新車試乗記

手軽な電気自動車

三菱自動車 ekクロスEV

【スペック】

全長×全幅×全高=3395×1475×1655mm▽ホイールベース=2495mm▽車重=1080kg▽駆動方式=FF▽モーター=47kW(2302-10455回転)/195Nm(0-2302回転)▽駆動用バッテリー=20kWh▽一充電走行距離=180km(WLTCモード)▽車両本体価格=293万2600円(Pグレード)

【試乗車提供】

和歌山三菱自動車販売田辺店
(田辺市新庄町1934、0739・22・5019)

[2022年9月8日 UP]

 三菱自動車は軽自動車タイプの電気自動車(BEV)「ekクロスEV」を発売した。近距離での利用を想定して、フル充電時の走行距離を180km(WLTCモード)にすることで価格を抑えた。軽自動車の水準を超えた静かで力強い走りが特徴だ。

フル充電で180km走行


 日産自動車との協業で誕生したモデル。日産は「サクラ」として販売している。
 ekクロスEVは、ガソリン車のekクロスシリーズにバリエーションを追加したという位置付けで、外観もフロントグリル以外はほとんど違いがない。サクラは、デイズシリーズとは異なる専用のデザインが与えられている。
 ekクロスEVの車両本体価格はベーシックなGグレードで239万8千円、装備の充実したPグレードが293万2600円。これに国の補助金が55万円付くので、実質200万円前後の購入金額になる。
 補助金は、サクラやekクロスEVの販売台数が多いため、本年度分の枠が10月末ぐらいでいっぱいになる見込み。車両の登録がそれ以降になる場合、年度内に補正予算が組まれるのか来年度の予算枠になるのかは未定。ekクロスEVの購入を急ぐ場合、販売店に在庫車があれば10月末までに納車が可能という。
 家庭で充電するためには200Vの充電設備が必要。設置費用は5万5千円が目安だが、設置場所や駐車位置との関係、工事の内容などにより金額が大きく変わるという。
 「電費」は走り方やクーラーの使い方などにもよるが、180kmのカタログデータに対して街乗りでは8割程度になるそうだ。軽自動車ユーザーの平均的な走行距離は1日およそ50kmとされており、1回のフル充電で2日程度の使用を見込んでいる。

軽とは思えない走り


 試乗車は電池残量98%の状態で、走行可能距離が130kmと表示されていた。だいぶ短めに出たが、これは前回乗った人の電費を基に計算しているためだという。
 軽自動車タイプのBEVに乗るのは初めてだが、スムーズな発進には感心した。アクセルを踏むと、小さな車体は無音で加速。その静かさと乗り心地の良さは軽自動車離れしている。
 最高出力は軽自動車の自主規制である64馬力に抑えられている。しかし最大トルクは2リットルガソリンエンジン並みの195Nmもあるので力強く加速する。
 ワゴンタイプなので背が高いが、走行用のバッテリーを床下に配置しているので重心が低く、急なカーブでも姿勢は安定している。車重は1tを超え、軽自動車としては重量級。それがかえって車体の揺れ方などに落ち着きを与えている。
 アクセルの踏み具合で加減速を調節できる、いわゆる「ワンペダルドライブ」はスイッチで切り替える。街中の走行ではブレーキペダルへの踏み替えがぐっと減り、運転がとても楽になる。

遠出がしたくなる?


 試乗車はメーカーオプションをフル装備。自動駐車システム「マイパイロット・パーキング」は、駐車枠を指定してボタンを押し続けると前進・後退の切り替えやステアリングの切り返し、アクセル、ブレーキの操作を自動でしてくれる。試してみたら、駐車枠の真ん中にぴったり入り、十分実用的であることが確認できた。
 後部座席は、成人男性でも楽に足が組めるほど広い。リアシートはリクライニング機能付き。前後スライドは左右一体で動くタイプで、調整幅は大きい。内装は、ドアの一部を布張りにしたり、プラスチック部分にしぼ風の加工を採用したりするなど、コストが厳しい軽自動車としては頑張った仕上げになっている。
 ekクロスEVのユーザーとして想定されるのは、買い物や通勤、近所への外出などで1日に20~30km程度走る人という。一方で、県内でも和歌山市や新宮市に出掛けようと思うと、出先で充電しなければ帰って来られないので、充電スポットの下調べが必要になる。
 電気で走るという経済性に加えて、軽自動車としては別格の快適性を備えていた。それが、長距離を走りたい気持ちにさせる点がかえってストレスにつながるかもしれない。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴47年。紀伊民報制作部長