4メートルを切る車体
「スズキらしくないデザイン」と言っては失礼だが、フロンクスのフロントマスクはりりしくて存在感がある。一見ヘッドランプに見えるのはウインカーも兼ねたデイライト。ヘッドランプはフロントグリルの低い位置にあり、ハイビームとロービームが独立している。
車体の大きさは全長3995mm、全幅1765mm、全高1550mm。4mを切る全長は、小型SUVとして人気のトヨタ・ライズやダイハツ・ロッキーと同じ。1765mmの全幅は、競合車種であるトヨタ・ヤリスクロスと同寸法となっている。小さな車体を生かして、最小回転半径4.8mを実現。ヤリスクロスの5.3mに比べて50cmも小さい。街中での取り回しに優れている。また、1550mmの全高は機械式(立体)駐車場が利用できる高さなので、都市部での利用にも便利だ。
パワーユニットは、最高出力101馬力(四輪駆動車は99馬力)の1.5リットル4気筒エンジンを3.1馬力のモーターで補助するマイルドハイブリッド。ガソリン1リットル当たりの燃費は19.0km(WLTCモード)と、純粋なガソリン車よりも優秀。トランスミッションはこのクラスとしては珍しく6速ATを採用しており、手元で変速ができるパドルシフトも備えている。
標準装備が充実
インドから輸入することもあって、フロンクスは単一グレードという設定。その代わりに装備が充実している。
販売店オプションで取り付けると高価な9インチのスマホ連携ナビや、映像で周囲の安全確認ができる全方位モニターを標準装備。電動パーキングブレーキ・ブレーキホールド機能を備えているので、ACC(オートクルーズコントロール)は高速走行から渋滞での停止まで全速度に追従する。
安全装備では、衝突被害軽減ブレーキはもちろん、斜め後方から接近する車両を検知するブラインドスポットモニターや、バックで駐車場から出る際に左右から接近する車両を検知するリアクロストラフィックアラートを備える。
運転席と助手席のシートヒーターやスマホのワイヤレス充電機能、後部座席用のUSB端子、ドライバーの視野に走行速度やナビの案内などを映すヘッドアップディスプレーなど、必要な装備はほぼ網羅している。追加したい販売店オプションはドライブレコーダー、ETC車載器、フロアマットぐらいだろう。
車両本体価格はFF(前輪駆動車)で254万1千円。同じくインドから輸入しているホンダのWR-V(209万8800円~248万9300円)に比べてやや高いが、装備の充実ぶりを考えると割安に感じる。
上質な乗り心地
多くのコンパクトカーが採用しているCVT(自動無段変速機)は急な加速をする際にエンジン回転の上昇と車速が比例しないが、フロンクスの6速ATはエンジン音の高まりに合わせて車速が増していくので気持ちいい。アクセルペダルを深く踏み込んだときの排気音は低音でたくましい。
エンジンの出力は、同じ1.5リットルのWR-V(118馬力)やヤリスクロスのガソリン車(120馬力)よりも小さいが、発進の際にはモーターのアシストが加わるので、試乗の範囲ではパワー不足は感じなかった。
ナンバーを取ったばかりの新車ということもあって乗り心地には堅さがあったが、路面がざらついた場所や、補修跡が多い区間でのサスペンションの動きは良かった。また、一定の速度で高速道路を走っているときの車内は割合に静か。トンネルに入った際にも騒音が大きくならなかったのが印象的だった。小型SUVとしては静粛性に優れ、上質な乗り心地だった。
ハンドリングは素直。急なカーブでステアリングを大きく切り込むと、カーブの外側に車体が引っ張られるアンダーステアを感じるが、車高の高さを意識せずに運転することができる。
4mを切る車体にもかかわらず後部座席は広く、身長172cmのリポーターに運転席を合わせてリアシートに座ると、膝の前には握り拳縦二つ分の空間ができた。ライバルのヤリスクロスに比べるとずいぶん広い。
座席のスペースが広い分、荷室の奥行きは浅くなるが、床のラゲッジボードをはずすと高さに余裕ができる。旅行用の38リットルのキャリーケースを縦に並べると、4個収納できるという。
フロンクスの月間販売目標は千台だが、発売から2週間で1万台を超える受注があり、納車には半年以上かかる見込み。2024~25日本カー・オブ・ザ・イヤーの「10ベストカー」(イヤーカーの候補)にも選ばれており、人気車種になりそうだ。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴49年。紀伊民報制作部長