新車試乗記

電気で走るSUV

日産 アリア

【スペック】

全長×全幅×全高=4595×1850×1655mm▽ホイールベース=2775mm▽車重=1920kg▽駆動方式=FF▽モーター=160kW(218馬力)/5950~1万3000回転、300Nm(30.6kg)/0~4392回転▽バッテリーサイズ=66kWh▽1充電走行距離=470km(WLTCモード)▽車両本体価格=539万円

【試乗車提供】

日産プリンス和歌山販売田辺支店
(田辺市上の山1丁目8の16、0739・22・8132)

[2022年6月9日 UP]

 日産自動車のアリアは、電気で走るスポーツタイプ多目的車(SUV)。大きめのバッテリーを積むことで、フル充電で最大470km走ることができる(WLTCモード)。室内の静粛性は高く、走りは滑らか。最近の車では珍しく、報道発表資料に0-100km加速のデータを掲載しているのも性能への自信の表れだろう。

1充電で470km


 背が高いアリアの外観はかなりボリュームがあるが、横から見るとクーペのようにスポーティーに見える。5ドアハッチバックの電気自動車(BEV)「リーフ」が全長4480×全幅1790×全高1540mmであるのに対して、アリアはそれぞれ4595、1850、1655mmと一回り大きい。
 搭載のモーターは、リーフが最高出力110kW(150馬力)、最大トルク320Nm(32.6kg)。アリアは160kW(218馬力)、300Nm(30.6kg)と一段と強力だ。
 試乗車は66kWhのバッテリーを搭載しており、フル充電での走行可能距離は最大470km。さらに91kWhのモデルも発表されており、こちらは600km以上走ることができる。
 大柄なアリアだが、乗り込んでみると、視界がいい上にシートの調節幅が広く、小柄な女性でも適切な運転ポジションが得られる。
 室内のデザインはシンプルでありながら上質。エアコンの温度調節や走行モードの切り替えといったスイッチ類のほとんどは凹凸のないデザインになっている。運転席正面のディスプレーには、車速やナビ情報、運転支援機能の作動状況などが表示される。ステアリングが小さいので、運転ポジションによっては情報の一部が隠れてしまうのが少し気になった。

どこまでも静かに


 ドライブモードはエコ、スタンダード、スポーツの3種類。さらに、アクセルペダルを戻すことでブレーキが利く「eペダル」のオン・オフが設定できる。
 まずはエコモードで発進した。モーターだけで走るBEVの加速は圧倒的に静かで滑らかだ。ハイブリッド車(HV)ならエンジンが始動して騒がしくなるような急加速をしても、どこまでも静かに速度が増していく。気を付けておかないと、いつの間にか制限速度を超えていたということになりかねない。
 メーカーが公表した0-100kmの加速は7.5秒。7秒台の数値は乗用車としてかなり高性能だ。さらに、250kWの強力なモーターを積む4輪駆動モデルは5.4秒と、スポーツカー並みの加速をする。
 eペダルはアクセルだけで加減速がコントロールできるので便利だ。初期のeペダルは完全停止までアクセルペダルだけで制御できる「ワンペダルドライブ」が売り物だったが、第2世代は停止前にブレーキ機能が解除され、ブレーキペダルに踏み替えて完全停止する仕様になった。ブレーキを離すと徐行する「クリープ」も残されているので、車庫入れや切り返しの際にぎくしゃくせずに済む。
 市街地の走行では、先行車との車間調節や交差点の右左折でブレーキペダルに足を踏み替えることが減り、慣れてしまえば運転がとても楽になる。動作も一段と洗練され、急にアクセルを離しても頭をガクンと前にもって行かれるような急減速をしないようチューニングされていた。
 山間部では、カーブの進入時に減速し、出口で加速するという一連の動作をブレーキとアクセルの踏み替えなしにできるので、リズミカルに走ることができる。
 アクセルを緩めてのブレーキ機能は時速5kmぐらいで解除されるが、個人的にはもう少し低い速度まで利くとさらに運転しやすくなると感じた。

重厚感のある走り


 車重が2t近いので重厚感があり、乗り心地はいい。路面の補修跡が多い場所を走ると多少コツコツとした感触が伝わってきて、足回りが引き締められていることを実感する。
 背が高いが、コーナリングの姿勢は安定している。重量が重いバッテリーが低い位置に置かれているので車自体の重心が低いのだろう。
 高速道では運転支援機能「プロパイロット」を試した。ステアリング横の青いボタンを押すと正面のディスプレーに「SET-で設定」という案内表示が出た。最近の車は操作が複雑になっており、使い方を随時教えてくれる機能はありがたい。レーンキープ機能が働くと、カーブでも安定して車線を維持してくれる。
 高速走行では、路面から伝わるロードノイズや車体の風切り音がとても小さく、エアコンから吹き出すかすかな風の音が気になるほど静か。かつて、ロールスロイスの静粛性を表現するのに「車内で一番うるさいのは車載のアナログ時計の音」という名言があったが、アリアはこれを「エアコンの風」と言い換えてもいいかもしれない。
 後方を確認するインテリジェントミラーは、カメラを通した映像を鮮明に映してくれる。リアシートに人が乗っていたり、荷室に荷物がたっぷり積み込まれていたりしてもじゃまにならないのがメリット。ただし、実際よりも後続車が接近しているように映るので、初めての運転ではあおられていると錯覚するかもしれない。
 試乗車にはメーカーオプションのパノラミックガラスサンルーフが装着されていた。シェードを全開にすると、後席の頭上まで広々としたガラス空間が広がる。
 自宅用の充電設備は3タイプあり、200V(充電能力3kW)の場合、フル充電にかかる時間は25.5時間。充電スタンドでの急速充電時間は45~65分となっている。購入に当たっては、装備によって85万~92万円の補助金が受けられる。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴47年。紀伊民報制作部長