エンジンは2.5リットル
クロストレックには、最高出力145馬力の水平対向2リットルエンジンを13.6馬力のモーターで補助するマイルドHVのモデルがある。今回追加されたストロングHVは、最上級モデルという位置付けだ。
ストロングHVの技術は、トヨタのTHSⅡを採用した。走行条件に応じて「モーター」「エンジン」「モーター+エンジン」を効率よく切り替える。
2.5リットルエンジンは最高出力160馬力、最大トルク21.3kg。これに組み合わせるモーターは119.6馬力、27.5kgとなっている。
国際的な燃費の基準であるWLTCモードの数値は、ガソリン1リットル当たり18.9km。モード別に見ると、市街地は15.4km、道路が20.6km、高速道路が19.7km。マイルドHVのモデルは総合で15.8km、市街地12.9km、郊外16.0km、高速17.3kmなので、14~29%の向上となる。
THSIIを採用しているトヨタ車の四輪駆動モデル(電気式4WDシステム)は、後輪を駆動するために専用のモーターを搭載している。後輪用モーターは2種類あり、小型車のアクアやヤリスクロスは5~6馬力と出力が小さい。滑りやすい路面での発進やぬかるみからの脱出などには有効だが、速度が高い領域では働かない。カローラクロスやLAV4など車体の大きなモデルには40~50馬力の強力なモーターを採用しており、幅広い速度域で走行をアシストする。
これに対してクロストレックのAWDは、ガソリン車と同様の機械式を採用。前と後ろの車輪がプロペラシャフトでつながっているので、速度域や路面状況にかかわらず四輪駆動の恩恵を受けることができる。
完成度が高いHV
クロストレックの車体は全長4480mm、全幅1800mm、全高1575mm。通常このクラスは1.5~2リットルのエンジンを搭載しているのに対して、クロストレックのS:HEVはクラスを超える2.5リットルの大排気量。強力なモーターとの組み合わせで、パワーにはかなり余裕がある。
試乗では、スバル初のストロングHVのフィーリングを確かめた。結論から先に言えば、完成度はとても高い。発進はモーターが受け持ち、かすかな電動音を響かせながら滑らかに加速する。速度が上がるとエンジンが始動するが、メーター内の表示を見ていないと分からないほど動力の引き継ぎはスムーズだ。また、その際のエンジン音が小さいので、モーターで走っているのかエンジンで走っているのか区別がつかないほどだ。
高速道路の合流などでアクセルを深く踏み込むと、このパワーユニットは別の顔を見せる。水平対向エンジンは力強い排気音を響かせながら1660kgの車体を一気にスピードに乗せる。軽快というよりも重厚な加速感だ。
どっしりした安定感
ストロングHVの採用により車重は約100kg増加した。これに対応してサスペンションのセッティングも変更されたという。マイルドHVのモデルは、柔らかくてしなやかな足回りが印象に残ったが、ストロングHVはだいぶ引き締められていた。それでも乗り心地は良好で、走行中もどっしりとした安定感があった。試乗の日は風が強かったが、高速道路で横風に吹かれてもステアリングを取られるようなことはなかった。
出色だったのは、ブレーキのフィーリング。ストロングHVは減速時に回生ブレーキでエネルギーを回収するが、本家であるトヨタのHVは停止の瞬間にギュッとブレーキがかかり、ぎこちない挙動をするモデルがある。昔風の表現をすれば「カックン・ブレーキ」。これに対してクロストレックのブレーキは、ガソリン車と変わらない自然な利きでじわりと停止し、気持ち良く運転することができた。
ストロングHVになってもう一つの改良点は、ガソリンタンクの大型化。マイルドHVの48リットルから63リットルに、15リットルも「増量」された。走行条件にもよるが、満タンでざっと千kmの走行が可能になる。高速道路を利用した長距離移動などで頼りになりそうだ。
安全運転の支援には、三つのカメラで衝突事故を防止する「アイサイト」を搭載。上級グレードのEXには、高速道路の渋滞時に手放し運転を補助したり、カーブに合わせて車速を自動的に落としたりする「アイサイトX」も装備している。
クロストレックのストロングHVは最上級モデルということもあって、車両本体価格が高めの設定。装備が異なるので直接の比較にはならないが、マイルドHVの上級グレード「リミテッド」のAWDモデルが344万8500円であるのに対して、ストロングHVのプレミアムS:HEV・EXは405万3500円。価格差はおよそ60万円となる。
優れた動力性能と燃費の改善をどう評価するかが選択の分かれ目になりそうだ。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴49年。紀伊民報制作部長