フル充電で180km走行
サクラの車体は全長3395mm、全幅1475mm、全高1655mm。軽自動車の規格に収まっており、最小回転半径も4.8mと小回りが利く。
23年度(23年4月~24年3月)の販売台数は3万4083台。EVの国内販売シェアは41%になった。
買い物や通勤など日常の利用に割り切って、満充電での航続距離を180km(WLTCモード)と短くしたことが特徴。バッテリーの容量を小さくすることでコストを抑えた。車両本体価格は、装備がシンプルなXグレードで259万9300円、上級グレードのGで308万2200円となっている。
EVの購入には国の補助金があり、サクラの場合は55万円。これを差し引くと、車両の価格は実質200万~250万円。オプションや登録の諸経費などを含めても250万~300万円前後で購入できる。
自動車の価格はここ数年急激に上がっており、ガソリンの軽自動車でも車両本体価格が200万円を超える車種もある。それにもう少し予算を足すとサクラが買えるという計算だ。
維持費はガソリン車に比べてEVの方が安い。「自宅で普通充電をする場合の電気代は、ガソリン代に比べて5分の1程度が目安です」(日産プリンス和歌山販売)という。家庭用ソーラー発電からEVに充電すれば電気代はさらに節約できる。
一方で、出先で急速充電器を利用したり、そのための充電認証カード(月額制)を持ったりすると電気代の負担は大きくなる。
日常での利用に照準
日常生活での利用に割り切ったサクラ。軽自動車ユーザーの1日の平均走行距離は30~50km程度とされており、そのような使い方だと2~3日に1度の充電で済む。
試乗車はほぼ満充電の状態で販売店をスタート。途中、写真撮影の際にチェックしたところ電池残量91%で、走行可能距離は137kmと表示されていた。逆算すると、満充電での走行可能距離は約150kmで、カタログデータ(180km)に対して84%となる。
このときに、バッテリー1kWh当たり何キロ走れるかという「電費」は9kmと表示されていた。サクラのバッテリーは20kWhなので、そこから単純計算した航続距離は180km。そこで生まれた30kmの差は、メーター表示で電池残量がゼロになっても少しは走れるという安全マージンなのかもしれない。
EVの利用でもう一つ気になるのが、バッテリー残量が少なくなった際の「継ぎ足し充電」。サクラはどれぐらい走行距離が伸びるのだろうか。高速道路のサービスエリアや道の駅、公共施設などにある充電ステーションは1回の充電を30分で切り上げるのがルール。サクラの場合、電池残量20%で50kWの急速充電器につなぐと、30分でおよそ80%まで回復。走行可能距離は100~120km延びるという。
優れた動力性能と快適性
電気自動車として経済的で使い勝手のいいサクラだが、その一番の魅力は軽自動車離れした動力性能と静粛性、乗り心地の良さだ。
モーターの出力は軽のターボエンジン車と同じ64馬力。最大トルクはターボ車が10kg前後であるに対して、ほぼ2倍の19.9kgもある。これは2リットルのガソリンエンジンに相当する数値。その大トルクをスタートの瞬間から発揮するので、力強く滑らかに加速する。しかも、ハイブリッド車(HV)と違いエンジンからの騒音がないので、無音のまま速度だけが増していく。防音対策がしっかりしているので路面からの騒音も少なく、室内の静粛性が高い。
乗り心地も軽自動車とは思えないほど優れている。サクラはバッテリーを床下に積んでいるので、車重は1070~1080kgと重量級。しかし、車重が重いことがゆったりした乗り心地につながっている。重心が低いので、操縦性も素直だ。
主に自宅周辺で利用するのなら、満充電での航続距離が少ないサクラのようなEVは便利で経済的だ。一方で、1回の走行距離が200~300kmといった使い方や、長距離ドライブに利用するのなら、HVやガソリン車の方がストレスは少ないだろう。ライフスタイルに合った車を選びたい。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴49年。紀伊民報制作部長