すっきりと幅広に
シビックは、誕生当初は小型の大衆車だったが、モデルチェンジごとに大きく豪華になり、11代目は高級スポーティーカーと言えるほどの車格になった。
先代は一見、ガンダムを思わせるようなプラモデル的な造形だったが、新型はすっきりしたクーペスタイルに生まれ変わった。車幅は1800mmで変わらないが、全長は30mm延長され、全高は20mm低くなった。これにより、一段と低重心で幅広く見えるデザインになった。
運転ポジションも低めで、スポーツカー的。それでいて前方や左右の見切りがいいので運転しやすい。デザインを重視した車の宿命で、リアハッチが寝ているために後方だけはやや見にくい。
試乗車の1.5リットルターボエンジンは182馬力を発生するハイオク(無鉛プレミアム)仕様。オートマ車だが、最大トルクは先代のマニュアル車と同じ24.5kgを発生する。
このエンジンはとてもスムーズで滑らかに回る。気を付けていないといつの間にか制限速度を超えてしまうほどだ。一定速度から追い越しのためにアクセルを踏んだ際の反応も早く、ターボエンジン特有の遅れ(ターボラグ)は感じられなかった。低い回転から力があり、峠道を楽しみたくなるようなエンジンだ。
ホンダは2040年以降ガソリン車を販売しないという「EV宣言」をしており、純粋なエンジン車は徐々に姿を消していくのだろう。シビックにも間もなく、エンジンで発電してモーターで走るe:HEVのモデルが追加される予定。そちらの走りも楽しみだ。
滑らかな足回り
足回りは、引き締められていながらも動きが滑らか。路面がざらついた場所や補修跡が多い場所を走っても細かい振動を吸収してくれるので、ドライバーに伝わってくる感触は柔らかい。マンホールの上を通過した際のショックも上手にいなしてくれる。スポーティーな外観に反して乗り心地は良く、高級車と言っていいほどの仕上がりだ。
ハンドリングは素直。大きめの車体にもかかわらずコーナーでは切った方向にすっと頭が入る。あまりにも素直なのでカタログを読み直したところ、コーナーへの進入時や立ち上がりの際に内側前輪のブレーキを制御して回頭性を高めるアジャイルハンドリングアシストという機能が採用されているそうだ。
ドライブモードは手元でスポーツ、ノーマル、エコに切り替え可能。燃費を重視したエコモードでは加速がまったりして、ターボエンジンの気持ち良さが損なわれてしまう。走り全体の爽快感もなくなってしまうので、通常はノーマルモードで走るのがよさそうだ。
高速道路では、安全運転支援システム「ホンダセンシング」の車線維持支援システムが緩やかなカーブでもきっちり車線中央をトレースしてくれる。ホンダセンシングには今回のモデルチェンジで新たに渋滞運転支援機能が採用された。高速走行に加えて、停止状態から時速65kmまでの速度域でも先行車との車間を保ちながら走行車線を維持するようアクセル、ブレーキ、ステアリングの操作を補助する。
高速道路の静粛性もまずまずだが、一般路も含めてタイヤが発生する「シャー」というかすかなノイズが気になった。写真撮影時に銘柄を確認したところ、グッドイヤーの高性能タイヤが装着されていた。静粛性や乗り心地の良さを重視するのなら履き替えの際に、快適性の高い銘柄を選ぶのがいいだろう。
HVモデルに期待
メーターの表示は、シンプルで見やすいアナログタイプ。内装は、ソフトパッドを多用してすっきりと上質に仕上げている。ダッシュボードにあしらわれた横一線のハニカム模様が個性的だ。
リアシートは深くえぐれていて座り心地が良く、後席用のエアコンの吹き出し口も備えている。ホイールベースの延長により前席と後席の間隔は35mm広くなり、足元は外観から想像するより広い。荷室は奥行きがあって実用性が高い。容量はクラストップレベルの452リットルあるそうだ。
新型シビックは、スポーティーでコーナリングが楽しめ、しかも乗り心地がいいという三拍子そろった車。1.5リットルターボエンジンもアクセル操作に応じて気持ちよく吹き上がる。一方で、燃料はハイオクになりWLTCモードの燃費はリッター16.3kmと、ガソリン価格が高騰している中で経済的に厳しい。それだけに後続のe:HEVモデルの動力性能や仕上がりに期待が高まる。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴47年。紀伊民報制作部長