普通免許が必要
「電動トゥクトゥクに試乗してみますか」と声をかけてくれたのは田辺市に営業支店を持つIT企業「IP DREAM(アイピー・ドリーム)」の冨士利郎さん。「なぜIT企業がトゥクトゥクを」という話はさておき、二つ返事でお願いした。
トゥクトゥクは、タイなど東南アジアでタクシーなどに使われている三輪車の総称。3人乗りの電動トゥクトゥクはモーターで走るEV(電気自動車)で、正式には「側車付軽二輪」という車輌。ハンドルやスロットル、ブレーキは二輪車のスクーターと同じ。車よりも二輪車に近い。
初めて見るトゥクトゥクは、分からないことばかり。冨士さんにいろいろと聞いてみた。
--免許は、自動二輪、それとも普通自動車免許?
「普通自動車免許(オートマ限定可)が必要です」
--スピードはどれくらい出るの?
「時速50kmでリミッターが働くようになっています。一般道のほとんどは制限速度が50km以下なので、不自由することはありません。自動車専用道を走ることはできません」
--ヘルメットは要るの?
「ヘルメットはかぶらなくても大丈夫です」
--シートベルトは?
「なくてもいいのですが、試乗車は安全のためシートベルトがあります」
--バック(後退)はできるの?
「シフトボタンの切り替えでバックができます」
--充電方法と、1回の充電で走ることができる距離は?
「バッテリーを取り外して、家庭用コンセント(AC100V)で充電します。1回の充電で約70km走ることができます。電気代は100円程度です」
--維持費はいくらぐらいかかる?
「側車付軽二輪は車検がなく、車庫証明も不要です。自動車税は3600円と経済的です」
開放感たっぷり
観光地ではレンタカーとしても使われているトゥクトゥク。軽く名所巡りをしようということになり、まずは冨士さんの運転で、和歌山県田辺市秋津町の紀伊民報本社から、上秋津の「秋津野ガルテン」を目指した。
後部座席は薄い座布団を敷いたような仕立て。車幅は1mしかないが、大人でも何とか2人掛けすることができる。シートベルトは、運転席は自動車と同じ3点式、後部座席は腰に回す2点式になっている。
3人が乗車して、いざスタート。運転に慣れた冨士さんは、制限速度50kmの道をすいすい走る。大人3人が乗っても、平らな道なら自動車に後れを取らないようにきびきびと加速する。モーターで走るので、走行音は静かだ。雨の日や冬には車体の左右にカバー(オプション)を張ることができるが、この日は開放したまま走った。乗り心地は堅めで、ゴトゴトという振動が伝わってくるが、初夏の風が心地よい。
ガルテンではまず、記事用の写真を撮影。冨士さんに一通り操作を教えてもらった後「駐車場で少し練習してみてください」という声に促され、いよいよトゥクトゥク初体験。「発進加速が鋭いので、アクセルはゆっくり開けてください」とアドバイスを受けた。
運転席に座ってハンドルを握った感じは、大型バイクのような雰囲気。普段、原付き二種(125cc)のバイクに乗るが、トゥクトゥクの運転感覚は異質だった。バイクは曲がりたい方向に車体を傾けることで自然にハンドルが切れ込んでいくが、三輪車であるトゥクトゥクは車体が傾かないので、ハンドルだけで向きを変える。最初はつい、重心移動で曲がろうとしてしまい、向きが変わらずにあせった。
駐車場を2周ほどして、何となくこつがつかめたので、冨士さんと運転を交代。田辺市内のパワースポットの一つ、秋葉神社(田辺市芳養町)を目指した。
巨岩の割れ目が参道に
トゥクトゥクの発進加速は鋭く、大人が3人乗っても不自由はなかった。急な上り坂では車速を保つのにアクセルを全開にしたが、ノロノロ運転になって「上らない~」というようなことはなかった。道路のうねりや補修跡にハンドルが敏感に反応するので、慣れるまでは慎重に運転した。
秋葉神社は、巨岩(幅8m、高さ10m)の割れ目が参道になっていて、その姿に圧倒される。岩の裏手に社殿を祭ったところ、一夜にして岩が左右に引き裂かれて道ができたという言い伝えがある。
鳥居前に至る道は狭いが、小回りが利くトゥクトゥクは楽に通ることができた。
このトゥクトゥク、二輪車のような爽快感や手軽さは、天気のいい日の観光利用にぴったり。また、「車の運転は少し控えたいが、免許を返納したら日常生活が不便になる」という高齢者の移動手段にも使えそうだ。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴50年。紀伊民報制作部長