スライドドアを採用
軽自動車は、全長3.4m、全幅1.48m、排気量660ccという規格の中で、室内の広さや使い勝手、走行性能、低燃費などを競っている。背が高いスズキ・ワゴンRの登場で軽自動車の室内は一気に広くなったが、その中でも初代タントは抜きんでた存在だった。後部座席は3ナンバーサイズのセダンよりもひざ元に余裕があるほどで、大人4人がゆったりと乗れる室内スペースを確保していた。
これをさらに広げたのが、2006年10月に発売されたダイハツの新型ムーヴ。タントより110mmも室内長が長い。これで限界かと思われたが、新型タントはムーヴよりもさらに60mm長い2160mmの室内長を実現した。ダイハツはこれを「ミラクルスペース」と呼んでいるが、本当に魔法のようだ。
今回のモデルチェンジでは、室内の拡大とともに、助手席側の後部ドアにスライドドアを採用したので、狭い駐車場で隣の車を気にせずにドアが開けられるようになった。このスライドドアはセンターピラーがないので、助手席のドアも開けると合わせて1480mmもの幅広い開口部ができる。上級車種には、ノブを軽く操作するだけで自動的にドアが開いたり閉まったりするパワースライドドアを採用している。軽自動車だというのに、至れり尽くせりだ。
室内高は1355mmもあるので、平均的な身長の小学3、4年生なら、立ったまま車内を移動したり着替えをしたりできる。床が平らなので移動もスムーズだ。
シリーズは、女性好みの優しい顔つきをした「タント」と、精悍(せいかん)なスタイルの「タントカスタム」がある。両シリーズともエンジンは、58馬力の自然吸気エンジンが標準。カスタムRSだけ64馬力のターボエンジンを積む。
普通車並みの走り
試乗車の提供は、田辺ダイハツ販売。ヴェネチアンレッドメタリックのタントと黒のタントカスタムRSが用意されていた。いずれも真横から見ると、ダックスフントのように胴長で鼻先が短い愛らしい姿。正面からだとタントは優しくてユーモラス、カスタムは力強く見える。
まず試乗したのはカスタムRS。自然吸気エンジンとターボエンジンの最高出力の差はわずか6馬力だが、トルクは自然吸気の6.6kgに対してターボは10.5kgと大きな差がある。
ムーヴカスタムの試乗でも実感したが、このターボエンジンは軽自動車に普通車並みの走りをもたらす。アクセルを深く踏み込まなくても低速から力強い加速が得られ、ストレスなく走ることができる。2車線のバイパス道路でも、余裕を持って追い越しがかけられる。
シートはしっかりした腰があり、着座位置は高め。背が高いために車の重心も高いが、堅めの足回りを採用しているRSはロール(横傾き)が少なく、急なカーブでも素直に回っていく。
58馬力のエンジンを積むタントは、穏やかな顔つきにふさわしいソフトな乗り味だ。シートは柔らかくて、ゆったりした気分になる。室内スペースを大きくしたために車重は重く、同じぐらいのグレードのムーヴと比べて80~100kg増加している。このため、加速は穏やかだ。
室内は驚くほど広い。身長174cmのリポーターに運転席を合わせてから後部座席に座ったら、ひざの前に30cmもの余裕があった。後部座席で足を組むのも楽々。とても軽自動車とは思えない。
もしもタントをファーストカーとして使うなら、価格は高いが、強力なターボエンジンを積むRSがお薦め。乗車定員が4人ということを除けば、普通車と同等の満足感が得られる。使い勝手と価格のバランスでは、ターボなしの車種が選択肢になる。
子育てファミリーに照準
「子育てファミリー」の使い勝手を徹底的に考えたというタントは、開発の段階で子育て中の母親や小さい子どもの意見を取り入れたという。
後席天井には、タオルなどが収納できる大型のコンソールを採用(車種によって標準装備またはオプション)。助手席のシートを倒すとシートバックがテーブルになるアイデアは、駐車した車内で子どもに食事やおやつを食べさせるのに便利だ。また、最上級車種には、汚れても水ふきができるフローリングフロアを軽自動車で初めて採用した。
「運転が苦手」という人のための装備もいろいろ工夫されている。リバース連動ドアミラーは、ギアをバックに入れると左側のドアミラーが自動的に下向きになって左後輪付近を見やすくする装備。フロントワイパー作動時にバックに入れるとリアワイパーが自動的に動くリバース連動リアワイパーもある。
新型タントの販売は好調だ。1月の国内市場では、ワゴンR(スズキ)、フィット(ホンダ)、ムーヴ(ダイハツ)に続いて4位にランクされた。広さや使い勝手を実感するためには、試乗をお薦めする。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴32年。これまで、12台の愛車を乗り継いできた。紀伊民報制作部長。