四つのバリエーション
1955(昭和30)年に「純国産乗用車」として誕生したクラウンは、トヨタにとって特別な車だ。高度成長期には、車を乗り換えるごとに上級車種に移行するのがドライバーの目標だった。その頂点にあったのがクラウン。しかし、近年は人気が低迷していた。
2022年に登場した16代目は、それまでの「国内専用のセダン」という殻を破り、第1弾としてクーペスタイルの「クロスオーバー」が発売された。これに「スポーツ」と「セダン」が続き、「エステート」の発売も予告されている。
先行して発売されたクロスオーバーは、フロントからリアにかけてルーフがなだらかに下がっているのに対して、スポーツはルーフが急角度で下がるハッチバックのようなスタイルになっている。
フロントのデザインは、クロスオーバーが厚みのあるフロントグリルに細目のヘッドライトを備えているのに対して、スポーツは、ヘッドライトがあるはずの場所はデイライトで、実際のヘッドライトはフォグランプのように低い位置に配置されている。
さらに個性的なのは、大きく張り出したリアフェンダー。左右が絞り込まれたキャビンの形状と合わせて、躍動感たっぷりだ。
パワーユニットは2.5リットルエンジンをベースにしたハイブリッド(HV)と、外部から充電が可能なプラグインハイブリッド(PHV)の2種類。駆動方式は電気式の四輪駆動(E-Four)のみとなっている。
2.5リットルHVは、186馬力の自然吸気エンジンとフロント120馬力、リア54馬力のモーターを組み合わせている。システム最高出力は234馬力。
PHVはエンジンの出力を177馬力に抑えているが、フロントモーターは182馬力と強力。システム最高出力は306馬力に達している。
グレードはHVがZ(車両本体価格590万円)、PHVがRS(同765万円)のみとシンプルだ。
大柄なのに軽快
試乗車を運転してすぐに伝わってくるのは上質な乗り心地。21インチの大径タイヤを履いているにもかかわらず、荒れた路面でもざらつきを感じない。室内の静粛性も高い。外観はスポーツカーのように研ぎ澄まされた鋭さがあるが、ステアリングを握っていると必要以上に急な加速をしたり、荒っぽい運転をしたりという気にはならない。
大柄な車体にもかかわらず、コーナリングは軽快だ。大きく回り込む山道でもステアリングの動きに合わせて素直に向きを変えてくれる。この制御には、車速に応じて後輪の向きを前輪と逆向きまたは同じ向きに切るDRS(ダイナミック・リア・ステアリング)という技術が使われている。
低速や中速域では前輪と逆向きに後輪を切ることで小回りが利くようにしたり軽快なコーナリング特性を生み出したりしている。高速域では前輪と同じ方向に切ることでどっしりした安定性を得ている。
落ち着いた空間
内装色はブラウンとブラックが用意されており、今回の試乗車はブラウンが基調だった。特徴的なのは、周囲がぐるりと囲まれたような助手席の空間。心地よさや安心感が得られるようデザインされたそうだ。また、助手席はブラウン、運転席は黒が基調という非対称の配色も取り入れている。
後部座席はゆったりした気分で座れる落ち着いた空間だが、かつて後席重視の車だったという先入観があると狭く感じる。身長172cmのリポーターが座ると、膝前の余裕は握り拳縦一つ分ぐらい。クーペスタイルのクロスオーバーよりもやや狭かった。
Zグレードに必要なオプションを追加して登録諸費用を加えると、総額はざっと700万円。上級車種を所有するにはそれなりの覚悟が必要だ。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴49年。紀伊民報制作部長