パンダの面影も 愛着のわくデザイン
外観はガソリン仕様のN|ONEをベースにしながらも、印象が大きく変わった。エンジン冷却用に設けられていた下部の大きな開口部がなくなり、EVらしい端正な顔立ちに。丸形ヘッドライトをつなぐように一直線の黒いパネルを配置し、愛嬌(あいきょう)のある表情を生み出している。先日白浜町を去った4頭のパンダたちを思わせる造形で、思わず笑みがこぼれる。
ボディー全体は丸みを帯び、昭和のレトロな雰囲気が漂う。給電口はフロントグリルに巧みに組み込まれており、デザインとの一体感が見事。左側に普通充電、右側に急速充電の2口を備える。下位グレード「e:G」では急速充電はオプションとなるが、実用性は十分だ。上級グレード「e:L」のホイールには切削加工が施され、上品で洗練された印象を与える。
すごく静かで、低重心 軽とは思えない上質さ
走り出してまず驚かされるのは、EV特有の静粛性と滑らかな加速だ。アクセルを踏み込んだ瞬間から力強く、市街地ではストレスなく走ることができた。薄型バッテリーを座面下に配置することで低重心化を実現。コーナリングでは軽自動車とは思えない安定感を発揮した。
坂道もパワフルに登る。スポーティーさより快適性を重視した味付けで、ステアリングは軽快。車内は驚くほど静かで、エアコンを切るとわずかにモーター音が聞こえる程度。ロードノイズの侵入も少なく、軽自動車とは思えない上質な静粛性を実現している。一方で、高速走行時には風切り音がやや気になる場面もあったが、全体として快適性は高い。
アクセルペダルだけで加減速を調整できる「シングルペダルコントロール」も搭載。アクセルを離すと強めの回生ブレーキが作動し、最終的には完全停止まで可能だ。初めは減速の強さに戸惑うが、慣れるとブレーキ操作がほとんど必要としない快適な走行が楽しめる。
軽EVでも妥協なし 安心の航続距離
ホンダならではの実用性も健在だ。室内は4人乗車でも必要十分な余裕がある。後席の座面を跳ね上げて広い縦空間を作る「チップアップ・ダイブダウン機構」により、自転車や車いすなど背の高い荷物も積める。後席を倒せばフラットで広い荷室が現れ、幅広い用途に対応できる。
航続距離はWLTCモードで295㌔と、軽EVではトップクラス。これまで購入をためらう要因だった「航続距離への不安」を大きく和らげる。さらに、停電時や災害時には住宅用蓄電池として車両から電力を供給できる機能も備える。
シートは適度な弾力があり、長時間乗っても疲れにくい。運転支援システムやスマートフォンとの連携機能も充実しており、安全性と利便性を両立している。
滑らかさに感激 補助金でより身近に
この車は、ホンダならではの快適性と、EV特有の静粛性・力強さを両立した一台だった。変速ショックが一切なく、風に押されてスーッと進むヨットのように静かに、しかし確実にスピードが乗っていく。筆者は初めてEVを運転したが、その滑らかな加速に感動した。
コンパクトなサイズと軽いステアリングで取り回しがしやすく、道幅の狭い山あいの集落へ取材に行く時にも重宝しそうだ。シートアレンジも多彩で、日常の買い物や通勤はもちろん、ちょっとした遠出にも安心して使える性能を備えている。初めてEVに乗る人や、街乗り中心で考えている人に特におすすめしたい。
価格はガソリン車より高めだが、購入を補助する国の「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」の対象で、最大57万4千円の交付を受けられる。補助制度を上手に活用すれば、現実的な選択肢となるだろう。
リポータープロフィル
【伊藤大翔】 紀伊民報記者