新車試乗記

100万円台前半の経済車

スズキ アルト

【スペック】

全長×全幅×全高=3395×1475×1525mm▽ホイールベース=2460mm▽車重=700kg▽駆動方式=FF▽エンジン=657cc水冷3気筒DOHC、36kW(49馬力)/6500回転、58Nm(5.9kg)/5000回転▽モーター=1.9kW(2.6馬力)/1500回転、40Nm(4.1kg)/100回転▽トランスミッション=CVT▽燃料消費率=27.7km(WLTCモード)▽車両本体価格=109万7800円(ハイブリッドS)

【試乗車提供】

スズキアリーナ田辺・田辺スズキ販売
(田辺市下万呂567、0739・22・4416)

[2022年4月14日 UP]

 質素な実用車として42年の歴史を持つスズキの軽自動車「アルト」がフルモデルチェンジを受け、9代目が誕生した。丸みを帯びた親しみやすいデザインを採用。夜間の歩行者を検知する安全機能や六つのエアバッグを全グレードに標準装備しながら、車両本体価格を100万円台前半に抑えた経済車だ。

愛らしい姿に変身


 8代目のアルトは鉄仮面のような個性的な顔つきをしていたが、新型は女性に人気がある「ラパン」の後継車と言ってもおかしくないほど愛らしい姿に生まれ変わった。2トーンカラーが設定されているのも女性ユーザーを意識してのことだろう。それでいて、営業車として男性が乗っても恥ずかしくないスタイルになっている。
 試乗車は中間グレードの「ハイブリッドS」。最高出力49馬力のエンジンを2.6馬力のモーターで補助するマイルドハイブリッド(HV)を採用している。カタログ燃費はガソリン1リットル当たり27.7km(WLTCモード)。HVでないグレードの燃費は25.2kmなので、1割の改善になる。これに予防安全機能をフル装備して車両本体価格が109万7800円というのは、日常の足として大きな魅力だ。
 スタートでは、アクセルを踏んだ最初の一転がりでモーターのアシストを感じ取ることができる。エンジンも活発に回り、加速は軽快だ。勾配が急な上り坂でも、アクセルを深く踏み込めば元気に走ってくれる。700kgという軽い車重が貢献しているのだろう。
 ハンドリングは良く言うと穏やか、意地悪な評価をすると鈍い。万人向きの味付けなので、誰にでも運転しやすい。足回りは中庸で、乗り味はすっきりしている。車体が軽いにもかかわらず補修跡のある路面でがたがたと跳ねることも少なく、乗り心地は悪くない。

安全装備を充実


 ベーシックな車なので、内装は質素で手堅くまとめられている。インパネには大きなスピードメーターがどんと座り、エアコンは風量や温度をダイヤルで調節するマニュアル方式。操作がシンプルなので、初めて乗った人や高齢者でも迷わず操作できるという安心感がある。
 フロントシートのヘッドレストは高さや角度が調整できない一体型だが、それで特に困るということはない。ワゴンタイプほどではないが後部座席はそこそこ広く、身長172cmのリポーターが座ると、膝前に握り拳縦一つ半の余裕があった。天井も頭上に縦一つ半の空間があり、大人が4人乗ってもきゅうくつな思いをせずに済む。
 スズキが得意とするリアシートの前後スライド機能は省かれている。背もたれは5対5の分割可倒ではなく、一体で倒れるタイプ。荷室の奥行きがフル乗車時には425mmと狭いので、使い勝手はやや落ちる。シートの背もたれを前に倒せば荷室はフラットになるので、荷物を載せることが多いビジネス用途では、2人乗りと割り切って使えばいい。
 安全装備は充実している。夜間の歩行者も検知する衝突被害軽減ブレーキをはじめ、ブレーキとアクセルの踏み間違いによる急発進を防ぐ誤発進抑制機能(前後方向)や、後方の障害物にぶつからないようブレーキが動作する後退時ブレーキサポートなどを全グレードに標準装備。さらにオプションで、車の周囲を映像で確認できる全方位モニターを装着することができる。

優れた燃費性能


 アルトは、軽い車体とマイルドHVの組み合わせにより、大きなモーターを使うストロングHV並みの燃費を実現している。カタログ燃費は、市街地24.0km▽郊外29.2km▽高速道路28.6kmとなっており、総合で27.7km(いずれもWLTCモード)。
 実際の燃費性能はどうなのだろうか。短時間の試乗で燃費を評価するのは難しいが、試しに燃費計をリセットして紀勢自動車道の上富田-南紀田辺インターチェンジ間を走ってみた。制限速度よりやや遅い時速60km程度で流れていたこともあって数字はどんどん伸び、田辺インターを下りたときには35.8kmと表示していた。条件が良かったとはいえリッター30kmを超える車は少なく、日常の利用でも優れた燃費を期待できそうだ。
 高速道路の直進安定性もまずまず。コストの関係で吸音材などはぜいたくに使えないだろうが、車内に入り込んでくる音も特に騒がしいことはなく、標準的だった。高速道路を含めて100km圏内の移動であれば、ビジネス利用でも個人利用でも不満はなさそうだ。
 軽自動車に使いやすさと経済性を求めるのなら、100万円台前半の車としてとても良くできているし、さらに安全装備も充実している。「実用的な軽自動車」という初代アルトの志をしっかり受け継いだ車だ。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴47年。紀伊民報制作部長