い味方だ。
後部座席は、背もたれを座面側に倒し、さらに少し持ち上げるようにして前にずらすと荷室とフラットになる。地面から荷室下部までの高さは535mmと低く、そこから荷室開口部の最上部までは1100mmもあるので、自転車に限らず大きな荷物を楽に積むことができる。
小物の収納スペースもたっぷりある。ユニークなのは、保冷機能付き助手席アッパーボックス。エアコンの冷たい風を導入する収納ボックスで、500mlのペットボトルが2本入る。軽自動車では初めての採用という。
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パレットを試乗しながら、国内の自動車販売でトップを走るワゴンRのことを考えていた。ワゴンRは価格や運転性能、デザインなど総合的にとてもバランスのいい車で、年内にフルモデルチェンジを予定しているというのに人気はまったく衰えていない。新しいワゴンRはたぶん、パレットの車台(プラットホーム)をベースに一段と進化して登場するのだろう。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴32年。これまで、12台の愛車を乗り継いできた。紀伊民報制作部長。