パワーは1.6倍に
大きく傾いたフロントウインドー、薄くシャープなフロントグリル、滑らかな面で構成された側面のシルエットなどは、これまでのプリウスとは方向性が異なったデザインだ。車体の全長は先代より60mm長い4600mm、全幅が20mm広い1780mmであるのに対して、全高は45mm低い1430mm。広く、低く、低重心になった。
歴代のプリウスはそれぞれ、「セダン」という位置付けの中でその時代を先取りした未来的なデザインが採用されてきたが、5代目はその枠組みから一歩踏み出したようだ。
もう一つ注目されるのは、2リットルエンジンをベースにした新しいパワーユニット。エンジンは最高出力152馬力、最大トルク19.2kg、モーターは113馬力、21.0kgを発生し、システム最高出力は196馬力。これは従来の1.8リットル(122馬力)のユニットの1.6倍に相当する。
パワーアップの一方で燃費は改善されている。従来車はガソリン1リットル当たり27.2km(WLTCモード)だったが、排気量が増えながらも28.6kmに向上している。
同時に発表された1.8リットルの新モデルは、電動モジュールの刷新で32.6kmの低燃費を実現した。こちらは月額払いのサービス「KINTO」の専用モデルになっている。
新型プリウスは発売以来予約注文が殺到。乗用車全般の生産が遅れていることから、受注については各販売店に問い合わせてほしい。
滑らかな乗り心地
試乗車は、HVの最上級グレード「Z」の前輪駆動モデル。シートの表皮は高級感のある合成皮革で、しかも前席の座面と背もたれには熱気を吸い込むベンチレーション機能があり、夏でも快適に座れるようになっている。
大きく傾いたフロントガラスは、前方の視界が狭いのではないかという先入観があったが、運転席に座ってみると全く気にならなかった。ドライバーの頭上に近い所までガラスが広がっているので圧迫感も少なかった。
最高出力196馬力のパワーユニットはさすがに強力。アクセルをじわりと踏めばモーターだけでスムーズに発進し、強く踏めばモーターとエンジンが協調してぐいぐい加速する。追い越し加速や上り坂での加速も思いのままだ。
3月に追加されたPHEV(プラグインハイブリッド)モデルはさらに動力性能に優れる。システム最高出力は223馬力となり、停止状態から時速100kmまでわずか6.7秒で加速する。本格的なスポーツカー並みの性能だ。
プリウスの外観はスポーツカーのようだが、乗り心地は滑らか。サスペンションは路面の凹凸やざらつきを上手に吸収し、不快な音や振動をカットしてくれる。
重心が低いので、コーナリング中のロール(車体の傾き)は小さい。一方でステアリングの切れ方は外観から想像するほどスポーティーではなく、「穏やか」「滑らか」といった表現が似合う。切れ味が鋭いトヨタの86やマツダ・ロードスター、スズキ・スイフトスポーツといったスポーティーモデルとは比較できない。
風切り音も小さく
高速道路の走行は快適だ。運転支援の車線維持機能は強力。道路の曲がり具合に合わせてステアリングをしっかり修正してくれるので、車任せで走っていられる。
また、外観からも分かるように車体の空気抵抗が少なく、高速走行中の風切り音がとても小さい。これも車内の静粛性につながっているようだ。
荷室は、床面がバンパーから大きく掘り下げられており、天井が低いにもかかわらず容量は大きい。奥行きもたっぷりあり、カタログ値で410リットルの容量を確保している。
世界のHV市場をリードしてきたプリウスだが、より燃費に優れたアクア(現行ヤリス)の登場やシエンタ、カローラなど多くの車種にHVの採用が広がったことで存在感が薄れていた。今回のモデルチェンジでは個性を際立たせるため、思い切ったデザインを採用した形だ。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴48年。紀伊民報制作部長
